第52回 障害者雇用促進法の改正

2024年5月8日

 すべての企業は、障害に関係なく、能力等に応じて、誰もが職業を通じた社会参加のできる「共生社会」実現の理念の下、「障害者の雇用の促進等に関する法律」(以下、「障害者雇用促進法」という)に従い、法定雇用率以上の割合で障害者を雇用する義務があります。

 厚生労働省の「令和4年障害者雇用状況の集計結果」によると、雇用されている障害者数は約61.4万人と過去最高になりましたが、民間企業の達成率はまだ50%を下回っているのが現実です。各企業の法令に対する認知度も決して高くなく、取り組みを「難しい」と感じている企業や人事担当者も少なくないようです。

 そこで今回は、令和6年4月以降の障害者雇用促進法の改正点について解説いたします。

法定雇用率・除外率

 障害者雇用促進法では、「従業員が一定数以上の規模の事業主は、従業員に占める身体障害者・知的障害者・精神障害者の割合を法定雇用率以上にする義務がある」と定められています。

 ここでいう「身体障害者・知的障害者・精神障害者」とは、次の者をいいます。

  • 身体障害者=身体障害者手帳保持者(重度身体障害者も含む)
  • 知的障害者=療養手帳など、各自治体が発行する手帳の保持者、知的障害者と判定する判定書保持者(重度知的障害者も含む)
  • 精神、発達障害者(精神障害者保健福祉手帳の保持者)で、症状安定し、就労ができる人

 令和6年4月の障害者雇用促進法の改正により、法定雇用率が2.3から2.5に引き上げられ(図表1参照)、従業員数40.0人以上の企業が雇用義務の対象となります。(40.0人未満の企業には雇用義務は発生しません)なお、障害者の就業が一般的に困難であると認められる業種の場合は、雇用する労働者数の計算時に、除外率に応じて労働者数を控除することが認められています。
 ただし、ノーマライゼーションの観点から制度そのものはすでに廃止されており、当面の間は特例措置として残るものの、段階的に縮小が行われます。

(図表1:法定雇用率の引き上げ)

(出典:厚生労働省リーフレット「障害者の法定雇用率引上げと支援策の強化について」)

一部の週所定労働時間20時間未満の方の雇用率への算定

 障害者の雇用については、週の所定労働時間が20時間以上の雇用を基本としていたため、週20時間未満の対象障害者については、これまで雇用義務の対象とはされていませんでした。
 ところが近年、精神障害者の割合が増加傾向にあること等から、今回の改正で週の所定労働時間10時間以上20時間未満で働く重度の身体障害者、重度の知的障害者、精神障害者を実雇用率に特例的に算定できることになりました。(図表2)

 (図表2:雇用率制度における算定方法(赤枠が措置内容))

  • 0.5ではなく1とカウントする措置は、当分の間延長されている  

障害者雇用納付金の申告納付

 令和6年度において障害者雇用納付金の申告をしなければならない事業主の範囲は、前年度(令和5年4月から令和6年3月まで)の各月ごとの算定基礎日における常用雇用労働者の総数(「短時間以外の常用雇用労働者数」と「短時間労働者数(1人を0.5カウント)」を合算した数)について、100人を超える月が5か月以上である事業主となります。
 この場合、100人を超える月と100人以下となる月とを合わせた12か月分を申告することとなります。
 そして、法定障害者雇用率(令和5年度2.3%)に満たない事業主は障害者雇用納付金を納付する義務があります。具体的には前年度(令和5年4月1日から令和6年3月31日まで)の各月ごとの算定基礎日における常用障害者数の年度間合計数が、各月ごとの算定基礎日における法定雇用障害者数の年度間合計数に満たない事業主です。

 障害者雇用納付金の計算方法は次の通りです。

納付金の額=(A-B)×50,000円(月額)※

→ 各月毎の算定基礎日における法定雇用障害者数の年度間合計数
→ 各月毎の算定基礎日における常用障害者数の年度間合計数

  • 法定障害者雇用率未達成企業(障害者雇用納付金の申告対象事業主)で、在宅就業障害者特例調整金の支給がある場合は、その額に応じて、障害者雇用納付金が減額されます。

障害者雇用のための事業主支援を強化(助成金の新設・拡充)

  • 雇入れやその雇用継続に関する相談支援、加齢に伴う課題に対応する助成金を新設します。
    • 障害者雇用に関する相談援助を行う事業者から、原則無料で、雇入れやその雇用継続を図るために必要な一連の雇用管理に関する相談援助を受けることができるようになります。
    • 加齢により職場への適応が難しくなった方に、職務転換のための能力開発、業務の遂行に必要な者の配置や、設備・施設の設置等を行った場合に、助成が受けられるようになります。
  • 既存の障害者雇用関係の助成金を拡充します。
    • 障害者介助等助成金(障害者の雇用管理のための専門職や能力開発担当者の配置、介助者等の能力開発への経費助成の追加)や職場適応援助者助成金(助成単価や支給上限額、利用回数の改善等)の拡充、職場実習・見学の受入れ助成の新設など、事業主の皆様の障害者雇用の支援を強化します。

筆者紹介

加藤千博

MJS税経システム研究所 客員研究員
社会保険労務士法人加藤マネジメントオフィス 代表社員
社会保険労務士 加藤 千博
http://www.kmo-sr.jp/

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