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Introduction
はじめに

前回の記事では、会計事務所の売上が伸びにくくなる背景として、安売り、属人化、定型業務への偏り、人材育成の難しさなどを整理しました。では、そうした状態を避けるために、開業初期の段階ではどんな営業戦略を取るべきなのでしょうか。

この時期は、とにかく顧問先を増やしたい気持ちが強くなりやすく、交流会、紹介依頼、ホームページ、SNS、広告など、目についた施策に次々と手を出してしまいがちです。ただ、営業の土台が曖昧なままだと、動いているわりに受注率が上がらず、単価も安定しません。

だからこそ開業初期に必要なのは、派手な施策よりも「勝ちやすい営業の形」を先につくることです。
ここでは、その考え方と実務のポイントを整理していきます。

結論
開業初期の営業は「広く集める」より「合う相手にしっかり届く」が大切

開業初期の会計事務所にとって本当に怖いのは、見込み客が少ないことよりも、「誰でも受ける営業」になってしまうことです。案件を選べない状態が続くと、顧問料が低い、追加対応が多い、相性が合わないといった顧問先も増えやすく、気づけば所長が忙しいのに利益が残らない状態になってしまいます。

そのため営業戦略の基本は、「どこで数を集めるか」を考える前に、「どの顧客なら継続的に支援できて、事務所の成長にもつながるか」を見極めることにあります。対象を絞り、伝えることを絞り、動き方も絞る。そのほうが、結果として受注率も単価も安定しやすくなります。

開業初期の営業戦略

  • 誰に選ばれたい事務所なのかを先に決める
  • 営業の前に、強みや支援範囲を言葉にしておく
  • 毎週の営業行動を「気分」ではなく「運用」にする
  • 受けない案件の基準(業種や売上高、訪問回数など)を持ち、将来の負担を増やさない

営業戦略1
まず考えたいのは「どんな顧問先と付き合いたいか」

営業戦略というと、つい「何をやるか」から考えたくなります。ですが実際には、交流会に行くべきか、ホームページを整えるべきか、紹介を強めるべきかといった答えは、どんな顧問先を増やしたいかで変わります。

たとえば、創業支援に強い事務所を目指すのか、年商数億円規模の企業に伴走したいのか、業種特化でいくのか、クラウド会計や資金繰り支援を打ち出すのかによって、必要な言葉も、見せ方も、相談の受け止め方も変わってきます。

このとき大切なのは、売上規模や業種だけで顧客像を決めないことです。実際には、相談に前向きか、資料提出に協力的か、価格だけで判断しないか、継続的な支援を必要としているかといった「付き合いやすさ」も、かなり重要です。営業戦略とは、単に件数を増やすことではなく、良い関係を築ける顧問先を増やす設計でもあります。

営業戦略2
営業の前に「この事務所に相談する理由」を整える

開業初期の所長は、実務力は十分にあっても、自分の事務所の魅力を言葉にするのが苦手というケースが少なくありません。その結果、「レスポンスが早いです」「何でも相談できます」「気軽に相談できます」「税理士が対応します」という主観的な表現に落ち着き、見込み客から見ると違いが伝わりにくくなります。

営業で必要なのは、派手なキャッチコピーではなく、「なぜこの事務所に相談する意味があるのか」をきちんと客観的に説明できることです。たとえば、創業間もない経営者に対して、資金繰りや会計体制の立ち上げまで伴走できるのか。あるいは、資料回収やクラウド運用の負担を減らせるのか。こうした支援の輪郭が見えるほど、営業はぐっとやりやすくなります。それを自分の中だけにとどめず、紹介時や面談前、ホームページ上でも同じ言葉で伝わるようにしておくことです。

営業戦略3
営業は「たくさん動く」より「順番よく動く」

限られた時間のなかで成果を出すには、何から手をつけるかがとても大切です。開業初期にありがちなのは、成果が見えにくい活動に時間を使いすぎることです。たとえば、発信テーマが定まらないままSNSの更新だけ続けたり、名刺交換は増えるのに次の接点が生まれなかったりすると、動いている感覚のわりに案件化しません。

優先したいのは、すでに自分を少しでも知っている相手や、信頼のきっかけが生まれやすい相手から順に深めていくことです。開業直後は新しい施策を増やすより、「この人は何を頼める税理士なのか」を既存接点にきちんと伝えるほうが成果につながる場面が多くあります。

ここでは紹介ルートの細かな作り方までは触れませんが、少なくとも営業戦略としては、「誰に会うか」「会ったあと何を伝えるか」「次の接点をどうつくるか」を曖昧にしないことが重要です。営業は、偶然の出会いを待つことではなく、次の一手を準備することでもあります。今まで仕事で関わりのあった方全員に向けて開業案内の手紙を出したり、電話などで挨拶をするのも地道ですが非常に効果がある施策だと思います。

営業戦略4
営業を「やれるときにやる」から卒業する

開業初期の営業が続きにくい最大の理由は、実務の忙しさに流されやすいことです。月初は入力確認、月中は面談、月末は申告準備といった流れの中で、「時間が空いたら営業しよう」と思っていても、実際には後回しになりがちです。

だからこそ、営業は予定に組み込んでしまったほうがうまくいきます。毎週何件接点を持つのか、何件フォローするのか、何件面談するのかを先に決めて、記録して、振り返る。この運用があるだけで、営業は感覚ではなく管理できるものに変わっていきます(KGI、およびそれを達成するためのKPI目標をはっきり決める)。

さらに、件数だけでなく「どんな相談が多かったか」「どこで失注しやすいか」「見込み客が何を不安に感じていたか」も残しておくと、営業の言い回しや事前資料の改善につながります。開業初期の営業は、件数を追うだけでなく、経験を学びに変えていくことも大切です。

営業戦略5
「受けない案件」を決めると、営業は楽になる

顧問先がまだ少ないうちは、目の前の案件を断りにくいものです。ですが、開業初期に無理な受注を重ねると、その後の営業戦略が苦しくなります。低単価案件、追加要求の多い案件、資料提出が極端に遅い案件、納税意識が低い顧客を抱えると、本来なら良い顧問先に使うべき時間が削られてしまうからです。

これは単なる選り好みではありません。限られた時間をどこに使うかという経営判断です。とくに所長が実務と営業を一人で兼ねる段階では、1件のミスマッチが全体に与える影響は想像以上に大きくなります。

そのため、開業初期の営業では「受ける基準」と同時に「受けない基準」も持っておくことが大切です。値引き前提で話が進む、相談の段階で期待役割が大きすぎる、必要資料のやり取りに協力的でない。こうしたサインを早めに見抜けるようになると、営業はずっと安定しやすくなります。

営業戦略6
開業初期の営業は、実は「準備」で差がつく

営業というと、話し方やクロージングのうまさに目が向きがちです。ですが実際には、開業初期ほど準備の有無が結果を左右します。よく受ける相談内容を整理しておくこと、相談後の流れを簡単に説明できること、支援範囲がわかる資料を持っておくこと、面談後のフォロー文面を決めておくこと。こうした土台があるだけで、営業の品質はぐっと安定します。

準備が整っていると、見込み客への説明に抜け漏れが出にくくなるだけでなく、所長自身も営業のたびにゼロから考えなくて済みます。その結果、対応スピードが上がり、安心感も伝わりやすくなります。

特別なテクニックがなくても、「毎回なんとなく話す」状態から抜け出せるだけで、営業はかなりやりやすくなります。開業初期の営業は、才能よりも、整った準備のほうが効く場面が多いのです。

90日ロードマップ
最初の90日で固めたいこと

ここまでの考え方を、実際の90日間でどう動かすかに落とし込むと、次のような順番になります。

1〜2週目 土台づくり 理想の顧問先像、受ける基準・受けない基準、事務所の強みを言葉にする
3〜4週目 接点の棚卸し いま持っている接点を整理し、誰に何を伝えるかを整理する
2か月目 説明の型化 相談後の流れや支援範囲、よくある質問を簡潔に説明できる形に整える
2〜3か月目 運用と記録 毎週の接点数、面談数、フォロー数を記録し、営業のリズムをつくる
3か月目 振り返りと改善 受注しやすかった相談テーマや失注理由を振り返り、伝え方を磨く

Summary
まとめ

開業初期にやるべき営業戦略は、チャネルを増やすことでも、派手な集客施策に飛びつくことでもありません。誰に選ばれたいのかを決めて、選ばれる理由を言葉にし、営業の順番と運用方法を整えることです。

会計事務所は、受注の前に信頼がつくられる業種です。だからこそ、紹介ルートの各論やWeb集客の詳細に進む前に、自事務所の営業設計そのものを整えておくことが、結果的にはいちばん効率のよい成長につながります。

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筆者紹介

橋本昌幸

MJS税経システム研究所 客員研究員
橋本昌幸税理士事務所
税理士 橋本 達広
https://hashimoto-tax.com/

略歴

  • 1987年 静岡県静岡市生まれ
  • 横浜国立大学経営学部会計情報学科卒業
  • 都内の税理士法人を経て、税理士法人おおたかにおいて、オーナー企業向けの事業承継に係る税務コンサルティングを中心として、講演や執筆など幅広い業務に従事。
  • 現在は、主に地元静岡のオーナー企業の事業承継の支援や、相続税の申告などの業務に取り組んでいる。

主な著書等

  • 『ヒヤリハットで身につく取引相場のない株式評価のキホン[第2版]』(税務経理協会)
  • 『顧客をミスリードしない自社株承継の実務』(税務経理協会・共著)
  • 『目的別 相続対策選択ガイドブック』(新日本法規出版・共著)
  • 『司法書士の相続税務の基本』(税務経理協会・共著)

主な講演テーマ

  • 『売上を倍増させる事務所経営のノウハウ講座』
  • 『初めての相続税申告マスター講座』
  • 『相続税申告におけるヒヤリハット事例』
  • 『取引相場のない株式評価のヒヤリハット事例と事業承継対策のケーススタディー』

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