導入事例

あおい税理士法人

2015年9月17日

あおい税理士法人

あおい税理士法人(京都府京都市)は、代表社員の小坂文夫氏(写真中)が昭和56年に開業した小坂文夫税理士事務所を前身とした会計事務所である。税理士法が改正され、会計事務所が生き残るための戦略が問われるようになって久しいが、小坂氏は次世代への承継を鑑みて、平成21年に税理士法人化に踏み切った。税理士法人化にあたっては監査法人出身の公認会計士である塩田大介氏(同左)が参画、さらに今年は木村剛士氏(同右)が社員税理士として合流した。後継者不足により事業承継に悩む会計事務所が急増しているなか、非同族による運営体制を選択した同法人の取り組みには注目が集まっている。そこで今回の取材では、小坂氏、塩田氏、木村氏のお三方に同法人の歩みや、今後の展望を伺った。

中小企業のためにできること

―― あおい税理士法人は、京都府京都市で長年にわたって活躍されてきた会計事務所です。もともとは小坂文夫先生の個人事務所でしたが、現在は税理士法人化しています。その運営体制が非同族ということで、事業承継に悩む会計事務所から大変注目されています。
本日は、代表社員の小坂先生、税理士法人化に伴い参画した塩田大介先生、今年合流された木村剛士先生のお三方にお話を伺います。まずは、小坂先生に足跡をお聞きします。

小坂 私が小坂文夫税理士事務所として開業したのは昭和56年のことです。それから数えると現在35年目ということになります。現在のような税理士法人に移行したのは平成21年の7月です。

―― 小坂先生が税理士を志したきっかけは何だったのでしょうか。

小坂 私が税理士を目指したのは中小企業の支援をするためです。
 大学生の頃、あまり学業が好きでもなく、自分にそれほど能力を感じなかったので、大企業に就職することは考えていませんでした。そこで、自分が興味を持っていた中小企業を対象とする地元の信用金庫に就職したのです。しかし、信用金庫は体力の弱い中小企業には厳しく、とても支援をしているとはいえないものでした。
 そこであらためて「中小企業のために何ができるのか?」と考え、その答えが税理士という仕事だと思ったのです。
実は以前雑誌に投稿したことがきっかけとなり、この開業に至る経緯は『さあ、夢を語ろう ―2010年度版―』(日報印刷)という書籍にも掲載されています。

―― 税理士になる前から中小企業を支えたいという思いがあったのですね。

小坂 試験に合格するのは大変でしたが、税務から経営に関することまで、顔が見える関係性で仕事ができ、成果がそのまま実績になりましたので、この仕事でその思いが果たせたと思っています。

―― 税理士法人に移行された理由をお聞かせいただけますか。

小坂 税理士法人化したのは、2つの理由があります。
 まずは、事務所の維持のためです。会計業界を取り巻く環境も以前とは大きく変わっていますので、1人の税理士で対応していくのは困難になると思います。それぞれが専門分野を持っている税理士集団を作るべきだと考えたのです。
 もうひとつは、事業承継のためです。この2つの理由で税理士法人に移行しました。

税理士が1人で稼げる時代ではない

―― 本日は税理士法人化のタイミングで参画された、塩田大介先生にもご同席いただいています。塩田先生には、あおい税理士法人に参画されるまでの経緯をお聞きしたいと思います。

塩田 私はもともと大手の監査法人に勤めていました。その監査法人を退職し、神戸の会計事務所に勤務していたのですが、その頃にお声掛けいただきまして、平成20年に合流しました。
 そのときには既に税理士法人化をすることは決まっていまして、翌年の平成21年に税理士法人に移行したという流れです。

―― 監査法人と会計事務所では業務の領域が大きく異なります。

塩田 そうですね。監査法人での業務は特殊なもので、上場を維持するために、外部の独立した立場でチェックをするというものでした。ただ、お客様の規模も大きいですし、お客様と同じ方向を向き、お客様に寄り添うことができるという仕事ではありませんでした。ルーティンワークの側面も強く、私はあまり面白みが感じられずに、新しく税務の世界に踏み込みました。

―― 塩田先生が参画され、税理士法人化してから7年目に入りましたが、以前と比べていかがですか。

小坂 私が一番感じたことは、今までいかに行き当たりばったりだったのかということです。規律もマニュアルも統制できていませんでした。
 さらに、私1人で考えられることには限りがあります。目が通せないことがあったり、考えが浅かったりすることが、1人ではどうしても出てきてしまいます。
実際に、パートナーとして塩田先生に入ってもらったことによって、さまざまな気づきが出てきました。次の世代に事業承継できるように、しっかり内部を統一して残していかなければという意識が芽生えたことはとてもよかったと思っています。

―― さらに今年からは、木村剛士先生が参加されたそうですね。

小坂 木村先生は、事務所に長く勤めてくれている職員の甥にあたります。

木村 今年の7月1日からあおい税理士法人に参加しました。実は、こちらに合流する前は1人でやっていこうと考えて、開業届を出し、半年くらい営業していました。
 営業をしているなかで、小さな会社ですと社長さんとお話ができるのですが、少し規模が大きくなると、ご紹介をいただいても稟議のようなものがあり、なかなかうまくいかなかったのです。そのようなときにちょうどお誘いをいただき、参加を決めました。

小坂 税理士1人で過去のような収入を生み出せる時代ではないのです。そうであれば、もう少しスタッフをそろえて皆で仕事をしていくのがよいのではないかと考えています。

―― スタッフはどのくらいいらっしゃるのですか。

小坂 全体で14名です。本当にみんなベテランでして、ほとんどのスタッフは20年以上働いてくれています。

―― 木村先生はまだ参加されたばかりとのことですが、実際に参加してみていかがですか。

木村 私が以前勤めていた事務所では、新人からベテランまで職員がいたのですが、あおい税理士法人では、皆さんがベテランで、一人ひとりの力がとても高いと感じます。経験も知識も皆さん豊富で、私のフォローもいらないくらいしっかり教育されていると感じました。

―― 法人化されて、外部に対しての影響はいかがでしょうか。

小坂 税理士法人化を進めたきっかけのひとつでもありますが、やはり1人では限界があります。具体的には、最近は少し大きな顧問先とのお付き合いもあるので、自分の力だけでは足りないのです。
そういった顧問先や、規模は大きくなくとも経営のレベルが上がってきた顧問先に、きちんと対応できるような幅が広がったと思います。

専任担当制でお客様の発展を支える

―― 事務所の経営理念を教えてください。

小坂 「お客様の事業の発展と成長に奉仕する」という理念を掲げています。

―― ロゴマークにもこの理念が込められているのでしょうか。

塩田 そうですね。この青い4つの正方形からできているロゴは、私の高校時代の友人であるデザイナーと、あおい税理士法人がどのような会社で、どのような理念を持っているのか、2人で打ち合わせを重ねて制作してもらったものです。
 「青」という色は落ちつきのイメージを持ち、「正方形」はしっかりとしたイメージを持ちます。これは、税理士法人として誠実で確実な業務を手掛けることを表しているものです。
 さらに、この青い4つの正方形の配置は、京都の道の碁盤の目をイメージしています。これはもちろん、京都の地に根ざして、地域に貢献したいという思いを表しています。
 そして、青い正方形があることで存在する「白抜きのプラス」が、お客様のプラス、すなわち発展のために、裏方として支えていきたいという私たちの意思を表しています。

―― お客様との会話のきっかけにもなりそうなロゴですね。お客様の業種として割合が高いものはありますか。

小坂 私たちの事務所では、お客様の業種に偏りはありません。幅広い業種のお客様にお付き合いいただいています。

―― 顧問先とはどのような体制で接しているのでしょうか。

小坂 私たちの事務所では、専任担当制を採用しています。ひとつの顧問先に必ず1人の担当者をつけて、その担当者が全てのことを完結するまで行うという形です。
 これがベストな形かどうかは分かりませんが、私たちはお客様に密着していきたいと思っています。あおい税理士法人がなければ、その担当者がいなければ、顧問先が困ってしまうくらいの存在になりたいのです。
 もちろん、その担当者が不在になったときにどうするのかといった課題はあります。組織が大きくなっていけば、2人で担当するとか、役員である私たちが同行するといったことで解決していきたいですね。

―― そういった体制を整えるために、導入されているツールなどがあれば、ご紹介いただけますか。

小坂 専任担当制の課題を解決するために導入したわけではありませんが、ミロク情報サービス(以下、MJS)とは長いお付き合いがあります。
 私が開業して間もない頃、大手の税理士グループが提供するシステムを使用していたのですが、それがどうにも使いにくいと感じていました。
 ところが、MJSのシステムはとても使い勝手がよくて、私の事務所の考えに合っていると感じたのです。

―― MJSのシステムのどのようなところが、小坂先生の考えと合致していたのでしょうか。

小坂 中小企業に向いていると感じたのです。情報から即座に作業まで持っていける、証憑資料から即帳簿に持っていけるその手軽さに魅力を感じて、それ以来30年くらい使い続けています。

―― 今でもMJSのシステムをお使いなのですね。

小坂 現在は主に「ACELINK NX-Pro」を使っています。このソフトでは他社の会計ソフトからのデータの取り込みも簡単に行えますし、顧問先の自計化も指導できます。もちろん、各種の財務報告書も簡単に作成できるので、お客様の経営指導にも活用しています。
 私は開業する前に、京都市の会計事務所に勤めていたのですが、その事務所ではコンピュータが全く導入されておらず、手書きで記帳代行を行っていました。証憑資料から一生懸命記帳して、試算表まで仕上げるのに丸一日を費やしていたほどです。
 そう考えるとMJSを導入したことで本当に事務所が合理化し、生産性が上がったと思います。

職員の生産性を可視化する

塩田 今後は本当に、記帳代行という業務はなくなっていくだろうと認識しています。MJSをはじめとした会計ソフトが出てきて、クラウド会計というサービスも生まれました。
 小売店に行けば、レジにはiPadが置いてあって、それが会計システムに連動しているのです。

―― 記帳代行に使う労力が軽減されると、そうして生まれた時間で、顧問先に付加価値を提供することが求められるようになると思いますが、どのような取り組みをされているのですか。

小坂 「この業務に取り組みなさい」といったことは特段決めていないのですが、私が職員に常々伝えていることは、「まず、早く仕上げる」ということです。
 やはり、それぞれの企業で必要なもの、求めているものが異なりますから、私たちが預かった情報を早く形にして、お客様に届けることが大切です。そのときに、担当者がお客様の相談に乗ってくるというやり方を採っています。

―― 塩田先生が入社されたことで、受けられる相談の幅も広がったと思います。お客様からは、具体的にどのような相談が寄せられていますか。

塩田 最近多いのは、やはり相続に関する相談です。相続と絡めての合併や株式交換などの組織再編に関する相談も増えてきました。
 各担当者は通常の業務がありますので、担当者だけでこのような問題を解決するのは難しいものです。ですから、担当者にはお客様の課題を拾ってきてもらい、私たち社員税理士が異なる視点から提案できるように心掛けています。

―― 各担当者の生産性などはどのように見ているのでしょうか。

塩田 「ACELINK NX-Pro」には「業務日報」という機能がありまして、日々の業務内容を職員に入力してもらうと、担当者ごとの売上、クライアントごとにどのくらい時間をかけて、どのくらい売上があるのかが分かります。
 数字を見ると、売上に対して時間をかけ過ぎているクライアントが分かったりするのですが、まだそこをどう改善するという段階までは到達していません。今後の課題ですね。

1人ではできなかった 付加価値業務に取り組む

―― あおい税理士法人では、セミナーも開催していくと伺いました。

小坂 今まではほとんど行っていなかったのですが、事務所が主催する勉強会、セミナーを増やしていきたいと考えています。
 現在は、会場をお借りしてマイナンバーに関する勉強会を募集しているところです。

塩田 マイナンバーの研修を既に受けていても、どこか抽象的で、具体的にどう対応すればよいのか不安な企業も多いと聞きます。
 ですから、私たちの勉強会では企業の皆様が何をすればよいのかが具体的に分かるように、MJSの「MJSマイナンバー」というマイナンバーの管理ソフトと連携した内容にしています。

小坂 実際にMJSの方に講師としてお話もしていただきます。

―― 他にも取り組まれていることがあれば教えてください。

塩田 多くのお客様が事業承継の問題を抱えていて、M&Aに関するニーズが増えていると感じています。私は公認会計士の出身ですから、価格の査定などは得意分野でもありますので、積極的に取り組んでいきたいと考えています。
 実際に、会社を売りたいお客様も、会社を買いたいお客様もいるのですが、売り手の会社が債務超過だったり、買い手も当然経営状態がよい会社を望まれたりと、なかなか一会計事務所だけでは、そのマッチングが難しいのが実態です。
 ですから、そのマッチングの部分に関しては、MJSが提供している「株式会社MJS M&Aパートナーズ」の中小企業に対する事業承継や、事業再生に関するサポートサービスと連携しつつ取り組んでいきたいですね。

―― やはり法人化で参画した方が増え、手掛けられる業務が広がった印象ですね。

小坂 私1人のときには、M&Aなどとても実現できない話でした。しかし、こうやってスタッフがそろってくれば、さまざまな夢が広がっていきますから、そのような点でも法人化してよかったと思います。

業務部門をまるごと引き受けられる組織を作る

―― あおい税理士法人の3年後、5年後に向けた成長イメージをお聞かせいただけますか。

小坂 先ほども少し申し上げましたが、組織として、今はまだ不十分な部分があると思います。
 将来的には、税理士の資格を持った人間を5人以上に増やしたいと考えています。もちろん、資格がなくても、しっかり勉強して資格者と変わらない知識を持っていれば問題ないのですが、そういった人間をとにかく増やして、専門家集団に育て上げていきたいです。
 今、お客様は二極化が進んでいると思います。全てを社内で行って、専門家には相談だけする企業。それと、全てを丸投げに近い形でアウトソーシングする企業の2つです。
 つまり、社内で何でもできる大きな企業からの相談に乗れるだけの専門知識も必要ですし、小さな企業からの業務のアウトソーシングも気軽に引き受けられる体制が必要なのだと思います。
 どの企業も簡単に専門家は雇えませんし、経理のコストを下げていくことが求められるので、特に業務のアウトソーシングは今後増えていくのだろうと考えています。経理の人間を1人雇うよりも、その業務をアウトソーシングしたほうが、はるかにコストが低いわけです。「何百万円でうちの総務の業務をやってくれ」という話があるかもしれないのです。
 現に米国では、例えば工場に社長と秘書、工場の現場で働く人がいて、それ以外は全てアウトソーシングするという企業があるのです。
 このような業態は日本でも遅からず現れると思います。そのときに、「総務部門は当事務所に任せてください」「経理部門の業務は全て当事務所ができますよ」と言えるだけの組織に育てたいですね。

―― 塩田先生はどのような展望をお持ちでしょうか。

塩田 この事務所は、今までは小坂所長個人の人脈で成長してきました。今まではあまりセミナーなどにも取り組んでいませんでしたが、それでもお客様は増えていました。これは小坂所長の力による属人的なものがほとんどだと思います。
 しかし、これからは組織として積極的にお客様を獲得できるように取り組みたいと考えています。
 また、先ほども話が出ましたが、今私たちの事務所のスタッフは全員がベテランです。ベテランであるがゆえにスタッフのレベルは極めて高く安心できるのですが、彼らが辞めてしまった後に、次の世代の教育ができていないと、組織としては停滞しかねません。
 実は、去年久しぶりに人材の募集をしたのですが、「30歳くらいの科目合格者が欲しい」と思っても、全く採れない状況だったのです。
 今までは、スタッフの採用や教育にコストをかける必要がなかったのですが、そういった事態を防ぐためにそのあたりにも力を入れていかなければと思っています。

―― 人材の採用、育成にも力を入れていくのですね。

塩田 税理士法人で非同族の経営というのは、転職者から見ればよい環境だと私は思います。実際に私たちのスタッフの離職率はとても低いですね。

―― 木村先生にも一言いただきたいと思います。

木村 時代の変化がどんどん速くなっています。これまでの常識が過去のものになるスピードがどんどん上がっているわけです。そういった環境のなかでどのようなスタイルが時代のニーズに当てはまるのかを模索しているところなのですが、自分なりに考え、今後のスタイルを見極めていきたいと思います。

―― 本日は貴重なお話をありがとうございました。あおい税理士法人のますますの発展を祈念しています。

導入事務所様のご紹介

小坂 文夫(こさか・ふみお)

あおい税理士法人所長、代表社員。税理士。アフィリエイテッド・ファイナンシャル・プランナー。登録政治資金監査人。富山県出身。立命館大学経営学部卒。京都での信用金庫の勤務を経て、会計事務所へ入所。事務所を退職後、昭和56年に小坂文夫税理士事務所を開設。平成21年、あおい税理士法人へ移行、同法人の所長、代表社員に就任。

塩田大介(しおだ・だいすけ)

あおい税理士法人代表社員。税理士・公認会計士。昭和54年、京都市生まれ、京都大学法学部卒。平成14年公認会計士2次試験合格後、大手監査法人勤務ののち、会計事務所勤務を経て、平成20年に小坂文夫税理士事務所入所。平成21年、あおい税理士法人を設立。

木村剛士(きむら・つよし)

あおい税理士法人社員税理士。昭和56年生まれ、京都市出身。平成25年税理士登録。京都産業大学経営学部卒業後、京都市の会計事務所に勤務。会計事務所を退職後、平成27年にあおい税理士法人へ参画。

あおい税理士法人

所在地 京都市中京区西洞院錦小路上ル古西町436 興和セントラルビル7F
代表者 小坂 文夫
設立 平成21年7月1日
職員数 14名
得意分野 税務会計業務、経営指導・コンサルティング業務、税務調査立会、 会社設立・個人事業開業サポート、
相続税対策、事業承継・組織再編・M&Aにかかるコンサルティング、株式上場コンサルティング等
URL http://www.aoitax.jp/
  • 本事例の掲載内容は取材当時のものです。

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