第45回 裁量労働制の改正2

2023年10月4日

 前回は裁量労働制の概要等について解説いたしました。実際に働いた時間を労働時間とするのではなく、あらかじめ会社と労働者で定めた労働時間を働いたものとみなす制度なので、労働者の裁量で労働時間を管理できるということをお伝えいたしました。今回は、来年(令和6年4月1日)の改正内容や、変形労働時間制や事業場外みなし労働時間制等との違いについて解説いたします。

裁量労働制の改正内容

1.労働者本人の同意と撤回(専門型・企画型)

 現行の裁量労働制においては、制度を適用する際に、企画業務型(以下、企画型)は労働者本人の同意が必要ですが、専門業務型(以下、専門型)では同意は不要となっています。これが今回の改正で、専門型も労働者本人の同意を得なければならなくなります。また、同意が得られなかった場合に、会社は解雇その他労働者に不利益な取り扱いをすることが禁じられます。それに加え、同意していた者が同意を撤回する場合の手続方法についても、あらかじめ決めておく必要があります。以上を踏まえて、専門型の労使協定に、以下の協定事項が追加されることになります。

  1. 制度の適用にあたって労働者本人の同意を得ること
  2. 制度の適用に労働者が同意をしなかった場合に不利益取り扱いをしないこと
  3. 制度の適用に関する同意の撤回の手続

 企画型につきましては、上記①と②はすでに労使委員会の決議事項とされていますので、③を決議事項に追加することになります。
 また、専門型も企画型も、これらの労働者ごとの同意及び撤回の記録を作成し、協定又は決議の有効期間中及びその満了後5年間(当面の間は3年間)保存することも、協定書及び決議に明記しなければならなくなります。
 今回の改正に合わせて、裁量労働制を導入・適用するまで(すでに導入済の事業場では、令和6年3月末まで)に所轄労働基準監督署に協定届・決議届を届け出なければなりません。

2.労使委員会に賃金・評価制度を説明する(企画型のみ)

 企画型の対象労働者に適用される賃金・評価制度を変更する場合に、労使委員会に変更内容の説明を行わなければならなくなり、そのことを労使委員会の決議に定める必要があります。また、当該説明に関する事項(説明を事前に行うことや説明項目など)を労使委員会の運営規程に定めることが義務付けられます。

3.労使委員会は制度の実施状況の把握と運用改善を行う(企画型のみ)

 制度の趣旨に沿った適正な運用の確保に関する事項(制度の実施状況の把握の頻度や方法など)を労使委員会の運営規程に定めることが義務付けられます。

4.労使委員会は6か月以内ごとに1回開催する(企画型のみ)

 労使委員会の開催頻度を6か月以内ごとに1回とすることを労使委員会の運営規程に定めることが義務付けられます。

5.定期報告の頻度が変わります(企画型のみ)

 本来の報告は「6か月以内に1回、及びその後1年以内ごとに1回」であったものを、当面の間「6か月以内ごとに1回」とされてきましたが、今回の改正で本来の報告に変更されます。
 また、「6か月及びその後の1年」の起算日は、改正前の「決議が行われた日から起算」であったものが、改正後は「決議の有効期間の始期から起算」に変更されます。

6.対象業種の追加(専門型のみ)

 告示の改正となりますが、専門型の提唱業種が1業種追加されて、19業種から20業種となります。追加となるのは、「銀行又は証券会社にて、顧客に対し合併、買収等に関する考案及び助言をする業務」というかなり限定的な業種ですので、一般的にはあまり関係がなさそうです。

裁量労働制のメリット・デメリット

 裁量労働制は、あらかじめ労使で定めた時間を働いたものとみなすため、労働者の裁量で労働時間を管理することができます。労働者にとっても、時間にとらわれず自分のライフスタイルに合わせて働くことができる、とても自由度が高いのが最大のメリットです。実際に厚生労働省の調査で、労働者の満足度が高いことがわかっています(図表1)。
 その反面、裁量労働制を導入する手続の負担が大きく、特に企画型は労使委員会での決議など手続が煩雑なのがデメリットといえるでしょう。また、裁量労働制では、あらかじめ定められた時間に対して賃金が支払われるため、深夜労働・休日出勤を除き時間外労働手当が発生しません(あらかじめ定めた時間が法定労働時間を超過している場合は、その超過した時間分の時間外労働手当を含んだ賃金を支払います)。そのため、「残業代が支払われない制度」と誤解されやすいので、制度導入時には時間外労働の扱いなど、労使で十分に話し合う必要があります。

(図表1)裁量労働制適用の満足度 適用労働者調査※適用労働者のみ

他の変形労働時間制等との違い

 裁量労働制は、他の変形労働時間制などと混同されがちですので、その違いについて触れておきます。

●変形労働時間制との違い

 1年単位、1か月単位、1週間単位などの変形労働時間制は、法定労働時間の総枠を超えない範囲で一定期間の所定労働時間(日々の労働時間)を弾力的に増減させる労働時間制です。
 あらかじめシフトなどにより所定労働時間が定められおり、その時間に従って勤務しなければなりませんので、労働者の裁量で労働時間が決められる裁量労働制とは全く違います。

●フレックスタイム制との違い

 フレックスタイム制は、労働者の裁量で労働時間が決められる点は裁量労働制と同じですが、労使であらかじめ定めた労働時間の総枠に対して、実働時間が超過すれば時間外手当を、不足している場合はその時間分を賃金から控除、又は翌月以降に繰越すといった措置をとります。
 この点が、実働時間にかかわらず賃金が一定金額支払われる裁量労働制と違う点です。

●事業場外みなし労働時間制との違い

 原則的な労働時間制以外で、裁量労働制に一番近いのは事業場外みなし労働時間制です。対象業種は限定されていませんが、会社の外で業務に従事しており、使用者の指揮監督が及ばず労働時間の算出が困難な業務に限定されますので、直行・直帰が原則となるような外回りの営業職やテレワーク等に限られます。また、会社外の業務であったとしても、スマホ等を活用すれば時間管理が可能となる場合も多く、今日においては適用するのが困難な制度といえるのではないでしょうか。

法改正に向けた課題

 前述の通り、裁量労働制の改正により専門型も労働者から個別の同意を得る必要になることからも、万が一、同意が得られない場合を想定しておく必要があります。もちろん、同意を強要することはできませんが、悪いイメージや誤解があれば、制度の正しい運用ルール等を説明することで理解が深まり、同意が得られるようになるかもしれません。今後は、今まで以上に制度のメリット等を丁寧に説明する機会を設けるべきでしょう。

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