第27回 ハラスメント相談対応のポイント
2022年4月6日
2022年4月1日、およそ2年間努力義務とされてきた中小企業の職場におけるパワハラ対策が義務化されます。これにより全ての企業は、改正労働施策総合推進法30条の2第1項に規定されている、職場におけるパワーハラスメント(以下、「パワハラ」という)の防止のための雇用管理上の措置を講じなければなりません。今回はその措置のひとつ、相談窓口を設置した際の対応のポイントについて解説いたします。
事業主の講ずべき措置
詳細は「第6回労務管理トピックス<パワハラ防止法>」で解説いたしましたが、事業主の雇用管理上の講ずべき措置は次のとおりです。
- 事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発(就業規則の整備等)
- 相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備(相談窓口の設置等)
- 職場におけるパワハラに係る事後の迅速かつ適切な対応(相談者・行為者への対応等)
- その他併せて講ずべき措置(プライバシー保護、解雇その他不利益な取扱い禁止等)
相談窓口の設置
相談窓口は、パワハラのみならず、セクシャルハラスメント(セクハラ)や妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント(マタハラ)等にも対応できる方が望ましいでしょう。実際には各企業の人事部(なければ総務部)が中心となって窓口担当者を選任するのが一般的ですが、社内では十分な相談体制が整わない等の理由から、窓口を社外(社会保険労務士、弁護士、産業医等)に委託する企業も見受けられます。また、社内 と社外の双方に設置し、連携して対応する企業もあるようです。いずれにせよ、窓口担当者、相談方法、相談可 能な日時等を明記した書面をメール、社内報、リーフレット等で周知し、可能であれば説明会等の実施をお勧めいたします。
相談対応のポイント
厚生労働省の指針(以下、「指針」という)に、「相談窓⼝担当者が、相談の内容や状況に応じ適切に対応できるようにすること。相談窓⼝においては、被害を受けた労働者が萎縮して相談を躊躇する例もあること等も踏まえ、相談者の心⾝の状況や当該言動が⾏われた際の受け止めなどその認識にも配慮しながら、ハラスメントが現実に生じている場合だけでなく、発生のおそれがある場合や、ハラスメントに該当するか否か微妙な場合であっても、広く相談に対応すること。」といった内容が示されています。
また、「事案が生じてから、誰がどのように対応するのか検討するのでは対応を遅らせることになります。迅速かつ適切に対応するために、相談窓⼝と個別事案に対応する担当部署との連携や対応の⼿順などを予め明確に定めておきましょう。事実確認は、被害の継続、拡大を防ぐため、相談があったら迅速に開始しましょう。」と示されていますので、図1のような対応手順書等を予め準備しておいた方がよいでしょう。さらに「事実確認が完了していなくても、当事者の状況や事案の性質に応じて、被害の拡大を防ぐため、被害者の⽴場を考慮して臨機応変に対応しましょう。 ハラスメントがあったのか、⼜はハラスメントに該当するか否かの認定に時間を割くのではなく、問題となっている言動が直ちに中止され、良好な就業環境を回復することが優先される必要があることは言うまでもありません。」と示されていることからも、相談担当者は、相談者が安心して働けるように、就業環境の改善が最優先事項であることを忘れてはなりません。
最近では「ワクチン接種を強要された」「ワクチン未接種のため、配置転換させられた」等の「ワクチンハラスメント」ともいえるパワハラ事案への適切な対応も求められます。
相談者・行為者のプライバシー保護
指針には、「職場におけるハラスメントに関する相談者・⾏為者等の情報はその相談者・⾏為者等のプライバシーに属するものであることから、相談への対応⼜はそのハラスメントに関する事後の対応に当たっては、相談者・⾏為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講ずるとともに、その旨を労働者に対して周知すること。なお、このプライバシーには、性的指向・性自認や病歴、不妊治療等の機微な個⼈情報も含まれること。」と示されています。実際には相談者のプライバシーを保護することで、行為者にハラスメントの事実を具体的に伝えるのは難しくなりますので、相談者と相談担当者との間で、プライバシーの範囲や行為者に開示してよい範囲等を十分に協議するべきです。また、行為者のプライバシー保護の観点から、ハラスメントの事実が確定し、規定に従って処分することとなった場合も、詳細な事実関係を公示することは避けた方がよいでしょう。
行為者からの報復防止策
「報復が怖いので行為者に伝えないでほしい」と言う相談者は多く、同じ部署内の複数の従業員から行為者によるハラスメントに該当するような行為や言動がないか確認するなど、相談者が限定されないようにするなどの工夫が必要になります。また、行為者に伝える際は、報復があった場合に備え、処罰の告知や行為者の上司による指導等を徹底する必要があります。
事実確認と事実認定
相談担当者は中立的な立場で事実の聞き取りに徹し、事実認定や評価は、社内及び社外の複数メンバーで協議すべきです。そのためには、図1を参考に社内の相談対応手順、相談対応マニュアル等を作成し、社内外における連携体制を整えておくことが不可欠となります。
(図1:相談・苦情への対応の流れの例)
(出典:厚生労働省「職場におけるパワーハラスメント対策が事業主の義務になりました!」)