『身軽』になるといいことがある! ケガから学んだ効率的な経営方針

2023年6月3日

質問

オフィス向け機器の取次やメンテナンスを手がける「369サポート社」では、わずかな利益しか計上できない状況が続いています。あなたが経営者なら、より効率的に利益を確保するため、次のうちどの行動を取りますか?

パターン1

本業との関連性が低い資産を減らす。

パターン2

従業員への手当を減らす。

パターン3

間接業務の外注を減らして、社内で行う。

この質問をイメージして以下のストーリーをお読みください。

コピー機
包帯

ビジネスチャンスは逃さない!

オフィス向け機器の取次やメンテナンスを手がける「369サポート社」。近年は安定的に利益を確保し、盤石な経営基盤を確立しています。

経理部長 社長、メーカーと我が社で共同開発した新しい機器が、いよいよ取扱い開始になりますね
社長 既に予約がたくさん入っているよ。時流に乗って新ビジネスに取り組めたのも、効率的に利益を確保できる体制が整ったおかげだな

ビジネスチャンスを逃さない369サポート社ですが、2年前は、わずかな利益をかろうじて計上する低空飛行が続いていました。

2年前 ~利益はわずか……、新ビジネスは断念?

2年前の369サポート社では、わずかな利益しか計上できない状況が続いていました。父親である先代社長から経営を引き継いだ社長は、芳しくない経営成績に悩み、損益計算書を眺めています。

社長 今のところ赤字はなんとか回避しているが、この状況で新しいビジネスを始めようとすれば、赤字になりそうだな
経理部長 新ビジネスの準備でコストが増えれば、間違いなく赤字ですね。現状でも、光熱費や燃料費、保険料などの料金は軒並み上がっていますし……
社長 社内で有望な企画が提案されているんだ。できればこのビジネスチャンスを逃したくないが、赤字転落は避けたいな
経理部長 利益を効率的に確保する方法はないでしょうか
社長 損益計算書を見ているんだが、いいアイデアが思いつかなくてね。今日はこの後予定があるから、続きは明日考えよう

質問

オフィス向け機器の取次やメンテナンスを手がける「369サポート社」では、わずかな利益しか計上できない状況が続いています。あなたが経営者なら、より効率的に利益を確保するため、次のうちどの行動を取りますか?

▼あなたの思うパターンをクリック▼

パターン1

本業との関連性が低い資産を減らす。

パターン2

従業員への手当を減らす。

パターン3

間接業務の外注を減らして、社内で行う。

実は369サポート社の社長が選択したのはパターン1でした。本業との関連性が比較的低い資産を可能な範囲で減らすことで、資産の保有により生じてしまう固定的なコストを削減することにしたのです。

企業の経営成績が著しく悪化している状況では、従業員への手当を減らすという経営判断をせざるを得ないこともあります。ただし、手当を減らすと、従業員のモチベーション低下や、優秀な人材の流出につながるおそれもあるため、慎重に判断する必要があります。

従来は外注していた業務を、社内で行うようにすれば、コストを削減できることもあると考えられます。ただし、コアとなる業務以外の間接業務まで社内で行う場合、その結果として、限られた人材がコア業務に注力できない状況が生じる可能性もあるので、注意が必要です。

モノを減らして身軽になることのメリットは?

その夜、社長は実家に向かいました。先代社長である父親が先月転んでケガをしたので、様子を見に来たのです。

社長 父さん、足のケガはどう?
いくらか良くなって、松葉杖なしでも歩けるようになった。会社のほうはどうだ?
社長 相変わらずの低空飛行だね。……あれ? ここにあった大きな飾り棚、どこへやったの?
処分してもらったんだ。ケガをして自由に動けなくなったら、棚のホコリを毎日掃除するのが大変でね
社長 思い切ったなあ。確かに、飾り棚はどうしても必要というわけではないし、棚がなければ日常の手間は省けるね。スペースが空いていれば、今後状況が変わって車椅子を使うことになったりしても通りやすそうだ
いつの間にかモノが増えていたけれど、モノを減らして身軽になるのもなかなかいいもんだよ
社長 モノを減らして身軽に……? それは会社にもあてはまりそうだぞ!

貸借対照表にも注目

社長は、それまで損益計算書だけに目を向けていましたが、貸借対照表にも注目してみることにしました。

社長 貸借対照表の固定資産は、思っていた以上に多額だな
経理部長 会社の成長とともに、社用車や自社倉庫などがいつの間にか増えましたからね。間接業務のための設備などもありますし

一般に、企業がビジネスを拡大し成長するにつれて、企業の固定資産も増える傾向があります。貸借対照表には、本業を営むのに不可欠な固定資産だけでなく、間接業務のために保有している固定資産や、以前は必要だったものの環境変化に伴い保有する必要性が薄れてしまった固定資産が含まれていることもあります。こうした固定資産を多く抱えたままでいると、保険料や減価償却費といった固定的なコストがかさむ原因となります。

社長 近頃はカーシェアが普及してきたから、それを利用すれば社用車を減らせそうだな。カーシェアにすると利用に応じて料金はかかるが、自社で車両を保有する場合に生じる保険料や減価償却費は削ることができる
経理部長 最近はリモートでの対応が増えて、以前よりも社用車の利用頻度が下がっているんです。カーシェアのほうが少ないコストで済みそうですよ
社長 もう利用していない古い倉庫があったはずだね。空き倉庫は売却すれば、維持費や減価償却費を大きく減らせるぞ
経理部長 利用度合いの低い倉庫も売却して、近隣のコンパクトなレンタル倉庫に切り替えるほうが割安になりそうですね
社長 広告パンフレットの印刷設備は売却して、パンフレット印刷は外部の業者に委託しよう。委託料はかかるが、設備の維持費や減価償却費は減るし、担当者も間接業務が減って本業に注力できるだろう

企業が保有している資産(asset)を減らし、資産を保有することにより生じる財務負担を軽くする(light)経営を、「アセットライト経営」と呼びます。

業種によって違いはありますが、アセットライト経営の例としては、例えば次のようなものが挙げられます。

・物件や倉庫などを自社で保有せず、賃貸やレンタルを利用する
・社用車を自社で保有せず、カーシェアを利用する

・間接業務のための設備等を自社で保有せず、間接業務をアウトソーシングする

例えば、自社で多くの社用車を保有している場合、環境変化によって車をあまり使わなくなったとしても、保険料や駐車場代、減価償却費などのコストは引き続き生じてしまいます。これに対し、カーシェアを利用する場合は、利用に応じた料金がその都度生じるものの、固定的なコスト負担は少なく、環境変化に柔軟に対応することが可能です。

社長 我が社も身軽になって、効率的に利益を確保できる仕組みを作ろう! ビジネスチャンスも逃さないぞ!

本業を営むために不可欠な固定資産は、自社の「強み」の源泉でもあるため、自社で保有しておく意義が高いと考えられます。一方、本業との関連性が低い固定資産は、減らしても本業への影響が小さく、また、そうした資産を減らすことで、多くの場合、資産の保有により生じる固定的なコスト負担を軽減することができます。固定的なコスト負担が少ない状態であれば、新しいビジネスにも機動的に取り組みやすくなります。間接業務のための資産を売却しその業務をアウトソーシングする場合は、アウトソーシングのためのコストはかかるものの、間接業務を減らすことで貴重な人材をコア業務や新しいビジネスに有効に割り当てることができるというメリットもあります。

なお、資産を減らしつつ利益を確保できれば、投下した資本を有効に活用して効率的に利益を創出する経営に近づくといえます。それを図る経営指標としてROIC(投下資本利益率(※))があり、当該指標を上昇させることができます。

(※)ROIC(Return On Invested Capital:投下資本利益率)
   =税引後営業利益÷投下資本
   ROICについて詳しく知りたい方はコチラの記事もご覧ください。
    経営センスチェック2019年4月13日号
     「売上増でも利益率が落ちる和菓子屋。今後の事業展開の決め手となったモノサシとは?」

ワンポイント解説

アセットライト経営

保有している資産を減らし、資産を保有することにより生じる財務負担を軽くする経営を指します。固定的なコスト負担を減らして、効率的かつ機動的な経営を行うことにつながります。

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