第39回 変形労働時間制の活用
2023年4月5日
全ての労働者が一斉に始業・終業することが当然のような業種は良いのですが、サービス業等ではなかなか一律的な働かせ方は難しく、シフト勤務で休日が不定期であったり、月単位や週単位で繁忙時や閑散期があり、業務時間が月や週ごとにバラつきがある業種も少なくありません。さらに業種によっては、使用者が労働者に出勤時間を指示することなく、労働者に始業・終業の時刻を自由に委ねることで業務効率が上がる場合もあります。「変形労働時間制」は、まさにこれらの業種のために、法定労働時間を月単位・年単位で調整することで、特定の日に1日8時間以上、特定の週に40時間以上、働かせることができる制度なのです。
1.変形労働時間制の種類と選択方法
変形労働時間制は、それに準ずる制度と合わせて以下の4種類あります。
①1カ月単位の変形労働時間制(労基法32条の2) ②1年単位の変形労働時間制(労基法32条の4) ③1週間単位の非定型的変形労働時制(労基法32条の5) ④フレックスタイム制(労基法32条の3)
どの制度を活用すべきかは、業務実態に応じて図表1を参考にすると良いでしょう。
(出典:徳島労働局のホームページを参考に作成)
次に、それぞれの制度について簡単に概要を説明いたします。
①1カ月単位の変形労働時間制
労働時間を1カ月以内で平均して、1週間当たり40時間(特例措置事業場は44時間)以内とすることで、1日8時間、1週40時間を超えることができる制度です。事業主は、必要事項を就業規則等に記載する必要があります。
②1年単位の変形労働時間制
労働時間を1カ月以上から1年以内で平均して、1週間当たり40時間(特例措置事業場も40時間)以内とすることで、1日8時間(10時間が限度)、1週40時間(52時間が限度)を超えることができる制度です。事業主は、必要事項を就業規則等に記載し、さらに労使協定を締結した上で労基署に届出をしなければなりません。
③1週間単位の非定型的変形労働時間制
労働者数30人未満の小売業、旅館、料理・飲食店の事業において、1週間単位で毎日の労働時間を1日8時間(10時間が限度)を超えることができる制度です。事業主は、必要事項を就業規則等に記載し、さらに労使協定を締結した上で労基署に届出をしなければなりません。
④フレックスタイム制
一定期間について予め定めた総労働時間の範囲内で、労働者が日々の始業・終業時刻、労働時間を自ら決めることができる制度です。事業主は、必要事項を就業規則等に記載し、さらに労使協定を締結しなければなりません(労基署への届出は不要)。
2.変形労働時間制のメリット、デメリット
●変形労働時間制のメリット
多様で柔軟な働き方が求められている今日において、仕事の状況に応じて労働時間を設定できる変形労働時間制を採用している企業は、実におよそ6割(59.6%)に上ります(厚生労働省「令和3年就労条件総合調査」)。企業にとっては無駄な残業代を支払わずに済むメリットがあり、従業員にとっては忙しい時とそうでない時でメリハリをつけて働くことができます。筆者の顧問先企業では、従業員の意思で1日の所定労働時間を調節して、週休2日制と週休3日制を選択できる制度を導入した企業があります。働く日は長く働き、毎週3連休という従業員もいますし、週休2日ではあるものの、長時間働く日と半日しか働かない日を設定している従業員もいます。
このように、設定次第で多様で柔軟な働き方が実現できるのが、変形労働時間制の最大のメリットと言えるでしょう。
●変形労働時間制のデメリット
1年を通じて毎日、決まった時間に出社し、決まった時間に退社するわけではありませんので、人によっては不規則な生活を強いられるかもしれません。特にフレックスタイム制は、労働者に出勤時刻と退勤時刻を任せているため、自己管理がしっかりしていないとかえって長時間労働になりかねません。
また、所定労働時間が曖昧になり、法定労働時間を超えた労働については残業手当が必要となりますが、「変形労働時間制だから」という理由で、うやむやにされてしまう可能性があります。
3.まとめ
変形労働時間制を正しく運用するためには、それぞれの特徴をよく理解して、自社の事業実態に合った制度を導入することが肝要です(図表2 変形労働時間制の比較一覧を参考にされると良いでしょう)。
次回以降、それぞれの変形労働時間制について、もう少し詳しく解説いたします。