ESG(環境・社会・ガバナンス)に対する経営者の関心を高めるためには?
2022年6月13日
質問
老舗オフィス家具メーカーである「Miroku工業」は、社長の環境問題、人権問題などのESGに対する意識の低さから、徐々に市場シェアを落としつつあります。これらの問題に対する社長の意識変革を図るために、経営管理に携わるあなたなら次のうちどの方法をとりますか?
(注)ESG:環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)
パターン1
ESGに関する専門家を招き、セミナーを実施する。
パターン2
ESGに対する競合他社の取り組み事例を報告する。
パターン3
ESGに対する取り組み不足が財務業績に与えるマイナスの影響を可視化する。
この質問をイメージして以下のストーリーをお読みください。
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ESGに対する経営者の取り組み姿勢が一変
老舗オフィス家具メーカーである「Miroku工業」は、業界の中でも高いシェアを持ち、業績も好調です。環境問題、人権問題などのESGに対する取り組みが求められる中、 社長のESGに対する意識の低さから、Miroku工業は一時シェアを落としつつありました。しかし、あることをきっかけに社長のESGに対する意識は大きく変わり、その結果、取引先や顧客から高い信頼を勝ち得ることとなったのです。
1年前 ~ある日の経営会議にて
社長 | わが社の製品は優れた技術と高品質で多くの取引先や顧客から高い評価を得てきた。業績も好調のはずだが、近年の業績の推移について報告してくれ |
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あなた | 確かに、これまで業績は安定していましたが、ここ数年は徐々にシェアを落としつつあります |
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社長 | なぜ業績が低迷しているんだ。わが社の製品は品質水準も高いし、価格も競合他社に比べて高いわけではないはずだ |
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あなた | 社長のおっしゃるとおりです。どうやら品質や価格に問題があるわけではなさそうです |
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社長 | それでは、一体何が原因なんだ |
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あなた | どうやら競合他社は、品質や価格だけでなく、環境や社会問題に対しても積極的な取り組みを行っているようです。取引先や顧客もSDGs(国連総会で採択された持続可能な開発目標)やESGなどに高い関心を持つようになっています |
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社長 | しかし、わが社は家具メーカーだ。家具の品質や価格で勝負すべきだ。ESGに取り組んだからといって、利益が増えるわけではないだろう |
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あなた | 確かに利益が増えるわけではないのですが、現にわが社のシェアは落ちていますし、業績も低迷しています…… |
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社長のESGに対する意識は、時流に反して高くないようです。社長の意識を変えるためにはどうしたら良いのでしょうか。
質問
老舗オフィス家具メーカーである「Miroku工業」は、社長の環境問題、人権問題などのESGに対する意識の低さから、徐々に市場シェアを落としつつあります。これらの問題に対する社長の意識変革を図るために、経営管理に携わるあなたなら次のうちどの方法をとりますか?
(注)ESG:環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)
▼あなたの思うパターンをクリック▼
パターン1
ESGに関する専門家を招き、セミナーを実施する。
パターン2
ESGに対する競合他社の取り組み事例を報告する。
パターン3
ESGに対する取り組み不足が財務業績に与えるマイナスの影響を可視化する。
ESGに関する理解を深めるためには、専門家の意見を聞くことも重要でしょう。しかし、社長は“ESGに取り組んだからといって、利益が増えるわけではない”と言っていることからもわかるように、利益に結び付く活動ではないために、ESGに対して消極的な姿勢を示しています。社長の意識を変えるためには、異なるアプローチを考える必要がありそうです。
競合他社に比べてより積極的な取り組みを行うためには、競合他社のESGに対する取り組み状況を整理しておくことも重要でしょう。しかし、Miroku工業の社長は、そもそもESGに対する高い関心を持っていません。まずは社長の意識を変える策を講じる必要がありそうです。
ESGに対する取り組みは直接利益を“生み出す”ものではないかもしれません。しかし、取引先や顧客の期待に反して、十分な取り組みを行わない場合には、得られたかもしれない“利益を失う”可能性があるのです。そこで、経営管理者であるあなたは、社長の意識を変えるため、ESGに取り組まないことによって失われる利益を可視化してみることにしたのです。
同僚との会話の中にヒントが隠されていた
社長が環境問題や人権問題に少しでも関心を持ってくれるようになるためには、一体どうしたら良いのか。ランチタイムの同僚との会話の中に、ヒントがあったようです。
あなたと同僚のAさんは、食事を終えコーヒーを飲みながら雑談をしています。
あなた | いやぁ、なかなか社長の意識を変えるのは難しそうだなぁ。競合他社は軒並みESGに取り組み始めているし、早く手を打たないと大きな後れをとってしまうんだけどな |
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同僚A | 確かに。ただ、関心のないことに無理やり関心を持てというのも難しい話だよな |
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あなた | そうなんだよ。人間誰しも、興味や関心を持たないことには、積極的に取り組もうとはしないもんね |
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同僚A | さて、そろそろ時間だ。最後にケーキでも頼んじゃおうかな |
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あなた | いいね! それじゃ、2つ頼もうか? |
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同僚A | でも、君はこの前健康診断で糖尿病予備軍って診断されたんだろ? ここのケーキはボリュームもあるし、カロリーも高いよ? 大丈夫かい? |
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あなた | 全然平気でしょ!? 美味しいものは別腹!! |
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同僚A | でも、もし糖尿病になって働けなくなっちゃったら、収入は減っちゃうし、医療費もたくさんかかるんだぞ!? |
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あなた | 厳しいこと言うなぁ。でも確かに、このケーキを食べたら、収入も減って医療費までかさんじゃう可能性があるのか……。それならやめておこう |
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同僚A | 将来の収入が減っちゃうと思ったら、僕も甘いものを控えようと思ったよ |
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あなた | ん? 待てよ!? これは社長の意識を変えるヒントになるかもしれない |
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ESGに取り組まないことによる逸失利益を可視化
ランチから戻ったあなたは、経理部の同僚のところへ駆けつけ、自社のESGに対する活動に投じた金額を数年分集計してもらい、他社の状況との比較分析を行うことにしました。その結果、ESG活動への投資額が小さい企業は、利益の減少傾向が確認され、ESG活動への投資額を増やした企業は、3年から5年後に利益が増加していることが確認されました。
この情報をもとに、現状のままESGに対する投資を増やさずにいた場合、Miroku工業は利益を得るチャンスを将来どの程度失うことになるのか試算してみることにしたのです。
あなた | 社長、このデータを見てください。ESGへの投資を増やした競合他社T社は、3年でシェアを10%も伸ばしています。これは利益に換算すると10億円に相当します。もし、わが社も同様の投資を行っていれば、10億円の利益を失わずに済んだのかもしれません |
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社長 | なんと……。ESGへの取り組みが後れたことで、こんなに多額の利益を失うことになるのか。私がESGにきちんと取り組まなかったばかりに、これだけの利益が失われてしまうとは…… |
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あなた | 将来失われてしまうかもしれない利益を回避するために、わが社も方針転換を図りましょう! |
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ESGへの投資を行わないことで、本来得られたはずの利益を失ってしまうこと(これを逸失利益ないし機会損失と呼びます)になるかもしれません。利益に対して高い関心を持つ経営者の意識を変えるためには、ESGに対する投資の後れが財務業績に与えるマイナスの影響を可視化すること、つまり逸失利益の可視化が重要になりそうです。
ワンポイント解説
「逸失利益の可視化」
企業にとって重要な事項に対して経営層の関心が向かない場合、それに取り組まないことによって失われる利益(=逸失利益)を何らかの方法で可視化することが有効です。例えば、品質管理の領域では、品質不良品が顧客の手に渡ることで生じる販売機会の逸失や、SNSでの悪評の拡散によって生じる株価の下落などを、逸失利益として測定することが行われます。日本企業は正確な利益計算を重視するあまり、正確性を欠いた逸失利益の測定には消極的だと言われます。しかし、ここでの目的は経営層の関心を引き付けることにありますので、正確性を多少欠いたとしても、やや大きめに逸失利益を見積もることが効果的です。
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