導入事例
遠藤税理士事務所 様
2018年6月28日
遠藤税理士事務所(大阪府寝屋川市)は、開業から15年を迎えた会計事務所である。同事務所の代表である遠藤公也氏(次ページ写真)は、会計人としては異色の経歴の持ち主だ。遠藤氏は大学を卒業した後、女性ファッションセールスの道に進み、優秀な成績を記録した。その後、30歳を前にして、全くの未経験の会計業界に飛び込んだのだ。その会計事務所での勤務を経て独立した遠藤氏は、小規模事業者と女性経営者の支援に注力する戦略で、事務所を順調に成長させている。本稿では遠藤氏に、遠藤税理士事務所の取り組みや、今後の展望について伺った。
アパレル業界から会計の世界へ
―― 遠藤税理士事務所は大阪府寝屋川市を拠点に、15年にわたって活動しています。同事務所の規模は大きくはないものの、独自の活動で順調に顧客を獲得しています。
本日は代表である遠藤公也先生に、これまでの取り組みを伺います。まず、遠藤先生のこれまでの経歴をご紹介ください。
遠藤 私は北海道の網走出身です。網走は私が18歳のころは人口5万人、現在では4万人を切りそうな規模の都市です。つまり、産業がほとんどないため、高校を卒業すると、9割が札幌へ、残りは東京などの都市に出ていきます。
私は人生が変わると期待して、東京へ上京する道を選びました。昭和58年のことです。しかし、当時は学歴社会ですから、期待通りにはいきませんでした。そこで今後、東京でどのように生きていこうかと考えた結果、自分が好きで得意な領域へ進むことにしました。
―― どのような業界ですか。
遠藤 ファッション業界です。洋服の販売が他の人に勝てる領域だろうと考えたのです。同じ業界へ進んだ先輩から「婦人服がおもしろい、紳士服は飽きる」と聞いていたので、婦人服を扱う店舗で働き始めました。
当時はバブルですから、洋服はよく売れました。私自身も池袋パルコなど、重要な店舗で数字を残すことができました。バブルの崩壊も私にとってはよかったのです。それは多くの中堅社員が解雇され、結果的に私がエリアマネージャーとしてキャリアアップできたからです。ただ当時、そのままファッション業界で働くことに疑問を持ち始めていました。
―― それはなぜでしょうか。
遠藤 まず、ファッション業界全体が成長は望めないのではないかと感じました。業界が落ち込むということは、私のチームも将来的にはなくなってしまうかもしれないという不安もありました。そして、もうひとつは女性の進出ですね。今後は女性の店長がどんどん増えて、女性が会社のメインになっていくと思ったのです。そこで、私は何か他の仕事をしてみたいと考えるようになりました。
―― それが会計だったのですね。
遠藤 そうです。昔、そろばんを勉強していて、準初段を持っていることを思い出しました。小売りですからレジを打つ機会がありましたし、そのレジ打ちもかなり早かったですね。数字は好きですし、自分に向いているのではないかと思いました。
そこで専門学校に通い始め、試しに簿記の試験を受けてみました。すると、3級、2級とテンポよく合格することができました。そして1級を受験して、まだ結果が出ない状態で会計業界に転職しようと決めました。28歳のころです。
―― 東京で会計事務所を探したのですか。
遠藤 新たな出発ですから、場所も変わったほうがいいと考え、今の妻が大阪に住んでいたので、大阪の寝屋川市に引っ越しました。
ただ、当時は「転職」というよりも、「転社」が流行っていました。業界を変わるのは珍しく、28歳でもかなり苦労した記憶があります。今では28歳は若い人材と捉えられますが、当時は「業界未経験の28歳では難しい」とよく言われました。それでも、なかには「全く異なる業界から受け入れたい」「営業経験のある人がほしい」という事務所もありました。そこで、合格をもらった公認会計士事務所で働くことにしました。
しかし、その事務所は3カ月で退職しました。よく分かっていなかったのですが、やはり今考えると、会計事務所の業務とは内容が異なりました。また、当時の私は簿記1級の資格しか持っていなかったので、働きながら税理士試験の合格を目指していました。ただ、表向きは資格取得を応援してくれるのですが、なかなか学校に通いにくかったのです。
そこで、3カ月後に別の会計事務所で働き始めました。業界での勤務経験がありましたから、こちらはスムーズに決まりました。
―― その事務所で働きながら資格を取得されたのですか。
遠藤 そうです。合格までには8年かかりました。途中で挫折する人も多かったので、自分では早いほうだと思っています。当初は、勤務税理士として活動していくつもりでしたが、やはり自分で独立したいという気持ちが芽生え、この事務所で10年働いた後、平成15年に寝屋川で開業しました。
―― 独立はスムーズに進んだのですか。
遠藤 独立当初は「三足のわらじ」を履いているような状況でした。自分の事務所の活動以外に、前の事務所から外注という形でお客様を受けており、またアルバイト的に専門学校の講師も務めていました。
少しずつ自分のお客様が増えていくにしたがって、自分の事務所一本に絞っていきました。
独立後の大変な時期を支えたミロク情報サービスのシステム
―― 遠藤先生は事務所の業務を支えるシステムとして、ミロク情報サービスの製品(以下、MJS)を導入されたと伺いました。MJSを使い始めたきっかけを教えてください。
遠藤 10年間勤務していた前の事務所がMJSを使っていたのです。独立したタイミングで、コストダウンを目的に、以前の事務所とは違うシステムに変更される先生も多いようですが、私はMJSの使いやすさをとても気に入っていましたし、サポートもとてもスピーディーで満足していました。ですから、そのままMJSの利用を続けることに決めました。
―― 事務所が成長していくと、雇用の問題が生まれると思います。遠藤先生はどのように取り組んできたのですか。
遠藤 一番初めに雇用する人にはとても気を使いました。私が事務所を不在にしている間に作業してもらうことになりますし、守秘義務の問題もあるからです。そう悩んでいるときに、前の事務所で働いていたスタッフとたまたま駅で遭遇しました。「今は何をしているの?」と聞いてみると、その事務所は辞めていて、別の事務所で週に3日働いているとのことでした。そこで「じゃあ、残りの2日はうちで働きなよ」と声を掛けました。
そこからしばらくは、以前から知っている人を採用することが多かったですね。現在は4名の職員がいます。
―― 事務所の内部を信頼できる職員に任せることができれば、遠藤先生は営業に力を注ぐこともできますね。顧客はどのように獲得していったのですか。
遠藤 独立当初はどのようにお客様を獲得すればよいのか全く分かりませんでした。開業して看板さえ出せば、お客様が勝手に増えていくものだと思っていました。ところが、全く電話が鳴ることはなく、どのようにすれば売上が上がるのか、税理士向けの勉強を始めました。ただ、そういった税理士向けの方法は私にはピンときませんでした。例えばホームページを作成したりしたのですが、成果が出なかったのです。
よく考えてみると私は北海道の出身ですし、東京の大学に通っていたので、大阪には知り合いがとても少ないことに気が付きました。そこで、まずは私のことを知ってもらおうと、さまざまなセミナーや勉強会に参加するようにしました。さらに経営や心理の勉強も行い、そのような場で知り合った人とのつながりを仕事に結びつける方法に切り替えていきました。
―― その当時、年間でどのくらいの顧客が増えていったのでしょうか。
遠藤 この方法は短期でお客様を獲得するというよりも、長期的な視野に立って、口コミが広まりお客様を紹介してもらえるように狙ったものです。ですから、ペースはじっくりではあるのですが、当時は毎月1名の獲得を目標にしていました。
私が税理士の資格を取得したのは40歳手前ですし、全くの異業種にいたものですから、当時は早い人からは10年くらい出遅れたと感じていました。しかし、途中からはファッション業界にいたことが武器になっていると感じました。それは、起業する女性やスモールビジネスを始める方が増えてきて、小規模の事業者に対して、どのように売上を上げるのか、いかに人脈をつなげばいいかという部分の支援では、他に負けないと思えたからです。
大手企業の支援はもちろん楽しいものでしょう。しかし、大手企業には優秀な人材がたくさんいます。私はそれよりも小規模事業者を支援したほうがお役に立てると考え、その方向にシフトしていきました。
女性経営者の支援に特化
―― 中小企業でもなく、小規模事業者に特化する戦略を取られたのですね。
遠藤 そこからさらに踏み込んで、現在は「女性を応援する男性税理士」というスタンスでの支援を展開しています。
今から5年ほど前までは「女性顧客をターゲットにする女性税理士」が多かったですね。「女性の気持ちが分かります」とセールスするわけです。当時は「なるほど、確かにそうだよな」と思いましたが、ビジネスを展開するためには、女性とは異なる視点の男性のアイデアも重要ではないかと考えるようになりました。さらに、男性税理士に「ボディーガード」のような、心強い経営パートナーの役割を望む女性もいることに気が付きました。
当時、大阪では「女性を応援する男性税理士」を見たことがありませんでした。業種特化も考えましたが、世の中の半分は女性ですから、女性をターゲットにマーケティングを展開することに決めました。
―― 女性をターゲットにした取り組みを展開されていかがでしたか。
遠藤 当初は「女性専門税理士」として活動するのはとても恥ずかしかったですね(笑)。しかし、そうも言っていられないので、50名くらいの方が参加するある交流会に参加したときに、「私はファッション業界出身で、寝屋川で女性経営者を支援する税理士です」と一番初めに手を挙げて自己紹介をしました。すると、「将来お願いしたい」「私じゃないけど、紹介したい女性経営者がいる」と言ってくれた方がとても多かったので、女性からの男性税理士へのニーズを確信することができました。
経験上、女性は男性よりもアイデアが豊富だと思います。男性経営者ですと「それはないでしょ」と試しもしないような施策のアイデアが、どんどん出てくるのです。ただその半面、女性経営者にはそのアイデアを絞りきれない傾向はあると感じます。そういったことを踏まえながら支援をしています。これはファッション業界での経験も活きていると感じる場面です。
そして、「女性を支援する税理士」との認知が広まってくると、女性限定の経営や税務のセミナーに講師として呼ばれることがとても多くなりました。特に女性向けのセミナーでは「分かりやすさ」を意識して、質問しやすい雰囲気づくりを心掛けています。
キーワードは「女性」「平成生まれ」「海外」
―― 顧客が順調に増えると、今度は内部の効率化が課題になると思います。遠藤先生はどのように取り組まれたのでしょうか。
遠藤 私たちはMJSの「ACELINK NX-Pro」を基幹システムにしています。そこでリアルタイムでの情報の共有ができるように、顧問先へは「かんたんクラウド」をお薦めして自計化を進めています。「かんたんクラウド」は個人事業主や小規模法人用の会計ソフトなので、私のお客様に合っていますし、使い方が分かりやすいところがいいですね。現在、全体の自計化率は4割ほどです。
―― 今後、中長期的にどのような展望を持っているのかお聞かせください。
遠藤 まず、今後も女性経営者の支援を継続して続けていきます。さらに、これからは平成生まれの経営者がどんどん出てきます。現在はそういった方の支援をする準備をしています。既にさまざまなところで「平成生まれの経営者を応援します」と話したりしています。
やはり、昭和生まれと平成生まれとでは発想が全く異なります。昭和生まれのわれわれが想像もしないようなアイデアをどんどん出してきます。異なる考えを持った私たちが、そのアイデアをうまく実現できるように支援をしたいと考えています。
―― 既に平成生まれの顧問先はいらっしゃるのですか。
遠藤 まだ多くはありませんが、既に何人かはいます。平成生まれの経営者は現在20代です。私は現在53歳ですが、彼らから見ると「兄よりは歳上で、父親よりは歳下」という存在です。違った感覚で話してもらえるのでとても話が合いますし、うまくさまざまなビジネスを展開できると感じています。
その他に、海外のお客様も何人かいます。私は英会話スクールに通っているのですが、現在はまだアメリカ人の経営者と、日本人である奥様を通じてコミュニケーションを取っている状況です。今後は、海外から日本へ進出したいと考える方もどんどん増えると思います。そういった方の支援を担っていきたいとも考えています。通訳を介してもいいと思われるかもしれませんが、やはり直接お話しして、経営や税務のご相談に乗れるようになりたいですね。
さらに、その反対に日本人はあまり海外へ進出しないとよくいわれています。海外へ行ったら「日本人と提携したい」という方はたくさんいます。ですから、お客様を連れて海外へ行き、マッチングをしたいと考えています。大きな企業にはノウハウがあるでしょうが、知見が足りない小規模な企業を支えていきたいのです。
―― やはり事務所の体制も拡大を目指していくのでしょうか。
遠藤 現在の4名の職員は全員パートさんです。むやみに社員を増やしたりはせず、このままの体制でしばらくいってもいいと考えています。
パートさんの出勤は自由です。何時に来てもいいですし、家庭の事情や災害などがあれば出社しなくても構いません。まだ将来の話ではありますが、自宅でのリモートワークもできるようにしていきたいですね。働きやすい環境を整えることで、低い離職率を維持したいと思っています。
―― 最終的にはどのような事務所でありたいとお考えですか。
遠藤 現在のスタイルを大きく変えるつもりはありません。つまり、社員を増やすのではなく、女性のパートさんがどんどん活躍できる事務所でありたいですね。
それを可能にしてくれるのがMJSのソフトです。機能の習得が容易なので、パートさん中心の体制でも業務の品質を高いレベルで維持できます。実際に私たちの申告業務の9割をパートさんが担当しています。残りの1割が私のチェックです。もちろん、ソフトだけではなく、職員が使いこなせるようにマニュアルを使った標準化にも力を入れています。
こういった事務所の様子を見て、「女性にやさしい」「働きたいお母さんに寄り添っている」といった事務所の姿勢が確立すればうれしいですね。
―― 本日は貴重なお話をありがとうございました。ますますの発展を祈念しています。
導入事務所様のご紹介
遠藤 公也(えんどう・きみや)
遠藤税理士事務所 代表。税理士。昭和39年生まれ。北海道出身。拓殖大学出身。大学卒業後、女性服メーカーに入社。その後、大阪府の会計事務所に10年勤務し、平成15年に遠藤税理士事務所を開業。
遠藤税理士事務所
所在地 | 大阪府寝屋川市松屋町20-33 グランドリヴィエール3階 |
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代表者 | 遠藤 公也 |
創業 | 平成15年 |
職員数 | 4名 |
業務内容 |
【コンサルティング】経営、融資、節税アドバイス 【税務書類作成】法人税、所得税、消費税、相続税、贈与税、年末調整、法定調書 |
URL | http://www.endou-tax.jp/ |
- 本事例の掲載内容は取材当時のものです。