第40回 1か月単位の変形労働時間制
2023年5月10日
前回解説いたしました変形労働時間制の中で、今回は多くのサービス業等で導入している「1か月単位の変形労働時間制」について詳しく解説いたします。
1か月単位に限らず、変形労働時間制の最大のメリットは、仕事の繁閑に応じてある労働時間を設定できる点です。中でも「1か月単位の労働時間制」は、1日の労働時間の上限や1週間の労働時間の上限がないので、労働時間設定の自由度が高いのが特徴です。健康面の問題を別にすれば、例えば1日16時間勤務することも、連続12日間勤務することも可能です。ただし、フレックスタイム制とは違い、事前に労働日と労働時間を設定しなければなりませんので、労働日当日の忙しさに合わせて労働時間を調整できるものではありません。
1か月単位の変形労働時間制を導入している業種
1か月単位の変形労働時間制は、休日が少ない会社や、1日の労働時間が長時間となるような業種に向いています。宿泊業、飲食業、美容業、医療・福祉、運輸業、建設業、不動産業、卸・小売業など、様々な業種で導入されています。いわゆる「シフト勤務」は、1か月単位の変形労働時間制を導入して運用するのが一般的です。企業にとっては、業務の繁閑に合わせて事前に出勤人数や出勤日の労働時間を調節できるため、無駄な残業代を含む人件費を削減できます。また、労働者はメリハリのある柔軟な働き方が可能となります。
1か月単位の変形労働時間制の時間計算のルール
1か月単位の変形労働時間制は、1か月以内の期間を平均して1週間当たりの労働時間が40時間(特例措置対象事業場(※1)は44時間)以内となるように、労働日および労働日ごとの労働時間を設定することにより、労働時間が日によって8時間を超えたり、週によって40時間(特例措置対象事業場は44時間)を超えたりすることが可能になる制度です(労働基準法第32条の2)。そのため、対象期間の労働時間を、図表1の計算にならって上限時間以下とする必要があります。
(図表1)上限時間の計算方法
(出典:厚生労働省リーフレット「1か月単位の変形労働時間制」)
(※1)常時使⽤する労働者数が10人未満の商業、映画・演劇業(映画の製作の事業を除く)、保健衛生業、 接客娯楽業
法定時間外労働(残業時間)の計算方法は次の通りです。
①1日について
8時間を超える時間を定めた場合はその時間(例:1日の所定労働時間が10時間で、11時間働いた場合、1時間)、それ以外の日は8時間を超えて労働した時間(例:1日の所定労働時間が6時間で、9時間労働した場合、8時間を超えた1時間)が残業時間となり、割増賃金の支払いが必要となります(図表2)。
(図表2)
②1週について
40時間(特例措置対象事業場は44時間)を超える時間を定めた週はその時間(例:1週の所定労働時間が42時間で、43時間働いた場合、1時間)、それ以外の週は40時間(特例措置対象事業場は44時間)を超えて労働した時間(例:1週の所定労働時間が38時間で、41時間働いた場合、1時間)が残業時間となり、割増賃金の支払いが必要となります。
③1か月(対象期間)について
図表1の対象期間が1か月の場合の上限時間を超えて労働した場合、その時間(例:31日の月で、週の法定労働時間が40時間の事業場で180時間働いた場合、2.9時間)が残業時間となり、割増賃金の支払いが必要となります。
1か月単位の変形労働時間制の導入ステップ
ステップ1 <労使協定または就業規則に必要事項を定める>
- 対象労働者の範囲:全社員なのか特定の部署なのか、対象範囲を明確にします。
- 対象期間と起算日:1か月以内の期間でその起算日をいつにするか決めますが、一般的には賃金計算期に合わせています。(例:毎月1日から月末まで、毎月21日から翌月20日まで)
- 労働日および労働日ごとの労働時間:対象期間の所定労働日と所定労働時間をあらかじめ具体的に決定します。その際、対象期間を平均して、1週当たりの労働時間が40時間(特例措置対象事業場は44時間)を超えないように設定しなければなりません。また、シフト表などで管理する場合は、その旨を就業規則等に明記し、労働日よりも前にシフト表を周知できるようにしなければなりません(シフト作成例は図表3を参照)。
- 労使協定の有効期間:労使協定を定める場合(就業規則に必要事項を定めれば、労使協定は不要)、労使協定の有効期間を定めます。3年以内が望ましいとされています。
ステップ2 <労働者に周知>
残業代の計算方法等が若干複雑になるため、制度の概要説明を徹底すべきです。また、業務の都合上、長時間労働の設定が必要な場合、休日を少なく設定しなければならない場合などは、対象労働者と事前に十分な話し合いが必要でしょう。
ステップ3 <所轄労働基準監督署への届出>
作成した労使協定、または作成(変更)した就業規則は労働者に周知後、速やかに所轄労働基準監督署に届出が必要です。
常時使用する労働者が10人未満の場合は、就業規則の作成・届出が不要ですが、1か月単位の変形労働時間制を導入するためには、労使協定または就業規則のいずれかの作成が必要となりますので注意してください。
1か月単位の変形労働時間制は、様々な業種にとって大きなメリットがある反面、労働日や労働者によって労働時間が変動しますので、時間管理が煩雑になる恐れがあります。導入の際には、総務や人事担当者に負担が増えないように、自社に合った勤怠管理システムも合わせて導入を検討することをお勧めいたします。
(図表3)
(出典:厚生労働省リーフレット「1か月単位の変形労働時間制」に加筆・修正)