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第80回 カスハラ対策義務化
2026年9月2日
近年、顧客や取引先などからの暴言、威圧的な言動、過度な要求など、いわゆる「カスタマーハラスメント(カスハラ)」が社会的な問題となっています。
本稿でも、第67回「カスタマーハラスメントに対する企業の責任」にて、2025年4月に施行された東京都の「カスタマー・ハラスメント防止条例」を取り上げ、企業に求められる対応について解説しました。
その後、国においても法整備が進み、2025年6月に公布された改正労働施策総合推進法により、2026年10月1日から、いよいよ全ての事業主にカスハラ防止のための雇用管理上の措置を講じることが義務付けられます。
カスハラ対応を従業員個人に任せず、企業が組織として従業員を守る仕組みを整えることが、今回の法改正の大きな目的です。
カスタマーハラスメントとは
今回の法改正では、職場におけるカスタマーハラスメントを、次の3要素をすべて満たすものとしています。
- 顧客等の言動であること
- 業務の性質その他の事情に照らして、社会通念上許容される範囲を超えたものであること
- その言動によって労働者の就業環境が害されること
「顧客等」には、顧客やサービス利用者だけでなく、取引先、施設利用者やその家族、問い合わせをする人など、事業に関係する幅広い者が含まれます。
店舗や窓口だけでなく、電話、メール、SNSなどインターネット上の言動も対象となるため、幅広い業種で対策が必要です。
すべての苦情が「カスハラ」になるわけではない
顧客からの苦情やクレームのすべてが、カスハラになるわけではありません。
商品に不具合があった場合の交換要求や、サービス内容の説明要求など、正当な苦情や要求には適切に対応する必要があります。
一方で、
- 商品やサービスとは全く関係のない要求
- 契約上予定されているサービスを著しく超える要求
- 対応することが著しく困難または不可能な要求
- 不当な損害賠償要求
など、要求そのものに相当性がない場合には、カスハラに該当する可能性があります。
また、要求に一定の理由があったとしても、
- 暴行、傷害などの身体的な攻撃
- 脅迫、中傷、名誉毀損、侮辱、暴言
- 土下座の強要
- 威圧的な言動
- 何度も繰り返される執拗な言動
- 長時間の居座りや不退去などの拘束的な言動
といった手段や態様が社会通念上許容される範囲を超えていれば、カスハラとなる可能性があります。
判断に当たっては、言動の経緯、態様、頻度、継続性、従業員の状況などを総合的に考慮します。企業には、正当な苦情とカスハラを適切に区別する基準を持つことが重要です。
企業に義務付けられるカスハラ対策
2026年10月1日以降、企業にはカスタマーハラスメント防止のため、主に次の措置が求められます。
-
事業主の方針を明確にする
企業は、「カスタマーハラスメントには毅然と対応し、従業員を守る」という方針を明確にし、従業員に周知・啓発する必要があります。
併せて、カスハラの範囲、発生時の報告先、上司や本社へ対応を引き継ぐ基準なども定めておく必要があります。
重要なのは、現場の担当者一人に対応を任せないことです。 -
相談体制を整備する
従業員が相談できる窓口を定めて周知し、相談担当者が適切に対応できる体制を整える必要があります。
相談先や上司へ交代する基準が明確であれば、従業員の心理的負担も軽減できます。 -
発生後、迅速かつ適切に対応する
相談や報告があった場合には、事実関係を迅速かつ正確に確認する必要があります。
事実が確認された場合は、被害を受けた従業員への配慮とともに、再発防止策を講じなければなりません。
発生日時、具体的な発言、対応経過などを記録しておくことも重要で、通話録音等も有効です。 -
特に悪質なカスハラへの対応を決めておく
特に悪質なカスハラについては、あらかじめ対処方針を定め、実行できる体制を整備することが求められます。
例えば、責任者への対応交代や本社への報告、必要に応じた対応の打切りや退去要請、犯罪に該当し得る場合の警察への通報など、事案に応じた対応をあらかじめ定めておきます。
現場で迷わないよう、あらかじめ組織として対応基準を設けておくことが重要です。 -
相談者のプライバシーと不利益取扱いの禁止
相談者等のプライバシーを保護し、相談等を理由とする不利益な取扱いを行わないことを明確にして周知する必要があります。
「お客様第一」から「従業員も守る」企業姿勢へ
これまでの顧客対応では、「お客様の要望にはできる限り応える」「多少のことは我慢する」といった考え方も少なからず見られました。しかし今後は、正当な苦情や要望には適切に対応する一方で、社会通念を超えた要求や暴言等には毅然と対応し、従業員の安全と就業環境を守る姿勢が求められます。
もちろん、顧客からの正当な苦情までカスハラとして排除することは適切ではありません。また、障害のある顧客が、不当な差別的取扱いをしないよう求めたり、合理的配慮を求めたりすること自体もカスハラには当たりません。重要なのは、「顧客への適切な対応」と「従業員の保護」のバランスを図ることです。
2026年10月の施行に向けて、企業はカスハラを現場任せにせず、防止方針、相談窓口、対応基準、報告ルートなどを整備し、組織として従業員を守る体制を構築しておく必要があります。
次回は、こうした方針を実際の現場でどのように機能させるのか、具体的な対応基準やマニュアル、従業員研修など、カスハラ対策の実務について解説します。
筆者紹介
MJS税経システム研究所 客員研究員
社会保険労務士法人加藤マネジメントオフィス 代表社員
社会保険労務士 加藤 千博
http://www.kmo-sr.jp/
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