第41回 1年単位の変形労働時間制

2023年5月31日

 前回の「1か月単位の変形労働時間制」に続いて、今回は最長1年間を単位とする「1年単位の変形労働時間制」について詳しく解説いたします。

 1年単位の変形労働時間制とは、労使協定を締結して所轄労働基準監督署に届け出ることにより、1か月を超え1年以内の期間を平均し1週間の労働時間が40時間以内の範囲において、1日および1週間の法定労働時間を超えて労働させることができる制度です(労働基準法第32条の4)。

 季節や時期によって繁閑がある事業場などで、繁忙期には長い労働時間を設定し、閑散期には短い労働時間を設定することにより、効率的に労働時間を配分することができます。1日の所定労働時間を、最も忙しい時期は10時間、暇な時期は6時間、などといった調整が可能となり、無駄な拘束時間の削減にもつながります。ただし、比較的自由に労働時間の配分を設定できる「1か月単位の変形労働時間制」とは違い、1日および1週間の労働時間、連続して労働させる日数には限度が設けられています。

1年単位の変形労働時間制を導入している業種

 1年単位の変形労働時間制は、季節や時期によって繁閑が明確な業種に向いています。主な業種では、製造業、建設業、運輸業、郵便業、小売業、教育業などに多く導入されているようです。また、民間の企業ではありませんが、2021年4月から地方自治体の条例により、公立学校の教員にも1か月単位の変形労働時間制が導入できるようになりました。学校の業務には学期末・学年末などの忙しい時期と、夏休みなどのほとんど生徒が登校しない時期がありますので、制度導入は適しているといえます。

1年単位の変形労働時間制の導入ステップ

ステップ1<就業規則の規定・労使協定の締結および所轄労働基準監督署へ届出>

 1年単位の変形労働時間制を導入するためには、就業規則に必要事項を規定したうえで、労使協定の締結、および所轄労働基準監督署への届出が必須となります。この点は、就業規則に必要事項を規定すれば導入することが可能な1か月単位の変形労働時間制と大きく違うところです。

 労使協定に定めなければならない事項は次の①~⑤となります。

  1. 対象労働者の範囲:法令上、原則として対象労働者の範囲については制限はありません。
    (年少者を対象とする場合は、1日8時間、1週48時間が限度となります)
  2. 対象期間および起算日:対象期間は、1か月を超え、1年以内の期間に限ります。また、具体的な期日ではなく期間で定める場合は起算日を明記する必要があります。
  3. 特定期間:②の対象期間中の特に繁忙な期間を「特定期間」として定めることができます。
    ただし、後述の通り、連続して労働させる日数に限度があります。
  4. 労働日および労働日ごとの労働時間:②の対象期間を平均して1週間当たりの労働時間が40時間を超えないように、対象期間の各日、各週の所定労働時間を定める必要があります。
    ただし、対象期間が1か月を超える場合は、全ての対象期間の労働日等を特定する必要はなく、対象期間を1か月ごとに区分して、各期間が始まるまでに、その期間における労働日および労働日ごとの労働時間を特定すれば良いことになっています。
    ただし、特定した労働日または労働日ごとの労働時間を任意に変更することはできません。
  5. 労使協定の有効期間:労使協定そのものの有効期間は②の対象期間より長い期間とする必要がありますが、通常は対象期間と同じ1年程度とします。

ステップ2<労働者に周知>

 労使協定に定められていることはもちろんのこと、割増賃金の計算ルールなど、通常勤務と異なる部分については説明が必要です。例えば1日の所定労働時間が10時間と設定されている日は、8時間を超えて働いても割増賃金は支払われず、10時間を超えて労働した場合に支払われます。

ステップ3<最初の期間以降の労働日および労働日ごとの労働時間の特定>

 対象期間が1か月を超える場合、対象期間の2か月目以降の労働日および労働日の労働時間については、各期間の初日の30日以上前に、当該各期間における労働日および労働日ごとの労働時間を、過半数労働組合または労働者の過半数を代表する者の同意を得て書面で定めなければなりません。

労働日および労働日ごとの労働時間の限度

 労働日および労働日ごとの労働時間に関しては、次の①~③の限度があります。

①労働日数の限度(対象期間が3か月を超える場合)

 労働日数の限度=280日×対象期間の歴日数 / 365

1年:280日

②1日および1週間の労働時間の限度

 対象期間が3か月を超える場合は、次のいずれ
 の条件も満たさなければなりません。

1日:10時間、1週:52時間

 A :労働時間が48時間を超える週を連続させることができるのは3週以下。
 B :対象期間を3か月ごとに区分した各期間において、労働時間が48時間を超える週は、週の初日で数えて3回以下。

③対象期間および特定期間における連続して労働させる日数の限度

 対象期間については連続6日、特定期間については、1週間に1日の休日が確保できる日数(図表1参照)。

対象期間:連続6日

特定期間:連続12日

(図表1)

(出典:東京労働局「1年単位の変形労働時間制導入の手引き」)

清算が必要な割増賃金

 1年単位の変形労働時間制の対象期間の途中で入社した者、途中で退職した者、配置転換された者などについては、実労働時間を平均して1週間当たり40時間を超えて労働した時間に対して、次の図表2の計算式により割増賃金の清算が必要となります。

(図表2)

(出典:東京労働局「1年単位の変形労働時間制導入の手引き」)

育児を行う者等に対する配慮

 1年単位の変形労働時間制を導入する際には、育児を行う者、老人等の介護を行う者、職業訓練または教育を受ける者、その他特別の配慮を要する者については、これらの者が育児等に必要な時間を確保できるような配慮をしなければなりません。

 1年単位の変形労働時間制は、繁忙期には長い労働時間を設定し、閑散期には短い労働時間を設定することにより、運用次第では1年間の総労働時間を短くすることができます。企業にとっては無駄な残業代を削減することができ、労働者にとっては無駄な拘束時間がなくなり、終業後の予定が立てやすくなります。
 ただし一方で労働時間の管理が複雑になる分、勤怠管理を行う部署等では業務量が増加する可能性があります。導入を検討する際には、自社の事業形態や社内の体制等を踏まえて、労働者の負担が増えないように注意が必要です。

筆者紹介

加藤千博

MJS税経システム研究所 客員研究員
社会保険労務士法人加藤マネジメントオフィス 代表社員
社会保険労務士 加藤 千博
http://www.kmo-sr.jp/

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