度々の時短営業要請で苦戦の続く蕎麦屋。オーナーが考えた対応策は?
2022年1月23日
質問
蕎麦店「弥勒庵」は、昼は11時半から14時まで、夜は17時から22時まで営業しています。しかし、新型コロナ感染症の影響で、再三にわたり夜の時短営業と酒類提供の中止が要請される状況で、採算確保に苦戦しています。加えて、店舗のリニューアルが必要な時期に来ています。あなたが店主なら次のうちどの行動をとりますか?
パターン1
昼は今までどおり営業し、夜は17時から20時までの時短営業とする。
パターン2
営業時間を昼だけにする代わりに、昼は11時から15時までと時間を延長して営業する。
パターン3
時短営業と酒類提供の中止の期間中は、来客数が大きく減少するので、一定の期間休業する。
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緊急事態宣言への対応がうまくいった
最近の「弥勒庵」は近所の店よりもお客さんが入っているようです。新型コロナの感染拡大で緊急事態宣言が出ていたときの対応がうまくいったせいかもしれません。ちょっとその頃の様子を見てみましょう。
常連客でにぎわっていた蕎麦屋が……
弥勒庵は、開店以来15年、東京下町で店主と女将が二人で切り盛りしてきた蕎麦店です。通常であれば、昼の営業(11時半から14時)と夜の営業(17時から22時)で、常連客を中心ににぎわってきました。特に、夜の営業時間帯は、グループで来店する常連客が多く、それが月々の安定収益となっていました。夜に来店する常連客の中には、ランチタイムに来店する人も多く、昼の営業時間は満遍なく客席は埋まっていました。
ただし、開店から相当の年月が経過したこともあり、そろそろ店舗のリニューアルなどもしなければならない時期が近づいていました。
そんな中、新型コロナウイルス感染症の影響で、再三にわたり夜の時短営業と酒類提供の中止が要請され、夜の時間帯は客席の稼働率が大きく下がってしまいました。ランチタイムについても、夜の時間帯程ではないものの、連日5~6割程度の客席の稼働率となっています。
そして、また緊急事態宣言が出されるのではとの懸念が高まってきており、その場合はさらに来店客が減少する見込みです。
女将 | はい、ランチセット2つです。どうぞごゆっくり |
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客1 | いやぁ~、ここのランチセットは本当にお値ごろだよね! ところで、また緊急事態宣言が出るかもしれないけど、そのときはどうするの? |
女将 | 二人で検討しているところです |
客2 | お酒もダメなんだよね……。もちろん、俺は週に2回はここの蕎麦を喰わないと気が済まないんだけどね |
客1 | あたしは、週に4回ほど来てますよ |
客2 | 早く、みんなで安心して飲める状況にならないかねぇ……。まぁ、そうなったら、今度は『夜の部』でお目にかかりましょう。俺も呑んべぇのくちなんで |
その夜、店主と女将さんが緊急事態宣言中の営業方針について相談しています。
店主 | 今度また緊急事態宣言ってなったら、どうしようかな |
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女将 | 夜は17時から開けて20時閉店だとしても、お客さん、なかなかいらっしゃらないもんねぇ |
店主 | 酒を出さないんじゃ、夜だって客単価1,000円がいいところだろう。あんたの給料分だって稼げないよ |
女将 | じゃ、どうするのよ? |
店主 | うーん、ランチの方がまだましかな…… |
女将 | ランチだって、常連さんが会社に来てないんだから、食べに来なくて、客席稼働率は5~6割なんだから |
店主 | そうなんだよな…… |
緊急事態宣言が出された際は、閉店時刻を20時とした上でアルコール飲料の提供を中止するように要請され、時短に協力する場合は、1日1店舗あたり一定の協力金が支払われるようですが、それを考慮しても、本来の稼ぎ時である夜の来店客の落ち込みが大きく、夜の時間帯で稼げない状況では、緊急事態宣言が出たら、なかなか採算は取れそうもありません。
質問
蕎麦店「弥勒庵」は、昼は11時半から14時まで、夜は17時から22時まで営業しています。しかし、新型コロナ感染症の影響で、再三にわたり夜の時短営業と酒類提供の中止が要請される状況で、採算確保に苦戦しています。加えて、店舗のリニューアルが必要な時期に来ています。あなたが店主なら次のうちどの行動をとりますか?
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パターン1
昼は今までどおり営業し、夜は17時から20時までの時短営業とする。
パターン2
営業時間を昼だけにする代わりに、昼は11時から15時までと時間を延長して営業する。
パターン3
時短営業と酒類提供の中止の期間中は、来客数が大きく減少するので、一定の期間休業する。
昼は今までどおり営業しても、夜の時短営業を行うと採算は取れそうもありません。営業を続けることで常連客との関係を維持・強化できる面はありますが、他にいい方法はないものでしょうか。
夜の時間帯は大きく客席の稼働率は下がってしまい、採算が取れない状況から、夜の営業を一旦ストップし、ランチタイムだけ時間を延長して営業することも考えられます。この場合、料理の提供価格から食材のコストを引いた粗利は出そうですが、ランチタイムでも客席の稼働率は5~6割と客足は激減しています。ランチタイムの時間延長による粗利増だけでは心許なく、店舗の家賃などの固定費を毎月確実に支払うためには、十分ではありません。
店主が選択したのは、休業することでした。実は弥勒庵の店主は、休業期間をチャンスだと判断したのですが、どういうことかと言うと……
ターニングポイントは、羽田空港がターミナルを改装したテレビ番組を観たことだった
ふと、テレビを見ると、羽田空港のリニューアルについて特集している番組を放映していました。
女将 | どうするのよ? |
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店主 | ちょっと待って。ほら、羽田空港では、客足が減った時期を利用して、コロナ対策の設備投資をしているぞ! タッチレスのチェックイン機を導入したり、セルフのセキュリティ・チェックの機械を設置したり |
女将 | だから何よ? |
店主 | 緊急事態宣言が出たら、うちでも、同じようにすればいいじゃないか |
女将 | 立ち食い蕎麦屋に対抗して、タッチレスの食券販売機でも買おうっていうの? |
店主 | そうじゃなくて、思い切って何週間か休業して、店のメンテナンスやリニューアルをするんだよ |
女将 | 例えば? |
店主 | 何週間かあれば、空調を入れ替えたり、店の床をきれいにしたりできるだろう。いや、今後を見据えて、持ち帰りができる窓口を設けることにするか |
女将 | なるほど。で、お金はどうするの? |
店主 | まぁ、これぐらいあるから、何とかなりそうだが、どれくらいかかるか、明日、業者に見積もりを取ってみるか |
それからしばらくして、ついにまた、緊急事態宣言が出されることになり、結局、店主は来週から休業することを決めました。今週いっぱいは来店した常連客には直接、休業期間の説明をしました。また、SNSで連絡の取れる常連客にも連絡をしました。ほとんどの常連客は納得し、緊急事態宣言終了後にはまた行くから、という心強い応援ももらえました。
店主の意思決定のポイントは、ピンチのときこそ、発想を転換して、むしろそれをチャンスに変える、ということです。客足が遠のく、つまり操業度が落ちている状況下では、どんなに頑張っても損益分岐点を超えるような売上高には到達しない場面も多いと思います。それならば、思い切って休業してしまう、というのも一つの考え方です。休業することによって、固定費(「キャパシティ・コスト」とも呼ばれます)のうち、家賃は発生するにしても、1カ月分の水道光熱費などは大きく削減できるはずです。その間に、普段できないような設備投資をしておき、来るべき回復の時期に備えておく、という考え方も、経営者としては選択肢に入れておきたいものです。
「キャパシティ・コスト」
固定費は、営業を行うためのキャパシティを確保するための費用であると考えることができ、キャパシティ・コストとも呼ばれ、コミッテッド・キャパシティ・コスト(拘束費)とマネジド・キャパシティ・コスト(随意費)に二分できます。コミッテッド・キャパシティ・コストの代表例は減価償却費や固定資産税などで、マネジド・キャパシティ・コストの代表例は広告費や研究開発費などです。飲食店の水道光熱費は、毎月同じくらいの金額が発生していれば、コミッテッド・キャパシティ・コストと考えられますが、今回の経営センスチェックのように1カ月以上休業して一定期間利用しないという前提であれば、マネジド・キャパシティ・コストとして削減することが可能になります。
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