導入事例
税理士法人北前会計 様
2019年8月28日
税理士法人北前会計(札幌市北区、東京都新宿区)は、東京出身の中村泰道氏が札幌で開業した会計事務所である。開業から9年目とまだ若い事務所であるが、同事務所は着実に顧問先を獲得。平成29年度には税理士法人へと移行し、東京へも進出。現在は職員数が全体で10名以上の規模にまで成長した。中村先生個人としての活躍も目覚ましく、平成31年には弱冠42歳にして、北海道ミロク会計人会の会長に就任した。本稿では、税理士法人北前会計の中村先生に、同事務所の取り組みについてお話を伺った。(写真撮影:岩本 剛)
東京出身でありながら 北海道で開業した理由
―― 税理士法人北前会計は、札幌を拠点とした会計事務所です。代表社員の中村泰道先生は、東京都の出身にもかかわらず、札幌で開業することを早くから決めていたそうです。
本日は中村先生に近年の取り組みを中心にお話を伺います。実務経営ニュースでは3年ぶりの取材となりますが、あらためてこれまでの足跡をご紹介ください。
中村 私は東京の生まれで、現在も実家は東京にあります。ただ、札幌が大好きで、大学時代からずっと札幌で暮らしています。
札幌の大学を選んだのは、小さな頃に家族で旅行に来たときから札幌をとても気に入っていたからです。そこで北海道大学で勉強して、資格を取ろうと考えるようになりました。
大学卒業後の平成14年に公認会計士試験に合格し、大手監査法人で働きました。その後、平成23年に札幌市内で独立開業しました。
―― 前回の取材時には「東京に進出したい」と伺いましたが、実際に平成29年に税理士法人化する形で東京に支店を開設されました。この経緯を教えてください。
中村 そもそも東京に進出したいと考えたきっかけは、私の従兄弟にありました。その従兄弟は渋谷で会計事務所を営んでいます。従兄弟は私よりもかなり年上なので、親戚一同、将来的には私がその事務所を継ぐだろうと考えていたようです。
でも、私は昔から札幌に永住したいと考えていました。そこで、札幌に本社を持ったまま東京へ進出することを自分のミッションとしたのです。
そして、平成28年の秋ごろ、従兄弟の事務所ではないのですが、私の父の友人が営んでいる新宿の会計事務所を引き継がないかという相談が来ました。その先生は税理士歴50年のベテランです。引退せずもう少しそのまま頑張っていただき、平成29年の7月に吸収する形で税理士法人化して、引き継ぐことになりました。
―― 現在、職員はどのくらいいらっしゃいますか。
中村 札幌が私のほかに7名、東京が3名です。
―― 多くの会計事務所が採用に悩んでいますが、北海道ではいかがですか。
中村 もちろん厳しい状況ではありますが、経験が少ない方や未経験者に教育する余裕があれば、札幌では採用はまだ可能です。
―― 北前会計という名前にはどのような思いがあるのですか。
中村 私は北海道が好きで、この地に来て開業しました。ですから、「北海道にある」という意味を持つ名前にしたかったのです。
ただ、「北海道」や「札幌」を冠にしてしまうと、他の地域ではどうしても外様だと受け止められてしまいます。そこで、北海道と全国をつないでいた「北前船」にあやかって、この名前をつけました。
テクノロジーとアウトソーシングは避けられない時代
―― 会計業界にもクラウド、AI、RPAなどさまざまなテクノロジーが大きなインパクトを与えています。
中村先生は、このようなテクノロジーについてどのように捉えていますか。
中村 もちろん、積極的に活用していきたいと思いますし、活用しなければならないと考えています。
多くの先生が既に実感していると思いますが、従来のような「人だけ」のやり方には限界があります。人件費がかかるというだけではなく、人材不足の現在では人の奪い合いになってしまいます。
しかも、その中身を見てみると、高度な能力を持っている人がやらなくてもいいような仕事に時間を取られています。
―― 高スキルな人材に作業をさせていては生産性は上がりませんね。
中村 その状態を維持して、そのぶんお客様から高い報酬をもらうというのもひとつの戦略でしょう。ただ、それでは置いてきぼりのお客様が出てしまいます。
ですから、きちんとしたサービスを安価に提供できる努力をしなければならないと思います。人海戦術で業務をこなしていくのではなく、機械に任せたり、アウトソーシングを活用したりすればいいわけです。
仕事を細分化して、外部を含めて得意な領域を持つ人に仕事を任せていくことで、業務の水準を保つことができます。これにより、実はコストを下げることができ、単なる安売りではなく、お客様に安価なプランを提案する体制ができます。ですから、テクノロジーは積極的に導入していかなければならないと考えています。
昔は、「売上の3分の1」が人件費であるとよくいわれていました。でも、今はそれが変わってきています。人件費と外注費を合わせてコストとする考え方が主流になっていくと思います。
番頭さんのお客様40件を引き継ぐ
―― 事務所の運営においてどのようなテクノロジーを採用するのかがとても大きい時代だと感じます。基幹システムには何を採用されていますか。
中村 独立開業して1年半くらい経ったころから、ミロク情報サービス(以下、MJS)のシステムを利用しています。
開業当時から知人がMJSのシステムを使っていたので存在は知っていましたし、営業の方にお話を聞いたこともありました。ただ、そのころは自宅を事務所としていましたし、コストの問題もありましたから、そこまでのシステムは必要ありませんでした。
実際にMJSを利用し始めたのは、職員を雇用するようになってからですね。
―― 職員を採用したのはどのようなタイミングだったのでしょうか。
中村 ある会計事務所の番頭さんが、会計事務所ではなく一般の企業に転職することになりました。その番頭さんについていたお客様が40件くらいいらっしゃったのですが、その番頭さんが対応できなくなってしまうので、私が引き継ぐことになりました。
それと同時に、お客様だけではなく従業員も1人引き受けることになりました。そこでMJSを導入する決断をしたわけです。
―― 顧問先においてもMJSを利用されているのでしょうか。
中村 全てのお客様ではありませんが、「記帳くん」を利用していたり、「かんたんクラウド」を導入していたりするお客様がいらっしゃいます。
―― 中村先生は、今年「ミロク会計人会」の北海道会会長に就任されたそうですね。
中村 前会長である税理士法人みらいパートナーズ会計(北海道網走市)の中原章博先生とは懇意にさせていただいていました。MJSを使い始めてからしばらくして、研修を企画する「研修委員会」の北海道会研修委員長を務め、その流れで中原先生とのお付き合いがスタートしました。
3年ほど前から会長に就任しないかというお話を頂いていたのですが、北海道会は200以上の会員がいますし、私はまだ若いので冗談だろうと思っていました(笑)。ただ、またあらためてお話を頂きまして、私は目立つことが好きではないのですが、せっかくお声がけいただいたのならと、就任を決断しました。
―― 今年は「ミロク会計人会」の全国統一研修会が、函館で開催されるそうですね。
中村 全国から800名ほどが集まる予定ですので、きちんと重責を果たしたいと思います。 北海道ではなく、函館ならではの魅力を楽しんでいただけるように考えています。
―― MJSと10年近く付き合ってきて、どのような感想をお持ちですか。
中村 MJSは、やはり横綱相撲を取らなければならない会社です。シェアももちろんですが、システムの安定性、職員の豊富さ、さまざまなネットワークなど、この国の会計業界でトップクラスであることは間違いありません。ただ、歴史のある大企業ゆえに過去の成功体験に縛られ、旧態然としたものがなかなか改善されない面があるというのも事実であると思います。
このような点について、私は現場からさまざまな要望をMJSへぶつけますが、これは愛ゆえのことです。足りない部分を愚痴るだけではなく、あるべき姿への提案を直接伝えられますから、ミロク会計人会に入ってよかったと感じています。
顧問先との対話から新商品を考案
―― 貴事務所では「大家さんパック」「アーティストパック」「フリーランスパック」「飲食店パック」と、業種別に商品を提案するなど、顧問先との敷居を低くするような取り組みをされています。このようなアイデアはどのように考えているのでしょうか。
中村 税理士の仲間との話からアイデアに結びつくこともありますが、多くはお客様との対話から生まれています。例えば「これは自分でやるので、もう少し安くなりませんか?」など、小規模な事業者の悩みを解決するような形で商品にしていきます。
ただ、「理由のない値下げ」は自分の首を絞める行為です。飲食店であれば「日報をまとめて領 収書を添付してもらう」など、私たちの作業を減らせば、そのぶん値下げはできますので、このような形でお客様に寄り添っていくのがパック料金です。
―― その一方で、相続の支援にも取り組まれていますね。
中村 例えば、相続に関するセミナーを開催するなどの取り組みは行っていますが、参加者が直接お客様に結びつくことは少ないですね。ただ、「セミナーに出た人から聞いたんだけど」と巡り巡って、お声がけいただくことが多いのがとてもおもしろいと感じます。
間接的ではありますが、セミナーは確実に効果があると実感しています。
「自分が納得できる」 という軸を持つ意義
―― 今後3年、5年の展望をお聞かせください。
中村 私は「やるからには楽しいに越したことはない」という気持ちを軸に持っています。会計事務所として何が楽しいかと考えてみると、管理者の目が届く10名くらいの規模で運営していくのがベストではないかと考えています。
ですから、今後は10名くらいの規模の支店をさまざまな地域に出したいと思います。その場所は、私が好きな金沢や四国、福岡、新潟など楽しめる地域がいいですね。それぞれの地域で支部長を立て、小回りの利いたサービスを展開していきたいと考えています。
―― 読者の皆様にメッセージをお願いします。
中村 私の活動の根幹にあるのは「楽しい」という思いです。「楽しい」だけでは軽い言葉と捉えられてしまうかもしれませんが、そこには「自分の取り組みに納得している」という意味があります。それが私のベースです。
そのうえで、先ほど申し上げた「パック料金」など具体的な施策について考えています。
また、大切なことはお客様にいかに商品や自分たちの価値を伝えていくかです。推しすぎても逃げられてしまう職業ですから、さりげなく、かつ具体的に魅力を伝えていかなければなりません。私はできる限り細かく考え抜いてこれまでやってきました。
また、それによって、「譲れないものは譲らない」という対応ができるようになりました。一見いい話でも、違和感を覚えたら、「納得できるか」という軸と照らし合わせるわけです。もしかしたら大きな魚を逃しているのかもしれませんが、この違和感と軸を照らし合わせることで、自分が「楽しい」と思うことだけに取り組むことができています。「もったいない」と思うことはもちろんありますが、この軸さえあれば後悔は全くありません。
皆様のお役に立つかどうかは分かりませんが、よろしければ参考にしてください。
―― 本日は貴重なお話をありがとうございました。ますますの発展を祈念しています。
導入事務所様のご紹介
中村泰道(なかむら・やすみち)
税理士法人北前会計 統括代表社員 CEO。公認会計士・税理士。きき酒師。昭和51年生まれ。東京都出身。北海道大学卒。平成14年、公認会計士試験に合格。新日本監査法人(現・EY新日本有限責任監査法人)に入所。平成23年、中村泰道会計事務所を開設。平成29年、税理士法人北前会計へ移行。平成31年、北海道ミロク会計人会 会長に就任。
税理士法人北前会計
所在地 |
〈札幌事務所〉
〈東京事務所〉 |
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代表者 | 中村 泰道 |
設立 | 2011年1月(当初は個人事務所として開業) |
構成人数 | 職員数11名 |
主な業務 | 税金・会計、相続対策・相続税申告、相続税還付、創業支援・事業展開支援、事業承継のお手伝い、M&A支援 |
URL | https://kitamae.or.jp/ |
- 本事例の掲載内容は取材当時のものです。