第57回 フリーランス活用の留意点

2024年10月2日

 前回は「フリーランス新法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)」の概要について解説いたしました。
 フリーランスは正社員とは異なる働き方をするため、その特徴を理解し、適切に対応することが、円滑な協力関係を築くための鍵となります。また、労働関係法令や社会保険の適用外となる場合が多いため、過剰な労働や不当な要求をしないように注意が必要です。「フリーランス新法」では、取引の適正化や就業環境の整備が義務付けられており、取引条件の明示や報酬の支払い期日、ハラスメント対策などに関する規定が設けられています。これにより、フリーランスが安心して働ける環境が求められるようになりました。企業はこれらの法律を遵守し、フリーランスの権利を守ることが求められます。
 そこで今回は、フリーランス新法の上でフリーランスを活用するための留意点について解説いたします。

偽装請負との関係

 契約形式が業務委託契約であっても、裁判所や労働基準監督署が実態を判断し、発注事業者の指揮監督下で働いていると認められた場合、その者は「労働者」とみなされます。この場合、労働関係法令が適用され、発注事業者は同法令に基づく使用者としての責任を負うことになります。悪質な場合、「偽装請負」として違法行為となる可能性があります(労働基準法6条、職業安定法44条)。
 したがって、フリーランス新法を遵守しているからといって、労働関係法令が無関係になるわけではありません。発注事業者は、契約形式にかかわらず、実態に基づいて法令遵守を徹底する必要があることに留意すべきです。

安全衛生対策

 2021年5月の石綿作業従事者による国家賠償請求訴訟の最高裁判決で、労働安全衛生法22条が労働者以外の者も保護する趣旨であると判断され、個人事業者にも労働者と同等の保護措置を義務付ける省令改正が2回行われました(2023年4月1日、2025年4月1日施行)。
 さらに、フリーランスに対しても労災保険特別加入制度の整備が進められ、芸能やアニメ制作従事者が対象に追加されてきました。2024年11月からは、フリーランスが幅広く加入できるよう、フリーランス新法上のフリーランス(特定受託事業者)が発注者から業務委託を受けて行う事業を、新たに「特定フリーランス事業」として対象事業とする省令改正がなされています。

妊娠出産、育児介護に対する配慮義務

 フリーランス新法では、フリーランスの妊娠・出産や育児・介護と仕事の両立を支援するため、柔軟な就業環境整備が求められています。契約内容や働き方が多様であることを踏まえ、契約の性質に応じた配慮規定が設けられました。具体的には、6カ月以上継続する業務委託契約において、フリーランスが妊娠や育児・介護に関する配慮を申請した場合、発注事業者は状況に応じた配慮を行う義務があります(法13条1項)。
 一方、それ以外の業務委託では、発注事業者には努力義務が課されます(同条2項)。契約終了日が定められていない場合も、継続的業務委託と見なされる点に注意が必要です。
 配慮義務は、合理的な理由がない限り申出に対応する義務を負いますが、結果の達成までは求められません。発注事業者は、配慮の内容を把握し、対応策を検討した上で結果を伝える必要があります。
 配慮の内容は、状況に応じて異なるものであり、個別に対応を検討することが必要とされ、指針には例として以下が挙げられています(指針第3の2(2))。

  1. 妊婦健診がある日について、打合せの時間を調整してほしいとの申出に対し、調整したうえでフリーランスが打合せに参加できるようにする
  2. 妊娠に起因する症状により急に業務に対応できなくなる場合について相談したいとの申出に対し、そのような場合の対応についてあらかじめ取決めをしておく
  3. 出産のため一時的に特定業務委託事業者の事業所から離れた地域に居住することとなったため、成果物の納入方法を対面での手渡しから宅配便での郵送に切り替えてほしいとの申出に対し、納入方法を変更する
  4. 子の急病などにより作業時間を予定どおり確保することができなくなったことから、納期を短期間繰り下げることが可能かとの申出に対し、納期を変更する
  5. 介護のために特定の曜日についてはオンラインで就業したいとの申出に対し、一部業務をオンラインに切り替えられるよう調整する

ハラスメント防止改善措置義務

 フリーランスに対するハラスメントは少なくなく、令和5年度の公正取引委員会と厚生労働省による実態調査では、10.2%のフリーランスが取引先の従業員からハラスメントを受けた経験があると回答しています。このような状況を受け、フリーランスが安定して働ける環境を整備するため、発注事業者にハラスメント防止措置が義務付けられました。
 具体的には、発注事業者は業務委託に関するハラスメントによってフリーランスの就業環境が害されないよう、フリーランスからの相談に応じて適切に対応し、体制を整える必要があります(法14条1項)。さらに、相談を理由に契約解除などの不利益な扱いをしてはならないと定められています(同条2項)。
 この義務は、組織的な発注事業者(特定特定業務委託事業者)に適用され、継続的業務委託に限定されません。また、業務委託に関するハラスメントは、業務を遂行する場所や場面で行われる言動を指し、取引先の事務所や打合せのための場所も含まれます。
 さらに、報酬の支払い遅延や不当な報酬減額もハラスメントと見なされる可能性があり、これらは別途、報酬の支払期日や遵守事項に関する法規定にも違反することがあります。発注事業者はこれらの点に十分に注意を払う必要があります。
 労働関係法令の場合と同様に、これらのハラスメントに関し次の措置が求められることとなりました(指針第4の5)。

  1. 方針の明確化とその周知・啓発
  2. 相談・苦情に応じ適切に対応するための体制整備(相談窓口の設置など)
  3. 相談への迅速・適切な対応(ハラスメントが確認できた場合の被害者への配慮措置、行為者への懲戒など)、再発防止措置
  4. プライバシー保護(性的指向・性自認や病歴、不妊治療などの機微な個人情報も含まれる)、不利益取扱い禁止などの措置

解雇等の予告義務

 フリーランスが契約を突然解除された際の負担を軽減し、次の取引への円滑な移行を図るため、発注事業者に対し契約の解除や不更新を事前に予告する義務が設けられました。具体的には、発注事業者が継続的業務委託契約を解除、または更新しない場合には、契約相手であるフリーランス(特定受託事業者)に少なくとも30日前に予告する必要があります(法16条1項)。この義務は、6カ月以上フリーランスと契約を継続する組織的な発注事業者(特定業務委託事業者)に適用されます。
 なお、契約解除は発注事業者が一方的に行う場合に該当し、合意による解除は対象外ですが、合意はフリーランスの自由意志に基づくものでなければなりません。また、あらかじめ解除条件を定めていた場合でも、例外事由に該当しない限り予告が必要です。契約不更新も同様に、事前予告が求められます。

まとめ

 フリーランスの働き方は、柔軟な働き方を求める人々にとって利点があるだけでなく、企業にとっても社内にないスキルや知識を取り入れる機会となります。急速に変化する社会環境に対応し、競争力を高めるためには、フリーランス新法などの法令に従いながら、フリーランスの積極的な活用を進めることが有効です。これにより、企業は多様な専門性を取り入れ、効率的な事業展開を図ることができるでしょう。

筆者紹介

加藤千博

MJS税経システム研究所 客員研究員
社会保険労務士法人加藤マネジメントオフィス 代表社員
社会保険労務士 加藤 千博
http://www.kmo-sr.jp/

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