フリー・キャッシュ・フローとは? 企業が自由に使えるお金があるかをつかむ方法

2023年8月3日

質問

業績好調で利益を計上できている会社がありますが、キャッシュ・フロー計算書から経営上の課題を探ろうと、フリー・キャッシュ・フローの金額を算出してみたところ、マイナス(赤字)となっていました。フリー・キャッシュ・フローがマイナス(赤字)の状態に当てはまるのは次のうちどれでしょうか?

パターン1

営業キャッシュ・フローで稼ぎ出した以上に投資キャッシュ・フローで資金を使っている。

パターン2

営業キャッシュ・フローで稼ぎ出した資金以上に財務キャッシュ・フローで資金を使っている。

パターン3

期首の資金残高よりも期末の資金残高が大きくなっている。

この質問をイメージして以下のストーリーをお読みください。

業績
電卓

ストーリーで考える“フリ-・キャッシュ・フロー” ~重要性を認識したスタッフたち

卸売業を営む「MJS物産」では、キャッシュ・フロー計算書を作成しているものの、その見方・使い方が分からず活用されていませんでしたが、新任経理部長が来てから、経理部門のスタッフや経営陣にその見方・使い方を伝授したことで、みんなが活用に興味を持つようになりました。

最近のMJS物産では、キャッシュ・フロー計算書からつかむことができる「フリー・キャッシュ・フロー」(略して「FCF」)が経営上の課題を探るのに使えると知り、その重要性を理解して、みんなが注目するようになっています。

数カ月前 ~フリー・キャッシュ・フローってどこを見ればいいの?

MJS物産は中小企業であり、キャッシュ・フロー計算書の作成義務はないものの、以前からキャッシュ・フロー計算書を作成はしていました。ただし、それを活用できる人が退職して以降、いつしか宝の持ち腐れ状態になってしまっていました。そんなとき、新任の経理部長がやってきて、キャッシュ・フロー計算書の見方・使い方のレクチャーが始まりました。

「キャッシュ・フロー計算書の見方・使い方」についてもっと知りたい方はコチラもご覧ください。
「営業キャッシュ・フローがマイナス(赤字)! その意味と注意点とは?」(経営センスチェック2023年3月23日号)

そして今回取り上げるのは、フリー・キャッシュ・フローです。

経理部長 みんな、この前はキャッシュ・フロー計算書の営業キャッシュ・フローのところに着目して話をしたけど、キャッシュ・フロー計算書に興味が湧いてきたかな
一同 はい!
経理部長 今回は、キャッシュ・フロー計算書のある部分を比較することで算出することができる“フリー・キャッシュ・フロー”の話をしようと思ってるんだ
一同 フリー・キャッシュ・フロー??
経理部長 実は次のケースA・B・Cの中に一つだけフリー・キャッシュ・フローがマイナスのものがあるんだ

【図表1】キャッシュ・フロー計算書

区分 ケースA ケースB ケースC
営業キャッシュ・フロー
投資キャッシュ・フロー
財務キャッシュ・フロー
100万円
△150万円
30万円
200万円
△150万円
△250万円
100万円
△10万円
△80万円
△20万円 △200万円 10万円
期首のキャッシュ残高 250万円 250万円 250万円
期末のキャッシュ残高 230万円 50万円 260万円

(注)△は「資金流出」を表す。

一同 ??
経理部長 まぁ、いきなり言われても分からないだろうけど。これからする説明を聞いてもらえれば、答えが分かるはずだし、きっと、フリー・キャッシュ・フローの意味や計算方法、チェックポイントなんかも分かるようになるよ

質問

業績好調で利益を計上できている会社がありますが、キャッシュ・フロー計算書から経営上の課題を探ろうと、フリー・キャッシュ・フローの金額を算出してみたところ、マイナス(赤字)となっていました。フリー・キャッシュ・フローがマイナス(赤字)の状態に当てはまるのは次のうちどれでしょうか?

▼あなたの思うパターンをクリック▼

パターン1

営業キャッシュ・フローで稼ぎ出した以上に投資キャッシュ・フローで資金を使っている。

パターン2

営業キャッシュ・フローで稼ぎ出した資金以上に財務キャッシュ・フローで資金を使っている。

パターン3

期首の資金残高よりも期末の資金残高が大きくなっている。

フリー・キャッシュ・フローがマイナス(赤字)の状態とは、「営業キャッシュ・フローで稼ぎ出した以上に投資キャッシュ・フローで資金を使っている状態」、つまり「本業で稼いだお金で投資がまかなえていない状態」を言います。マイナス(赤字)だとどんな問題があるかと言うと……

フリー・キャッシュ・フローがマイナス(赤字)の状態とは、「営業キャッシュ・フローで稼ぎ出した資金以上に財務キャッシュ・フローで資金を使っている状態」を言うわけではありません。財務キャッシュ・フローは関係ないのです。

フリー・キャッシュ・フローがマイナス(赤字)の状態とは、「期首の資金残高よりも期末の資金残高が大きくなっている状態」を言うわけではありません。資金残高は関係ないのです。

フリー・キャッシュ・フローってなんだ? ~身近な例で考えてみよう

経理部長は身近な例を使ってフリー・キャッシュ・フローについて経理スタッフたちに説明することにしました。

経理部長 じゃあ、身近な例で考えてみようか。みんなは会社から給与をもらい、そこから普段の生活に必要な諸々の生活費(普段の食費や家賃、水道光熱費など)を出しているわけだ。これは通常の活動だ
一同 ……
経理部長 もしも給与収入で生活費をまかなえていれば、その分、貯金することもできる。これって、企業のキャッシュ・フロー計算書で言ったらどんな状況かな?
経理スタッフX 営業キャッシュ・フローがプラスで、資金残高が増えているってことですね?
経理部長 そのとおりだ。ところで、実際には生活費以外にもいろいろな支出があるよね? ちょっとぜいたくな食事をしたり、とっておきの服を買ったり……
経理スタッフY 自分の趣味、仕事に活かすための自己研鑽、さらには車の購入などへの支出なんかもそうでしょうか?
経理部長 そうだ。こうした通常の生活費以外のことに使うお金は、企業で言ったら投資活動みたいなものだ。じゃあ【ケースA】を見て欲しい。これって、給与収入から生活費を払った後に100万円お金が余ったものの、自分の好きなことに150万円もお金を使ってしまったということだ。そんな状態だと……
経理スタッフX あっ、貯金を取り崩すか、借金をすることになっちゃいます!
経理部長 そうだね。じゃあ【ケースB】はどうだろう?
経理スタッフY 給与収入から生活費を払った後に200万円お金が余り、自分の好きなことに150万円お金を使っても、50万円残ったって感じでしょうか?
経理部長 おー、そのとおりだ。そうなれば……
経理スタッフY その分、貯金できます!
経理部長 そう言うことだ。さっき(【図表1】)の【ケースB】ではこれまでの借金を返済しているようだけどね(笑)
①営業キャッシュ・フロー
  = 家計の例え話で言うところの「給与収入-通常の生活費」に相当
②投資キャッシュ・フロー
  = 家計の例え話で言うところの
    「通常の生活費以外のちょっとぜいたくな支出など」に相当
 
 チェックポイント: ①で余ったお金で②の支出がまかなえているか

【図表2】キャッシュ・フロー計算書から分かるフリー・キャッシュ・フロー

区分 ケースA ケースB ケースC
営業キャッシュ・フロー
投資キャッシュ・フロー
100万円
△150万円
200万円
△150万円
100万円
△10万円
フリー・キャッシュ・フロー △50万円 50万円 90万円

(注)△は「資金流出」を表す。

経理部長 そして【ケースC】は、給与収入から生活費を払った後に余ったお金が100万円で、本当だったら好きなことに150万円使いたいところなのに、我慢して我慢して10万円に抑えたって感じかな
経理スタッフX 何かストレスが溜まってモチベーションが下がりそうですね
経理部長 そこが問題なんだよ。投資の部分を無理に削ると、モチベーションが低下したり、自己研鑽ができなくなったりして、結果的に将来の給与収入が増えないなんて影響もあるかもしれないね

フリー・キャッシュ・フローとは

フリー・キャッシュ・フローは、「営業キャッシュ・フロー(の資金流入)」から「投資キャッシュ・フロー(の資金流出)」を差し引いて計算される指標です。企業が一定期間(1年間など)に「本業の活動によって稼ぎ出した資金」から「投資に使った資金」を差し引いたものを表します。

■フリー・キャッシュ・フローの計算方法

フリー・キャッシュ・フロー
=「営業キャッシュ・フローの資金流入」-「投資キャッシュ・フローの資金流出」

フリー・キャッシュ・フローは、長期的に企業が安定して経営していけるかどうかを見る上で重要な数字であり、企業の健全性や将来の成長性を評価するのに使われます。

例えば、フリー・キャッシュ・フローが十分にあれば、外部からの資金調達(借入や増資など)によらなくても、将来のために必要な設備投資などを積極的に行うことができます。また、借入の返済や株主への配当に資金を充当することもできるため、安定した経営を行うことができます。

フリー・キャッシュ・フローから何が分かるの?

上述の家計での例え話からも分かるとおり、基本的には、フリー・キャッシュ・フローがプラス(黒字)かマイナス(赤字)かは、企業の健全性や将来の成長性について、重要なチェックポイントになります。

■フリー・キャッシュ・フローがプラスの場合

<通常考えられる状況>

  • 企業の健全性や将来の成長性について、良好な状態です。
  • 営業キャッシュ・フローがプラス、つまり本業での活動で資金を稼ぎ出せており、その範囲で投資を行っていることが考えられます。


<プラスでも注意すべき状況>

  • ただし、本来必要な設備投資を削ったことでプラスになっているとすれば、将来的に営業キャッシュ・フローが獲得できなくなっていくおそれもあるので、注意が必要です。
  • また、営業キャッシュ・フローで十分な資金を稼ぎ出せていない一方で、保有する固定資産を売却して投資キャッシュ・フローで資金を獲得している場合には、売却できる固定資産がなくなれば、そのような状態を持続するのは難しくなるので、注意が必要です。


■フリー・キャッシュ・フローがマイナスの場合

<通常考えられる状況、注意すべき状況>

  • 企業の健全性や将来の成長性について、良くない状態です。
  • 原因としては、営業キャッシュ・フローがマイナス、つまり本業での活動で資金を稼ぎ出せていなかったり、営業キャッシュ・フローがプラスでもそれを上回るような投資キャッシュ・フローのマイナス、つまり過度の投資を行っていたりすることが考えられます。


<それ以外の状況>

  • ただし、今後の成長等のために積極的な設備投資を行い、一時的にマイナスになっていることもあり、そうした場合には今後の営業キャッシュ・フローの獲得につながり良好な状態と言える可能性があります。


■単年度だけでなく数年分を分析することが重要

フリー・キャッシュ・フローがプラスかマイナスかを単年度だけ見ても適切な判断ができません。数年分を分析して、フリー・キャッシュ・フローがプラス基調になっているか、増加傾向かといった点を見ると良いでしょう。

フリー・キャッシュ・フローの使い道

フリー・キャッシュ・フローがプラスであれば、余った資金を次のようなことに使うことができます。

  • 今後の新たな投資や成長のために活用することができる
  • 債務の返済に充てることができる
  • 配当の支払いに充てることができる


キャッシュ・フロー計算書を漫然と眺めるのと、そこに現れているフリー・キャッシュ・フローを意識して見るのとでは大違いなのだと、経理スタッフたちも理解できたようです。

ワンポイント解説

「フリー・キャッシュ・フロー」

フリー・キャッシュ・フローは、「営業キャッシュ・フロー(の資金流入)」から「投資キャッシュ・フロー(の資金流出)」を差し引いて計算される指標です。企業が一定期間(1年間など)に「本業の活動によって稼ぎ出した資金」から「投資に使った資金」を差し引いたものを表します。

お知らせ

2023年8月13日号は、夏季休暇中のため休載とさせて頂きます。次号は2023年8月23日号となりますので、引き続きご愛顧くださいますようお願い申し上げます。

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