第6回 パワハラ防止法

2020年7月1日

年々増加傾向にある職場での対人関係によるトラブル。従業員のメンタル不調の原因として最も多いのが「職場の人間関係」と言われており、中でも「上司との人間関係」がその大半を占めると言われています。大手広告会社に勤める女性社員が過労自殺した要因の一つとして、上司によるパワハラも指摘されています。こうした現状を受け、政府はハラスメントによる職場環境の悪化に歯止めをかけるために防止策の法制化を進めました。そして2020年6月1日、通称「パワハラ防止法」と呼ばれる改正労働施策総合推進法(※1)が施行され、企業の職場におけるパワハラ対策が義務化されました。これにより各企業は、後に述べるパワハラを防止するための措置を必ず講じなければなりません。なお、中小企業は2022年4月1日に適用されるまでのおよそ2年間は努力義務となります。

※1:正式名称は「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」

職場におけるパワハラの定義

2020年1月15日に告示された厚生労働省の指針によると、①優越的な関係を背景とした言動で、②業務上必要かつ相当な範囲をこえたものにより、③労働者の就業環境が害されるものであり、①~③までの要素を全て満たすものと定義されています。

①の「優越的な関係」というのは、上司と部下の関係に限らず、先輩と後輩、成績優秀者とそれ以外の者、正社員と契約社員、営業社員と事務社員など、職場におけるあらゆる人間同士の言動等も対象になります。

②の「業務上必要かつ相当な範囲をこえたもの」というのは、下表の通り、具体的に6類型に分類されています。

類型 パワハラに該当する例 該当しないと考えられる例
身体的攻撃 殴打や足蹴りをする、髪を引っ張る、物を投げつけるなど 誤ってぶつかる、物をぶつけてしまうなど
精神的攻撃 人格を否定するような言動、侮辱的な言動、同僚の前で叱責を繰り返すなど 遅刻や勤務態度等に対して強い口調で注意するなど
人間関係
切り離し
集団無視、別室への隔離、不必要な自宅待機を強制など 新人研修等を会議室で集中的に行うなど
過大な要求 明らかに遂行不可能な業務を強制、業務に関係ない私的な雑用等を強制するなど 繁忙期やクレーム処理等、通常よりも多い業務処理をさせるなど
過小な要求 能力や経験とかけ離れた程度の低い業務を命じる、故意に仕事を与えないなど 急激な経営不振等による自宅待機、体調不良時に簡易な業務につかせるなど
個の侵害 職場以外での継続的な監視や私的な写真撮影を強要、同意無く個人情報の暴露など 本人了解のうえ個人情報等を人事に伝え、配慮を促すなど

また、「仕事を強制すると、パワハラになるのでは?」とか「相手がパワハラと感じればパワハラなのでは?」と思われている方が多く見受けられますが、それは間違いです。 「業務上必要でかつ相当な範囲」をこえない指示、注意、指導等は、たとえ相手が不満を開示したとしても、直ちにパワハラとはなりません。

③の「就業環境が害されるもの」とは、労働者が能力を発揮するのに重大な悪影響を及ぼすような看過できない程度の支障のことを指します。この状況に該当するかどうかは、たとえば精神的苦痛を与えられた労働者本人がどう感じているかではなく、「平均的な労働者の感じ方」として就業するうえで看過できない程度の支障が生じるかどうかが基準となります。

職場におけるパワハラ防止のために講ずべき措置

前述の通り、パワハラ防止法が施行されたことにより、企業はパワハラ防止のために以下の措置を必ず講じなければなりません。

  • 事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発
    自社の職場におけるパワハラの内容等を明確化したうえで従業員に周知・啓発し、また、行為者についての厳正な対処内容を就業規則等に明文化し、従業員に周知・啓発すること。
  • 相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
    相談窓口をあらかじめ定めて従業員に周知、また、窓口担当者が相談内容や状況に応じて適切に対応できるように体制を整備すること。
  • 職場におけるパワハラに係る事後の迅速かつ適切な対応
    事実関係を迅速かつ正確に確認し、速やかに被害者に対する配慮のための措置を適正に行うこと。また、行為者に対する措置を適正に行い、再発防止に向けた措置を講ずること。
  • その他併せて講ずべき措置
    相談者・行為者のプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、その旨従業員に周知すること。また、相談したこと等を理由として、解雇その他不利益な取扱いをされない旨を定め(※2)、従業員に周知・啓発すること。

※2:相談したこと等を理由として、解雇その他不利益な取扱いは法律上禁止されています

中小企業が義務化されるのは2年後だからまだ大丈夫だと思うのではなく、コロナ禍の混乱時だからこそ、余計な訴訟リスクを軽減するためにも早めに整備することをお薦めいたします。

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