第38回 月60時間超の割増賃金率の引上げ2

2023年3月1日

 前回は、2023年4月1日から全ての企業において、法定時間外労働の合計が月60時間を超えた場合、50%以上(現行は25%以上)の割増賃金の支払いが義務化される内容について解説いたしました。今回は、引上げ分の割増賃金の代わりに有給の休暇を付与することができる、代替休暇制度について、および実務上の問題点について解説いたします。

●代替休暇制度の概要

 代替休暇制度は、月60時間を超える残業(法定時間外労働)は健康上あまり望ましいものではないので、その労働者の健康を確保する目的で、引上げ分の割増賃金の代わりに有給の休暇(代替休暇)を付与することができる制度です。ただし、代替休暇制度を導入するためには、過半数代表者等との間で4つの項目(①代替休暇の時間数の具体的な算定方法 ②代替休暇の単位 ③代替休暇を与えることができる期間 ④代替休暇の取得日の決定方法、割増賃金の支払日)を定めた労使協定を締結する必要があります。また、代替休暇を取得するか否かは、労働者の自由意思によるもので、事業主の都合で取得させることはできません。
 具体的に、例えば月80時間の法定時間外労働をした場合、代替休暇の対象となるのは、60時間を超えた割増率が50%となる部分です(図表1のオレンジ色の部分)。それ以外の部分(図表1の濃いブルーの部分)については、通常の割増賃金(25%)として支払う必要があります。

(図表1)

1.代替休暇の具体的な算定方法

 代替休暇は次のような算定方法で求めることになります。

 <計算例>1か月の法定時間外労働の時間数が80時間の場合(図表1の場合)

換算率=1.50-1.25=0.25
代替休暇の時間数=(80-60)×0.25=5時間 

2.代替休暇の単位

 前述のように、代替休暇は労働者の休息の機会を確保する目的であることから、1日、半日(または1日と半日)というまとまった単位で与える必要があります。ここでいう「半日」とは、原則として所定労働時間の半分のことを示しますが、厳密に所定労働時間の1/2としなくても、4時間、4時間30分など、労使協定である程度自由に定めることができます。また、代替休暇の時間数に端数がある場合は、年次有給休暇※等の他の有給休暇と合わせて半日または1日の単位として与えることができる旨を、労使協定に定めることができます(図表2参照)。
※年次有給休暇と合わせる場合は、労働者の請求が前提となります。

(図表2)

(出典:厚生労働省リーフレット「Ⅱ 法定割増賃金率の引上げ関係」)

3.代替休暇を与えることができる期間

 代替休暇は、法定時間外労働が月60時間を超えた月の末日の翌日から2か月以内の期間で与えなくてはなりません。なお、この期間内に取得されなかったとしても、使用者に割増賃金の支払い義務がなくなるわけではなく、代替休暇として付与する予定であった割増賃金分を支払う必要があります。また、期間が1か月を超える場合、1か月目の代替休暇と2か月目の代替休暇を合算して取得することも可能です(図表3参照)。

(図表3)

(出典:前掲書)

4.代替休暇の取得日の決定方法、割増賃金の支払日

 月60時間を超える法定時間外労働について、割増賃金で支払いを受けるか、代替休暇として取得するかは、労働者の意思により決定するものとされていますので、いつまでに取得の意向を示し、取得日はいつにするか※、また、代替休暇を取得しない場合はその分の割増賃金はいつ支払うのか※、具体的に労使協定に定めておきます。※取得日、支払日の例(図表4参照)

(図表4)

(出典:前掲書)

●実務上の問題点

 前述の通り、月60時間を超える法定時間外労働については、50%以上の割増賃金を支払うか、労働者の希望により代替休暇を取得させるかのいずれかで法律上の要件を満たしますが、既に締結済の36協定において、月45時間を超える法定時間外労働を可能とする特別条項の定めがなければ、そもそも月45時間を超える労働はそれ自体が違法となってしまいます。
 また、2019年(中小企業は2020年)の改正で、月45時間を超えて労働することができるのは年6回までであること、また、法定時間外労働と法定休日労働の合計時間が、2~6か月平均で80時間以内であることなど、時間外労働の上限規制を遵守しなければならないのは言うまでもありません。
 代替休暇に関しては、使用者が割増賃金の負担を軽減するために取得させるものではなく、労働者の休息の機会を確保するのが目的であり、労働者の意思で取得できるものであることを忘れてはいけません。また、実際に代替休暇制度を運用する場合は、法定時間外労働の時間数の集計、取得希望の管理、取得日の特定、代替休暇の時間数の管理、代替休暇を取得できなかった場合の割増賃金の支払いなど、かなり管理が煩雑となります。そのため、実際に自社で代替休暇制度を導入すべきか?導入した場合は適正に運用できるのか?月60時間を超える時間外労働を無くすことはできないのか?など、自問自答しながら慎重に進めるべきでしょう。

筆者紹介

加藤千博

MJS税経システム研究所 客員研究員
社会保険労務士法人加藤マネジメントオフィス 代表社員
社会保険労務士 加藤 千博
http://www.kmo-sr.jp/

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