第26回 雇用保険マルチジョブホルダー制度の概要

2022年3月2日

今までは、雇用保険は1つの事業所でしか加入できず、「1週間の所定労働時間が20時間未満である者」という要件については、複数の事業所で働く者についても、いずれか1つの事業所で要件を満たさなければなりませんでした。しかし、2020年の雇用保険法の改正により、複数の事業所で雇用されている65歳以上の労働者の所定労働時間の合算が、週20時間以上であれば、2022年1月1日より雇用保険の被保険者(マルチ高年齢被保険者)となることができるようになりました。今回は、この新たな「雇用保険マルチジョブホルダー制度」について解説いたします。

マルチ高年齢被保険者の適用対象者

マルチ高年齢被保険者(以下「被保険者」という)となるには、次の1~3の要件を全て満たす必要があります。

  1. 複数の事業所に雇用される65歳以上の労働者であること
  2. 2つの事業所(1つの事業所における1週間の所定労働時間が5時間以上20時間未満)の労働時間を合計して1週間の所定労働時間が20時間以上であること
  3. 2つの事業所のそれぞれの雇用見込みが31日以上であること
  • 「事業所」とは、「雇用保険適用事業所」に限ります。
  • 所定労働時間が5時間未満の事業所での労働時間は合算できません。
  • 労働時間を合算できるのは2つの事業所までです。3つ以上の事業所に雇用されている場合は、その中から2つの事業所を選択して手続することになります。

被保険者となるためには、要件を満たせば当然に会社がハローワークに届出をする通常の雇用保険被保険者と違い、本人が自らハローワークに申出をすることで、申出をした日から特例的に被保険者となります。また、被保険者となると、要件に該当しなくならない限り任意に脱退することはできません。つまり、被保険者になるかならないかは労働者の意思に委ねられていますが、ひとたび被保険者になると、事業所が変わっても複数の事業所で週20時間以上働いている限り、被保険者であり続けなければならないということです(下図を参照)。

失業給付等

被保険者であった者が失業した場合には、一定の要件(離職の日以前1年間に、被保険者期間が通算して6カ月以上あること等)を満たせば、高年齢求職者給付金を受給することができます。給付額は、原則として、離職の日以前の6カ月に支払われた賃金の合計を180で割って算出した金額(賃金日額)のおよそ5割~8割となる「基本手当日額」の30日分または50日分となります(下図を参照)。2つの事業所のうち1つのみ離職した場合でも受給することは可能ですが、その場合、離職していない事業所の賃金は算定に含めません。また、3つ以上の事業所で働いていて、離職していない2つの事業所で被保険者の要件を満たす場合は、被保険者としての資格が継続されるため、受給することはできません。

被保険者であった期間 1年未満 1年以上
高年齢求職者給付金の額 30日分 50日分

その他、それぞれの要件を満たせば、育児休業給付、介護休業給付、教育訓練給付等もその対象となります。ただし、育児休業給付・介護休業給付を受給するには、被保険者となっている2つの事業所で、同時に育児休業または介護休業を取得する必要があります。

被保険者となるための手続

通常の雇用保険資格の取得・喪失手続は、事業主が行うこととなっていますが、前述の通り、雇用保険マルチジョブホルダー制度は、適用を希望する本人が自ら手続を行う必要があります。実際の手続に必要な証明(雇用の事実や所定労働時間等)は2社それぞれの事業主が行い、その証明書類を揃えて労働者本人の住所地を管轄するハローワークに申出を行います(下図及び必要書類等一覧表を参照)。また、被保険者となった日から、それぞれの事業主には雇用保険料の納付義務が発生します。納付方法は通常の雇用保険料と同じです。

<必要書類等一覧表>

労働者 事業主

【必要書類】

  • 雇用保険マルチジョブホルダー雇入・資格取得届(マルチ雇入届)(2事業所分)
  • 個人番号登録・変更届
  • 被保険者資格取得時アンケート


【交付書類】

  • 雇用保険マルチジョブホルダー喪失・資格喪失届(2社分)
  • 雇用保険マルチジョブホルダー雇入・資格取得確認通知書(本人通知用)(2社分)
  • 雇用保険被保険者証
  • 被保険者資格喪失時アンケート

【確認書類】

  • 賃金台帳、出勤簿、労働者名簿
  • 雇用契約書 / 労働条件通知書
  • 役員、事業主と同居している親族及び在宅勤務者等といった労働者性の判断を要する場合は、別途確認資料


【交付書類】

  • 雇用保険マルチジョブホルダー雇入・資格取得確認通知書(事業主通知用)(2つの事業所にそれぞれ交付)

まとめ

雇用保険マルチジョブホルダー制度は、被保険者となるためには原則として労働者本人が手続をしなければならないのは、前述の通りです。そのため、就労している2つの会社からそれぞれ必要書類を揃えてもらう手間や、自らハローワークでの申請の手間を考えると、誰でも簡単にできるものとはいえません。もっとも、本制度で年齢制限がされているのは、まずは65歳以上の労働者を対象に、その効果を検証する目的があるためです。資格取得・喪失時にアンケートの記入が義務付けられているのも、こうした理由からとなります。将来的には65歳未満の労働者についても同様の扱いとなる可能性が十分にあるため、今のうちから本制度について、ある程度の知識を備えておいた方が良いのではないでしょうか。

<被保険者比較表>

雇用保険被保険者 マルチ高年齢被保険者
年齢制限 原則としてなし 65歳以上
手続主体 事業主(社会保険労務士) 本人(委任状があれば事業主等)
加入 強制加入
(要件を満たせば加入義務あり)
任意加入
(要件を満たしても加入義務なし)
資格取得日 要件を満たすこととなった日
(遡り加入可)
本人が申出た日
(遡り加入不可)
資格喪失 離職日
(要件を満たさなくなった日)
(任意脱退不可)
離職日
(要件を満たさなくなった日)
(任意脱退不可)
失業給付 基本手当・再就職手当 高年齢求職者給付金

筆者紹介

加藤千博

MJS税経システム研究所 客員講師
社会保険労務士法人加藤マネジメントオフィス 代表社員
社会保険労務士 加藤 千博
http://www.kmo-sr.jp/

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