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厚生労働省の有識者会議「労働基準関係法制研究会」では、労働基準法の大改正に向けて将来の法制度の骨格を形成する極めて重要な内容が検討されています。
今まさに、働き方や労務管理は大きな転機を迎えています。
企業に求められるのは、法改正が確定してから対応する受動的な姿勢ではなく、示された方向性を踏まえて自社の労務管理の在り方を主体的に再設計していく能動的な姿勢です。
本特集では労働基準法の改正について前編と後編の2部に分けてご紹介します。
今回の前編では「労働基準法改正検討の背景」と「労働基準法の抱える課題」についてお伝えします。
※本ページは2026年6月10日時点の情報にもとづいており、法改正が確定していない事項が含まれます。
学校法人会計
制度改正の背景
なぜ今、労働基準法の見直しが
検討されているのか
労働基準法は、戦後の工場労働を中心とした労働環境を前提として、労働条件の最低基準を一律に設定することを目的として制定されました。
制定当時は、雇用労働者の割合も現在ほど高くなく、働き方も画一的であったため、「一律規制」であっても大きな問題は生じませんでした。
しかし、その後の社会経済の構造変化により、この前提は大きく崩れてきています。
理由1
働き方の多様化が著しく進展
テレワークの普及、副業・兼業の一般化、フリーランスやギグワーカーの増加により、「1社専属・定時勤務」という従来モデルの前提が大きく揺らいでいます。
理由2
長時間労働・健康リスクが未解消
働き方改革関連法により時間外労働の上限規制が導入されたものの、勤務間の休息不足や連続勤務による健康障害が依然として問題視されています。
理由3
デジタル化による労務管理の変化
スマートフォンやクラウドツールの普及により、時間や場所を問わず業務が可能になった結果、労働時間と私生活の境界が曖昧になり、「常時接続状態」による新たな労働問題が顕在化しています。
理由4
制度の複雑化・分かりにくさ
個別課題への対応を重ねた結果、制度が複雑化。「シンプルかつ実効性のある制度」への再構築が求められています。
現状の課題と検討内容
基本概念の見直しと
労使コミュニケーションの再構築
個別制度の改正に先立ち、労働基準法の根幹をなす基本概念の再検討と、労使間の実質的なコミュニケーション強化が重要課題と位置付けられています。
「労働者」概念の見直し - 適用範囲の再設計 -
現状の課題
フリーランスやプラットフォーム労働(配車アプリのドライバー・フードデリバリーなど)の拡大、AIによる業務管理の進展により、従来の「使用従属性」基準では実態を捉えきれないケースが増加。
特定企業に依存しながらも適切な保護が及ばない問題が生じています。
検討内容
「労働者か否か」の二分法にとどまらず、働き方の実態や保護の必要性に応じて法的保護の範囲を柔軟に設計する方向での見直しが検討されています。
業務委託契約の適法性・偽装請負リスク・安全配慮義務の範囲について、実態に即した対応が求められます。
「事業」および「事業場」概念の見直し - 適用単位の再整理 -
現状の課題
テレワーク普及により「どこが事業場か」が不明確に。
企業の労務管理も事業場単位ではなく企業全体で一体的に運用される傾向が強まり、事業場概念が実態と合わなくなり、その意義が低下し、36協定の締結単位や過半数代表者の選出などで制度の実効性に課題が生じています。
ICTの進展で場所に依存しない管理が進む中、「場所」基準の概念意義が相対的に低下しています。
検討内容
事業場概念の見直しや、企業単位での一体的な制度運用を可能とする仕組みの検討が必要とされており、労務管理の単位そのものの再整理が求められます。
労使コミュニケーションの再構築の必要性 - 過半数代表者の選出方法 -
現状の課題
労働基準関係法制は、最低基準の設定にとどまらず、労使協定等を通じて柔軟な制度運用を可能とする仕組みを有しています。そのため、労使間の適切なコミュニケーションは制度の実効性を確保する上で不可欠です。
しかし、労働組合の組織率低下が進む中、多くの事業場では過半数代表者による労使協定締結が行われており、代表者の選出方法の適正性が不十分なケースも見られ、労働者の意思が十分に反映されないまま形式的に協定が締結されるケースや、代表者が実質的に使用者側の意向に影響されているケースが問題とされています。
検討内容
投票・挙手などの民主的手続きによる選出の義務化(使用者による指名・誘導の禁止)、代表者の複数選任・任期設定・不利益取扱い禁止の整備が検討されています。
また、36協定締結の際に使用者が労働時間の実態・改善の必要性・協定内容の影響を十分に情報提供する情報提供義務のほか、代表者の活動のための時間確保・会議室提供・社内通知掲示等の便宜供与の義務付けも視野に入っています。
形式的なサイン取得から実質的な協議プロセスへの転換が求められます。
労働基準法の根幹が問い直される
「労働者」および「事業場」の概念の見直しと過半数代表者制度の改革は、いずれも個別の法改正に先立つ基盤的な課題です。「誰を守るのか(労働者の範囲)」「どこを管理単位とするのか(事業場の定義)」「労使合意の上で適切な運用ができているか(労使コミュニケーション)」という3つの問いは、今後のすべての法改正の前提となるものであり、相互に深く関連しています。
今回の見直しが示す方向性は、一律的な規制から実態に即した柔軟な制度への転換です。企業にとっては、制度を形式的に適用するだけでは不十分であり、実態に即した労務管理の在り方を主体的に再構築することが求められます。これらの論点は今後の法改正の前提であり、最優先で理解・対応を検討すべき重要なテーマです。
後編では…
前編での解説はここまでになります。
本特集の後編では、実際に改正が検討されている法制の具体的な項目について、それぞれ項目の概要と想定される実務影響の側面から解説いたします。
「40年に1度」と位置づけられる大規模な法改正。先送りとなったこの準備期間に役立つ内容となっております。是非後編もご覧ください!
後編は2026年7月公開予定!
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筆者紹介
MJS税経システム研究所 客員研究員
社会保険労務士法人加藤マネジメントオフィス 代表社員
社会保険労務士 加藤 千博
http://www.kmo-sr.jp/
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