導入事例

高本税理士事務所 

2020年11月12日

高本税理士事務所(千葉県市川市)は、今年(令和3年)創業33年目を迎える老舗会計事務所である。税理士、社会保険労務士、CFPなどの専門家からなる20名体制で、法人顧問先は400を超える。東京・千葉・埼玉など関東圏の顧問先企業に対し、経理の合理化や経営体質の改善を通じてシンプルかつ効率的な経理事務体制の構築を支援している。創業者で所長の高本和典氏は、顧客の成長発展への貢献と働きがいのある事務所づくりを基本方針に据え、他に先駆けて安価な顧問料を設定したり、作業量ベースで報酬を計算する相続関連サービスを提供したりすることで、主に紹介や口コミにより顧客を増やしてきた。高本氏に、事務所の経営理念や今後の事務所運営の在り方などについて、お話を伺った。(写真撮影 市川法子)

30年以上にわたり地域の中小企業を支援

―― 本日は、千葉県市川市の高本税理士事務所の所長である高本和典先生にお話を伺います。
 同事務所は30年以上にわたって、市川市を中心に関東圏の中小企業の経営を支援してきました。事務所のホームページによれば、現在のスタッフ数は20名で、その多くを税理士や社会保険労務士、CFPなどの資格者が占めています。
 ホームページには、広告宣伝費をかけず、主に顧問先からの紹介や口コミで新規契約を獲得していると書かれていますが、現在の顧問先数はどのくらいでしょうか。

高本 法人だけで400件を超えています。

―― 20名規模の事務所で400件以上の顧問先は、かなり多いといえますね。今回の取材では、事務所をここまで成長させてきた高本先生の経営戦略や理念についてお聞きしたいと思います。
 はじめに、高本先生が税理士を志したきっかけから伺います。

高本 私が税理士を目指そうと思ったのは大学在学中ですが、特に高い志を抱いていたわけではありません。独立という選択肢もあるし、サラリーマンよりはやりがいを持てそうな職業だと考えて、税理士試験の勉強を始めました。
 大学卒業後は会計事務所に就職し、働きながら試験勉強を続けました。資格を取得したのは24歳のときです。そして、昭和63年に27歳で独立しました。

――27歳での独立開業はかなり早いですね。開業当初から、どのような会計事務所を目指すか、ビジョンをお持ちだったのでしょうか。

高本 開業は結婚した直後でしたし、正直なところ事務所の理想像を考える余裕すらありませんでした。
 また、お客様である社長は、当然ながら私よりもずっと年上ですから、自分が若いことにやや負い目も感じていました。税務署とやりとりする際などに、社長から本当に信用されているのか、「こんな若い税理士で大丈夫か」と思われているのではないかといった不安を拭えませんでした。そのような不安を払拭するために、一心不乱に働いていた気がします。

仕時代を先取りした低顧問料と口コミで成長

――若さに対する負い目を逆にバネにしながら、どのように顧問先を増やしていかれたのですか。

高本 何か特別なことをしたわけではありませんが、振り返ると開業当初から結構忙しくしていたように思います。独立した時点で何件かいたお客様からのご紹介で、自然に顧問先が増えていったと記憶しています。
 30年以上前のことですから、現在に比べて税理士の数が少なく、新規法人の設立が多かったり、今よりもずっと競争が緩やかだったりといった社会的背景もあって、順調なスタートが切れたのでしょう。

―― 貴社がこれまでに手掛けられた相続税の申告は、累計で何件くらいでしょうか。

高本 申告数は約1万4000件に上ります。もちろん、これは完全に相続に特化しているからこそ到達した数字です。先ほど申し上げたように、税務会計業務は他の税理士先生に委託し、役割分担するという形態も、会計事務所のひとつの新しい在り方ではないかと思います。

――そうすると、業種特化や業務特化などで差別化を図る戦略は採らなかったのでしょうか。

高本 はい。業種特化はしていません。しかし、顧問料は世間一般の相場よりもかなり低く設定しました。ですから、それが差別化につながったとは思います。
 先ほど申し上げたように、当時は競争が激しくなかったことから、平均的なレベルのサービスに高めの報酬を設定するのが当たり前でした。そのことに疑問を感じた私は、他所よりも低い報酬でお客様に満足していただけるサービスを提供しようと考えたのです。
 その後、税理士法の改正による自由化の促進もあって、税理士報酬の相場はかなり下がりました。ですから、「顧問料の安さ」という点では、当事務所は時代を先取りしていたといえるかもしれません。

――それでは、貴事務所の経営理念を教えていただけますか。

高本 私を含む事務所の全員が、「誠意と利他の精神を持って顧問先企業に向き合い、その成長発展に貢献すること」「感謝の心と信頼の絆を大切にし、いきいきと働くことのできる事務所づくり」「主体性と向上心を持ち、人の役に立つことに喜びを感じられる人間になること」を目指すというものです。

システムを活用して「経理の合理化」を推進

――ここからは、貴事務所の具体的な中小企業支援の取り組みについて伺います。
 まずは、事務所のホームページにも謳われている「経理の合理化」についてお聞かせください。

高本 この10~15年の間、日本の多くの会計事務所は「経理の合理化」に力を注いできました。経理の合理化によって会計事務所側の負担が減ることで、お客様側にとっては顧問料の低廉化につながります。双方がメリットを得られるのですから、これを推進しない手はありません。
 そこで当事務所も同様に、株式会社ミロク情報サービス(以下、MJS)さんのご協力を頂きながら、顧問先企業の経理とそれに関連する業務の合理化を進めてきました。

――貴事務所とMJSとの付き合いは長いのでしょうか。

高本 はい。MJSさんには開業当初からお世話になっています。導入を決めた理由のひとつは、独立前に勤めていた会計事務所がMJSさんのシステムを入れていて使い慣れていたことです。
 しかし最大の決め手は、何といっても廉価なリース料です。当時、ハードとソフトで月額数万円程度だったと思います。独立したときはお金がまったくなかったので、本当に助かりました。

――オフコンと呼ばれた専用機の時代ですね。

高本 はい。当時、われわれを含めた会計事務所の人たちは、専用機の扱いに慣れていました。自分たちは時代の先端を走っているという自負もありました。それが逆に、パソコンの台頭に素早く対応できず、時代の変化に乗り遅れる原因のひとつとなったのは皮肉といえるでしょう。
 私自身、オフコンからパソコンにスムーズに移行できませんでした。今思えば、もっと積極的にパソコンへの移行に取り組むべきだったと反省しています。

――現在の貴事務所のシステム構成を教えていただけますか。

高本 会計税務についてはMJSさんの「ACELINK NX-Pro」を、自計化関連では主に「iCompassNX会計/iCompassNX会計Plus」、そして「かんたんクラウド」を利用しています。
 「ACELINK NX-Pro」は、他社の会計ソフトからのデータ取り込みにも対応していますし、オプションも豊富で、業種や規模を問わず利用できるので、とても助かっています。
 また、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大で注目されているテレワーク関連では、「iCompassリモートPC2」と「iCompassコミュニケーション」を導入しています。
 このように、MJSさんの製品で税務会計から申告までを一貫かつシームレスに行えるシステムを構築しています。これをメインシステムとして利用しつつ、お客様のニーズに合わせて他社の会計ソフトも併用しています。

――テレワーク関連のソフトを活用されているということは、貴事務所では今般の新型コロナ禍以前から、毎月の顧問先訪問は実施されていないのですか。

高本 はい。当事務所では、原則として毎月の訪問は行っていません。確かに、いわゆる「巡回監査」が業界の主流だった時代もありました。しかし、もはや時代のニーズに合致しないと考えるからです。
 時代のニーズは、テクノロジーの進化とともに変わりつつあります。お客様側も、「毎月来てもらう必要があるのか」と疑問に感じ始めています。そこから、毎月の訪問をやめて会計事務所側の手間を減らしてもらえば、支払う報酬も下げられるはずだと考えるのは自然の成り行きです。
 先ほど申し上げたとおり、会計事務所もかける手間が減ることと、それで下がる報酬との間でバランスがとれていれば、悪い話ではありません。むしろ、報酬が下がることでお客様に喜んでいただけるなら、メリットのほうが大きいでしょう。
 そう考えた私は、そちらの方向に舵を切り、徹底してきました。この転換を境に、顧問先がグンと増え始めたように思います。

――先ほど伺った経営理念をまさに実践されているわけですね。それが顧問先の中小企業経営者に高く評価され、口コミで広まっていったのでしょう。

高本 そこまで意識していたわけではありませんが、社長さん同士の横のつながりで、そういった話題が出ることはよくあるのかもしれません。

作業量ベースの安価な相続関連サービス

――続いて、貴事務所が力を入れているという相続関連のサービスについて伺います。
 平成27年の相続税の基礎控除低減により相続のすそ野が広がり、会計業界全体で相続に関する相談件数が増加傾向にあります。貴事務所ではいかがでしょうか。

高本 仰るとおり、相続に関するご相談の件数は確実に増えています。当事務所も開業30年を超えているため、お付き合いの長いお客様からのご相談が特に増えているように感じます。
 ちなみに、相続案件についてはCFP1級ファイナンシャル・プランニング技能士などを含む、5~6人のプロジェクトチームを組んで対応しています。

――年間でどのくらいの相続案件を扱っているのですか。

高本 30件ほどです。

――相続税申告のみに限らず、相続に関わるさまざまなサービスを提供されているのでしょうか。

高本 ええ。相続税申告だけでなく、遺言書の作成、執行のサポートを含め、二次相続や三次相続など将来の税負担まで考慮したうえで、最適な遺産分割案をご提案しています。
 また、当事務所では税務会計サービスにおける顧問料と同じく、相続サービスにおいても作業時間をもとに報酬を計算しています。資産額ではなく、申告業務にかかった作業量をもとに税理士報酬を決めているのです。
 したがって、報酬を財産の1~1・5%に設定している一般的な会計事務所さんに比べて、相当安価になるはずです。

――財産の多寡ではなく、作業量で計算して報酬を決める方式は、財産が多い方にとっては大きなメリットになりますね。

高本 そのとおりです。当事務所の法人顧問料はかなり安価なほうだと自負していますが、今や驚くほど安い料金を掲げる事務所がどんどん出ていますから、顧問料で差別化を図るのは難しくなっています。
 一方、相続についてはまだ差があります。しかし、当事務所は相続を「儲けるチャンス」とは捉えていません。お客様に少しでもより貢献したいという思いから、できる限り低い報酬で対応させていただいています。

――その理念こそが差別化の源泉になっているのですね。とはいえ、その「安さ」を顧客に理解してもらうのは難しいのではないでしょうか。

高本 仰るとおりです。私自身は、この報酬計算方式はとてもよいと思っているのですが、難点がひとつあります。相続が完了しないと、最終的な請求金額を申し上げられないことです。
 これについては、お客様に最初にお断りしたうえで、仕組みを丁寧にご説明しています。正式な相続税の仮計算または相続税申告のご依頼を頂いた場合は、初回面談料金の値引きもしています。
 全てが終わり、請求金額が最初にお伝えしていた概算を下回ることもしばしばで、たいていのお客様は驚かれますね。

――差し支えない範囲で、貴事務所が手掛けた相続対策の事例を紹介していただけますか。

高本 よくあるのは、父親が亡くなって、お子さんたちが母親に多めに遺産を配分しようとされるパターンです。
 お子さん方からすれば、残された母親を思ってのことでしょうが、母親が財産を持ちすぎると、最終的には家族全体の財産として損をする場合が往々にしてあります。二次相続時に払わなければならない税金が増えてしまうからです。
 したがって、一次相続だけでなく、二次相続における課税分を予測した配分を考えるべきでしょう。別の会計事務所でそのような配分をされ、相続登記までしてしまった後に、当事務所に相談にいらっしゃるお客様もいますが、そのときは登記のやり直しをお勧めしています。
 当事務所では、MJSさんの「ACELINK NX-Pro」のオプションソフトである相続税シミュレーションの機能を活用し、二次相続までのシミュレーションを行ったうえで最適な遺産配分をご提案しています。配分パターンの比較もできますし、とても分かりやすく作られていると思います。

――会計業界では今、相続市場への期待感が広がっていると思いますが、高本先生はどのようにお考えですか。

高本 私は、相続をマーケットとして捉えていません。最近よく届く「相続は儲かる」といった内容のDMやメールの案内に対し、違和感を持ち続けています。
 私たちは、あくまでお客様に貢献しようという姿勢で全ての仕事にあたっています。もちろん、相続サービスも例外ではなく、「儲かるから」という理由で取り組んでいるわけではありません。

従業員第一主義の事務所経営を実践

――ここまで伺ったお話から、高本先生の顧客ファーストというべき強い信念が感じられます。そこで、高本先生がお考えになる、今後の会計事務所の理想像をお聞かせください。

高本 会計事務所に限りませんが、働く人と組織との関係が今、大きく変わりつつあると感じています。利益第一主義の時代から顧客第一主義の時代へという変遷を経て、組織の在り方が従業員第一主義へと変化しているのです。
 経営理念にも掲げているとおり、私は一般企業も会計事務所もこれからの時代、従業員が長く勤めたいと思えるような組織でなければ生き残れないだろうと思っています。働きやすい環境が整っていれば、そこに働く人たちの満足度も上がり、人の入れ代わりもなく、自然にサービスの質が向上するはずですからね。
 そして、そのような働きがいのある社内風土を醸成していくことが、これからの経営者の役割ではないでしょうか。無理に質の高いサービスを目指す必要はないと思います。やりがいがあって、安心して楽しく仕事ができる環境づくりが、会計事務所にも今後ますます求められるのではないでしょうか。

――採用を含め、労務管理や福利厚生なども重要になるということですね。

高本 はい。まだ十分とはいえませんが、私自身、スタッフが「長くこの事務所で働きたい」と思ってくれるような組織づくり、環境づくりに尽力しています。ただ採用については、離職者が少ないぶんスローペースになっていると思います。

従業員・顧問先・事務所の三方よしの実現を目指す

――最後に、貴事務所が目指す将来像についてお聞かせください。

高本 今まさに、「事務所の将来像」という、今後目指すべき方向性を記した資料を作っています。私が作った副題を、スタッフ全員参加でブラッシュアップしてもらい作り上げました。これにより、全員のベクトルを一致させています。
 優先順位としては、スタッフの満足と顧問先の満足、そして事務所経営になります。私は、この3つの要素がバランスよくかみ合っていることが大事だと思っています。3つのバランスをうまく取ることができれば、自ずと全体がよい方向に向かっていくというのが、私の基本的な考え方です。
 ですから、「いつまで」とか「ここまで」といった数値的な目標は定めていません。あえて目標を申し上げれば、「三方よし」の実現です。その初めの一歩が、スタッフが「ずっと働きたい」と思えるような事務所づくりなのです。

――本日は貴重なお話をありがとうございました。貴事務所のさらなるご躍進に期待しています。

導入事務所様のご紹介

高本和典(たかもと・かずのり)

高本税理士事務所所長。税理士。ITコーディネータ。NPOアカウンタント。決算書すっきりアドバイザー。昭和36年生まれ。千葉県出身。法政大学卒。会計事務所勤務を経て、昭和63年に独立開業。平成21年、事務所を千葉県市川市八幡に移転。

高本税理士事務所

所在地

千葉県市川市八幡2-11-13

代表者

代表社員 高本和典

設立 昭和63年
構成人数 20名
主な業務 節税対策、相続対策、開業支援、経営支援、IT化支援
  • 本事例の掲載内容は取材当時のものです。

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