第43回 フレックスタイム制2
2023年8月2日
前回に続き、フレックスタイム制について解説いたします。今回は、フレックスタイム制の時間外労働の基本的なルール、休日出勤の考え方や遅刻はどう考えればよいのか、さらに年次有給休暇の扱い方等を解説いたします。
フレックスタイム制における時間外労働
通常勤務の場合は1日8時間、1週40時間を超えて労働した場合は時間外労働として扱われることになりますが、フレックスタイム制では1日または1週ではなく、清算期間を通じて法定労働時間の総枠を超えて労働した時間が時間外労働として扱われます。したがって、フレックスタイム制においては、36協定にて「1日」の延長時間について定める必要はなく、「1か月」「1年」の延長時間を定めます(図表1)。
(図表1)
(出典:厚生労働省「フレックスタイム制のわかりやすい解説&導入の手引き」)
清算期間が1か月を超える場合(最長3か月)は、①1か月ごとに、週平均50時間を超えた労働時間と、②清算期間を通じて、法定労働時間の総枠を超えて労働した時間(①でカウントした時間を除く)が時間外労働となります。
清算期間が1か月を超える場合は、時間管理が煩雑になりますので、勤怠管理担当者はフレックスタイム制の細かいルールまで熟知しておくべきでしょう。
フレックスタイム制における休日出勤・遅刻の取り扱いの考え方
フレックスタイム制では、日ごとの労働時間について労働者自らの決定に委ねられていますが、「休日出勤した場合はどのような扱いになるのか?」という疑問が生じます。休日出勤に関しましては、その休日が「法定休日」なのか「所定休日」なのかで扱いが違います。
「法定休日」(1週につき1日、または4週につき4日)に労働した場合は、清算期間における総労働時間や時間外労働とは別個のものとして扱われ、35%以上の割増賃金率で計算した賃金の支払いが必要となります。
一方、「所定休日」に労働した場合は、休日出勤とはならず、またその時間が直ちに時間外労働となるわけではありません。この場合は、通常の時間外労働の計算と同様に清算期間を通じて、法定労働時間の総枠を超えて労働した時間が時間外労働となります(図表2)。
(図表2)
その他、フレックスタイム制での時間管理に関して、「遅刻した場合はどのような扱いになるのか?」という質問が筆者によく寄せられます。フレックスタイム制では、始業・終業の時刻を労働者が自由に決められることから、原則として「遅刻」という概念が存在しません。ただし「コアタイム」を定めていた場合は、その時間に遅れた場合「遅刻」となりますが、この場合でも、賃金から不就労控除することはできず、清算期間の総労働時間を満たしているか否かで判断されることになります。総労働時間を満たしていれば不就労控除はできませんので、「遅刻」に対して何かしらのペナルティを課す場合は、予め就業規則等に懲戒処分の内容(例えば、減給処分等)を明記しておく必要があります。
フレックスタイム制における年次有給休暇
フレックスタイム制においても当然に年次有給休暇を取得することができます。取得した場合、労使協定で定めた「標準となる1日の労働時間」を労働したものとして扱われることになります。例えば「1日8時間」と定められていれば、8時間労働したことになり、1日単位ではなく「半休」取得した場合は、4時間(実際には就業規則等に明記する必要があります)となります。ただし、年次有給休暇を取得した時間は清算期間における総労働時間にはカウントされるものの、時間外労働の基礎となる法定労働時間の総枠にはカウントされませんので注意が必要です。
フレックスタイム制での年次有給休暇の取得で、「総労働時間の不足分を有給で補填することは可能か?」という質問を寄せられることがありますが、「違法」とまでは言い切れないものの、「年次有給休暇の買い取り」と同じことになりますので、法律の趣旨・目的に反するものと考えられるため、労働者本人の同意、または本人からの要望があったとしても、避けた方がよいでしょう。
フレックスタイム制は、それが適した企業にとっては柔軟性と効率性をもたらす制度であるといえますが、複雑なルールをよく理解した上での導入をお勧めいたします。