導入事例
税理士法人徳島 様
2016年10月31日
4つの会計事務所が水平合併して誕生した税理士法人徳島(徳島県徳島市)。社員となった4名の税理士が互いを尊重し、各自の得意分野で強みを発揮することにより、税理士法人全体として充実したサービスの提供を実現してきた。設立から10年経った現在では税理士は7名になり、行政書士、社会保険労務士、宅地建物取引主任者、ファイナンシャル・プランナーなどの専門家を多数擁する総合事務所へと成長した。顧問先からは、融資や経営計画などのコンサルティングに強い税理士法人として厚く信頼されている。今回の取材では、事務所の合併を成長に結びつける秘訣、さらに情報システムの活用などについて、代表社員の日下雅史氏(写真)に伺った。
水平型統合で誕生した税理士法人徳島
―― 税理士法人徳島は、4つの会計事務所が合併して誕生した会計事務所です。現在では県内屈指の会計事務所といえますが、まずは設立の経緯についてお伺いします。
日下 税理士法人徳島は、平成18年に森内昭男先生、岡田正和先生、北條伊織先生、そして日下の4名の税理士事務所が合併してできた税理士法人です。4事務所が対等合併した水平型の組織で、現在は職員が約30名、税理士が7名所属しています。
合併のきっかけは、近年、顧問先のニーズも多様化し、それらに税理士がひとりで対応するのは、これからの時代、難しいといえます。ひとりではなく複数の税理士の知恵を持ち寄ることで、お客様により質の高いサービスをご提供できると思いますし、自分に万一のことがあったときも、お客様や職員に迷惑をかけるリスクが回避できると考え、仲の良かった森内先生、岡田先生、北條先生に法人化の話をしたところ、賛同していただいたという経緯になります。
―― 法人化してから10年が経ちましたが、顧問先の反応はいかがですか。
日下 当初は4名の税理士がそれぞれ顧問先を持っていたわけですから、どうなるのか若干の心配はありました。しかしこの10年間で、法人になって迷惑を被ったといった話をお客様から聞いたことはありません。逆に、法人化して安心感が増したという声はよく聞きますので、ほっとしているところです。むしろ法人化以降、金融機関からの紹介も増え、さらに県内でもある程度規模の大きなお客様を紹介していただくようになりました。金融機関からの信用も厚くなっていると思います。
―― 水平型の組織ということで、法人設立にはある程度ハードルもあったのではありませんか。
日下 4名とも統合前は一国一城のあるじだったわけですから、当然、各自が事務所経営に対する考え方を持っており、それが同じ部分もあれば違う部分もありました。ここをまずは統一しなければなりませんでした。
そこで、私が最初に言ったのは、「言いたいことを言わず、やりたいことをやらずにいたら絶対に長続きしないから、何でも胸襟を開いて話し合っていきましょう」ということでした。
事務所の風土も顧客サービスの内容も事務所ごとに違いますし、意見の相違はあって当然。そこは、腹を割った話し合いによって解決していこうということで、まず取り掛かったのは経営理念の作成でした。
そして、「税理士法人徳島は税務会計および、会計を通してお客様を元気にし、繁栄する明日を築きます。税理士法人徳島は、お客様、従業員、およびその家族の幸せを築き、地域社会の発展に貢献します」という理念を4名で作り上げました。さらに、「それはお客様のためになっていますか。私たちは最新の知識と情報を集めて、常に最善を尽くします。私たちは常に明るく前向きに、情熱を持って仕事に取り組みます。私たちは常に報告・連絡・相談を心掛け、チームワークを高めます」という行動指針も作りました。
―― やはり税理士が複数所属する税理士法人においては、経営理念や行動指針は必要ですね。
日下 必要不可欠だと思います。これらによって税理士法人としての目的、方向性を統一することができました。
その一方で、給与体系などはまだ統一されていません。それぞれ歴史があり、個々の事務所の組織風土がある。給与体系もそうですが、顧客サービスの質もやり方も若干の差が出てしまう。全てを標準化するというのはかなりハードルが高いということを実感しました。
―― 新たな経営理念を根付かせるのも大変なことだと思いますが、どのような工夫をされているのですか。
日下 理念を掲げるだけでは意味がありません。全体に浸透させなければならない。そこで、毎日の朝礼で、経営理念・行動指針を全社員で唱和しています。毎日唱和し、日々の仕事のなかで事あるごとにこの経営理念の意味を説明する。それでも浸透させるのは容易なことではありませんが、その繰り返ししかないと思っています。
法人化で得られたメリット
―― 法人化によって得られたメリットについてお聞きします。
日下 もともと4名の税理士はそれぞれ強み、得意分野を持っていました。その4事務所が統合されたことによって、各自が蓄積した知識やノウハウを共有できるようになりました。相続税に強く、年間20~30件の申告をこなす税理士、医療分野が得意な税理士、経営計画にたけた税理士、さらには行政書士、社会保険労務士、ファイナンシャル・プランナーといった専門家もいますので、それぞれの強みを税理士法人徳島の売りとして前面に出すことができるようになりました。これは大きなメリットだと思います。
設立当初からこのメリットには注目しており、私としては5年以内に、相続、医業、建設などの専門チームを立ち上げたいと思っていました。業種特化、業務特化した組織をつくることで、もっとノウハウが蓄積され、より質の高いサービスをお客様に提供できるようになると考えたからです。残念ながらまだ道半ばですが、コンセンサスは得られていますので、近い将来、必ず実現させたいと考えています。
―― では、ゆくゆくは医業、建設などに業種特化されていくのでしょうか。
日下 特化というよりも、税理士法人徳島の得意分野をさらに強化していくということですね。過去には建設関係が多かった時代もありましたが、バブル崩壊で建築・土木がかなり淘汰され、当社の顧問先でも何社か廃業しました。今は建設関係のお客様が特に多いということはありません。医業のほうも、税理士法人として医業経営コンサルティングを請け負っていますが、特に医業系の顧問先が多いというわけでもありません。
ただ、得意分野としてそれらの業種に対応できるノウハウの蓄積がありますので、そこを強みとして生かしていきたいということです。
また、税理士は7名、社会保険労務士、行政書士、CFPなどの資格者も多数在籍し、保険関係、いわゆるリスクマネジメントにも対応できます。そのため、会計事務所として幅広い業種・業務を包括して行える態勢になっています。最近では、社団法人や社会福祉法人などのお客様も増えてきています。これも法人化による規模のメリットが生かされている結果だと思います。
MJSのシステムで自計化が推進
―― 統合する際は、システムの統一という問題もあったと思いますが、どのように対応したのですか。
日下 現在、メインの業務システムは株式会社ミロク情報サービス(以下、MJS)の製品を使っています。もともと4事務所のうち3事務所がMJS製品を使っていましたので、システムに関しては比較的調整しやすかったと思います。
―― 日下先生の事務所でも、MJSのシステムを導入されていたのですか。
日下 そうです。先代である父親の時代はまだオフコンを使っていましたが、私が入所して間もなく、システムを総入れ替えしました。やはり、オフコンでは汎用性がなく、お客様には高額なハードの購入を強いることになります。そこで、パソコン会計を検討し始めたのですが、ちょうどその頃、タイミングよく当社に来られたのがMJSさんでした。担当の方からパソコン会計についていろいろと教わり、汎用性もあって自由度が高いということで、父を説得しまして導入しました。かれこれ35年ほど前の話です。現在では、MJSの業務システム「ACELINK NX-Pro」などを導入しています。
―― 税理士法人徳島では、顧問先とのやりとりをインターネット経由で行うことで業務を効率化しているそうですね。
日下 事務所にMJSのコミュニケーションツール「iCompassコミュニケーション」を導入し、お客様のところには業務パッケージソフト「iCompassNX」を導入したことにより、それまで紙ベースだったものが、全てデータでやりとりできるようになり、格段に効率性が高まりました。
金融機関から試算表を出してほしいと頼まれたときも、顧問先からインターネット経由でデータを送ってもらえば、すぐに財務報告書を作成し、提出することができます。また、「iCompassコミュニケーション」はお客様のパソコン画面を遠隔操作できますので、自計化が大幅に進みました。
お客様が使っている「iCompassNX」は会計だけでなく、給与計算や販売管理の機能も備えています。これにより給与計算が自動化されたほか、顧問先の社員が増えたりしてもすぐにこちらで登録変更ができますし、年末調整計算もできますので、とても便利になっています。
―― 自計化のツールとして「iCompass」を有効にお使いになっているということですね。
日下 もちろん、お客様によっては他のメーカーのソフトを使われているところもありますので、そこはお客様のご都合に合わせて対応させていただいています。しかし、そういったソフトのデータもMJSのシステムに読み込めるようになっていますので、こちらの処理に特に支障はありません。
―― 事務所内のデータ管理については、どうされていますか。
日下 職員には、「ACELINK NX-Pro」を使って業務日報を入力してもらっています。税理士法で義務付けられている業務処理簿もいちいち作るとなると大変ですが、日報を入力してデータと連動させれば、業務処理簿を効率的に作成できます。
また、事務所内の連絡はメールで行うほか、「ACELINK NX-Pro」のオフィス・マネージャーなどを使い、4事務所で情報を共有しています。
―― MJSの対応についてはいかがですか。
日下 システムのバージョンが変わったり、新しい製品がリリースされたりしたときには、使い方から運用の仕方まで、出張研修という形で担当の方がこちらに説明に来てくださいますので、とても助かっています。
最近では、マイナンバー管理システム「MJSマイナンバー」を導入した際、その研修ということで来ていただきました。これから年末調整の時期を迎えますが、お客様からお預かりしたマイナンバーをいかにして管理していくのかといった内容で、大変参考になりました。
未来会計に軸足を置き、総合事務所を目指す
―― AI(人工知能)の台頭など、会計事務所を取り巻く環境は厳しさを増しています。この状況について、日下先生はどのようにとらえていますか。
日下 将来的にみると税理士業は先細りになっていくだろう、そのような思いもあって10年前、法人化に踏み切ったわけです。それが今日に至って、AIの台頭によってその危機感は一層つのってきました。税務計算にしても会計処理にしても、将来AIに取って代わられるのは火を見るより明らかです。会計事務所の本業は税務会計ではありますが、もうそれだけで生き残っていくことは難しいでしょう。
そこで当法人ではいち早く経営革新等支援機関の認定を取り、中小企業の経営支援に取り組んでいます。中小企業もこの変革の時代、生き残りをかけて必死に頑張っている。そのお手伝いをしようということで、経営計画策定支援、すなわち未来会計を推進しているところです。
この分野のサービスにはより一層力を入れていきたいと思いますが、そのためには、職員のスキルアップ、レベルアップが欠かせません。もちろん制度会計上の研鑽も怠るわけにはいきませんが、それ以上に未来会計のサービスを向上させるべく、社員研修をもっと充実させ、スキルアップを促していかなければならないと思っています。
また、中小企業の経営支援ということでいえば、事業承継サポートも、今後ニーズの高まりが予想されます。当社の顧問先でも頭を悩ませているところは多いため、M&Aによる顧問先同士のマッチング事業を始めました。この分野はなかなか難しいビジネスですが、こういったサービスも中小企業支援の一環として力を入れていきたいと考えています。
―― 最後に、税理士法人徳島の中長期的なビジョンについてお聞かせください。
日下 私たちは、百貨店型の会計事務所を目指して法人化しました。業種を問わず、中小企業の経営問題に関することなら幅広くなんでも対応していくということです。ですから今後は県内ナンバーワン事務所を目標に、規模的にもさらに拡大し、スケールメリットを生かしていきたいと思います。理想をいえば、「徳島県で中小企業経営の問題解決といえば税理士法人徳島」と言われるような組織にしていきたいと思います。
また、最近は社会福祉法人の税務にも取り組んでいます。県内でこの分野に対応できる事務所はまだ多くありませんので、積極的にこのマーケットに入り込み、ここでも「社福なら税理士法人徳島」と言われるくらいになりたいと思っています。
―― よろしければ具体的な数字目標をお聞かせください。
日下 県内トップを目標とするなら、最低でも売上10億円、職員数では50名といったところでしょうか。そこまで大きくするには制度会計だけでは無理ですから、過去会計から未来会計へと軸足をシフトしていく。経営方針としてここだけはブレることはないと思います。
―― 本日はお忙しいところお話をお聞かせいただきありがとうございました。税理士法人徳島の躍進に期待しています。
導入事務所様のご紹介
日下 雅史(くさか・まさふみ)
税理士法人徳島 代表社員。税理士・行政書士。昭和31年生まれ。専修大学経済学部卒。平成元年、税理士試験合格。18年、税理士法人徳島 代表社員就任。
税理士法人徳島
所在地 | 徳島市昭和町8丁目46-20 |
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代表者 | 日下 雅史 |
創業 | 平成18年(税理士法人設立) |
職員数 | 税理士7名、職員約30名 |
業務内容 | 税務業務、会計業務、コンサルティング業務 |
URL | http://www.z-tokushima.com/ |
- 本事例の掲載内容は取材当時のものです。