第15回 同一労働同一賃金の対応1

2021年3月31日

2018年6月に成立した働き方改革関連法により、中小企業においては2019年4月より順次、様々な改正法が適用されてきました。そしていよいよ2021年4月1日より「同一労働同一賃金」(「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」<パートタイム・有期雇用労働法>)が施行されます。この法律の最大の目的は、正社員と短時間・有期雇用労働者(以下、「非正規労働者」という)との間の不合理な待遇差を解消し、非正規労働者が雇用形態に関わらず、その能力等を適正に評価される労働環境を整えることにあります。

大企業ではすでに2020年4月1日より導入され、「第10回労務管理トピックス」でもお伝えした通り、非正規労働者と正社員との待遇差に関して争われた複数の裁判で、最高裁判決が出されました。

弊社にも「アルバイトにも賞与や退職金を支払わなければいけないのか?」「皆勤手当や住宅手当をどうすれば良いのか?」「契約社員にも結婚休暇が必要か?」等々、多くの問い合わせがあります。そこで今回と次回は、「同一労働同一賃金」の基本的な考え方を簡単に説明したうえで、特に問い合わせが多い事項についてどのように対応すれば良いのか、最高裁での判決内容や厚生労働省のガイドラインを踏まえてポイントを述べたいと思います。

※「短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針」

均衡待遇と均等待遇

「同一労働同一賃金」は、その言葉自体、法律上のどこにもありません。「同一労働同一賃金」の基本となる考え方は、パートタイム・有期雇用労働法(以下、「パート有期法」といいます)の8条(均衡待遇)と9条(均等待遇)に定義されています。(下記表参照)

均衡待遇(パート有期法8条) 均等待遇(パート有期法9条)
正社員と非正規労働者との間で、職務の内容((1)業務内容・(2)責任の程度)、(3)職務の内容・配置の変更範囲、(4)その他の事情を考慮して、不合理な待遇差は禁止 正社員と非正規労働者との間で、職務の内容((1)業務内容・(2)責任の程度)、(3)職務の内容・配置の変更範囲が同一である場合は、短時間・有期雇用労働者であることを理由とした差別的取り扱いは禁止
<違いがあれば、違いに応じて!> <同一であれば、同一!>

「均衡待遇」と「均等待遇」に照らし合わせて考えると、職務内容等((1)業務内容(2)責任の程度(3)人事異動や転勤の有無、範囲(4)その他の事情)に違いがあるのであれば、その違いに応じて合理的な説明がつく範囲の待遇差は問題ありませんが、職務内容等に全く違いがないのであれば、待遇に差はつけられないということになります。また、職務内容等に違いがあったとしても、一律的に支払われる手当等は、その目的によっては、差をつけられない場合もありますので、手当やその待遇の一つ一つを慎重に検証する必要があります。

1.基本給

一般的に基本給は労働者の能力や経験、業務内容、責任の程度等によって多くの支給基準が存在しますが、「均衡待遇(違いがあれば、違いに応じて!)」に照らし合わせて支給しなければなりません。例えば、勤続年数、経験、能力がほぼ同等で、職務内容等にも違いがない非正規労働者と正社員の基本給について、原則として違いがあってはならないことになります。また、違いがあるのであれば、その違いについて合理的な説明が問われることになります。正社員と非正規労働者とは「将来の役割期待が異なるため」という抽象的な説明は通用しません。

対応のポイント

  • 正社員と非正規労働者の賃金の決定基準を整理して明確にする。
  • 「(1)能力又は経験に応じて」「(2)業績又は成果に応じて」「(3)勤続年数に応じて」支給する場合は、(1)(2)(3)の違いに応じた基本給の差になっているといえるのか確認する。
  • 月給、時給等の違いがある場合、時給換算で比較する。

2.昇給

昇給に関しても、考え方は基本給と同じです。ガイドラインには、「昇給であって、労働者の勤続による能力の向上に応じて行うものについて、通常の労働者と同様に勤続により能力が向上した短時間・有期雇用労働者には、勤続による能力の向上に応じた部分につき、通常の労働者と同一の昇給を行わなければならない。また、勤続による能力の向上に一定の相違がある場合においては、その相違に応じた昇給を行わなければならない。」と明記されています。

基本給の決定基準と同様に、昇給に関しても差別化は禁じられています。

対応のポイント

  • 正社員と非正規労働者の昇給の基準を整理して明確にする。
  • 「(1)能力又は経験に応じて」「(2)業績又は成果に応じて」「(3)勤続年数に応じて」支給する場合は、(1)(2)(3)の違いに応じた昇給の幅になっているといえるのか確認する。
  • 月給、時給等の違いがある場合、時給換算で比較する。

3.賞与

正社員は年2回賞与があるが、非正規労働者には賞与はない、又は寸志のみ、という企業は多いと思います。一般的に、業績への貢献度に対して支給されることが多く、それ以外にも様々な要素が加わって支給されているのが実態です。昨年の最高裁での判決(「大阪医科薬科大学事件」2020年10月13日判決)では、賞与の目的や性質が問われました。目的が、単なる業績への貢献度のみではなく、「その職務を遂行しうるその人材の確保やその定着を図る目的」という点が評価されて、正社員には賞与あり、非正規労働者には賞与なしが認められたのです。

つまり、単なる業績への貢献度のみが賞与の目的であれば、正社員、非正規労働者に関わりなく同等に賞与を支給しなければならないということです。もし今まで正社員は賞与あり、非正規労働者には賞与なし、という企業が今後もその体制を貫くのであれば、それ相応の賞与の目的を明確化する必要があります。

対応のポイント

  • 賞与の目的を整理して明確化する。(労働の対価の後払い、長年勤務に対する功労報償、 将来の労働に対する意欲向上、人材の確保や定着を図るなど、自社の現状に合った性質や 目的を明確にする)
  • 職務の内容や、責任の程度等の違いに応じて、非正規労働者に対して正社員とは違う賞与 制度を構築する。(正社員に比べて簡易な業務に従事する非正規労働者が多い場合には、貢 献度に応じて3万円、5万円、10万円等、定額の一時金を支給する制度でも良い)
  • 正社員に対して、勤続年数に応じて支給している場合は、その制度自体を見直すか、非正 規労働者に対しても勤続年数に応じて支給する方向で検討する。

基本給、昇給、賞与は、労働者によって違いがあるがゆえに、その違いに応じた合理的な説明が問われることになります。これを機に、賃金制度や評価制度を見直し、又は新たに制度化することをお勧めいたします。

次回は、退職金、諸手当、休暇制度等について説明いたします。

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