進む円安…為替レートの変動は悩みのタネ。会計処理はどうする?

2024年4月23日

質問

「ミロク精工」では、海外売上によりドル建て売掛金を計上し、1か月後にこの売掛金が決済されました。1か月のうちに為替レートが変動したことにより、売掛金の計上額と実際の入金額との間には差額が生じています。この差額はどのように会計処理すればよいのでしょうか?

パターン1

差額を当初の売上額に加減する。

パターン2

差額を売掛金のままずっと残しておく。

パターン3

差額を営業外収益・費用(為替差益ないし為替差損)として処理する。

この質問をイメージして以下のストーリーをお読みください。

レート
メモ

軌道に乗った海外ビジネス

精密機器の製造・販売を手掛ける「ミロク精工」。創業以来、独自の技術を蓄積し、さまざまな機器を世に送り出してきました。近年では、長年の経験に裏打ちされた確かな技術が海外でも高く評価され、海外向けの売上が急拡大しています。

社長、当期も海外売上が好調ですね


経理部長


社長

2年前、海外企業に初めて製品を販売した際は、国内企業に販売するのと勝手が違って右往左往したが、今ではすっかり慣れたな

海外ビジネスも軌道に乗ったミロク精工ですが、2年前は、慣れない海外売上に戸惑うことの連続でした。

2年前 ~初めての海外売上に四苦八苦

2年前のミロク精工は、手掛ける機器が海外から注目され始め、アメリカの大手企業に対し10万ドルで機器を販売しました。これがミロク精工にとって初の海外売上です。英文契約書の作成や船積みの依頼など、不慣れな手続もどうにか乗り越え、1か月ほど前に売上計上を済ませたところです。


社長

初めての海外売上は苦慮することの連続だったが、売上を計上できてよかったな

あとは売掛金の入金が済めば完了ですね


経理部長

経理部長、海外売上のドル建て売掛金が、今日送金されました。今日のレートで円換算した入金額は1,480万円です


経理スタッフ

よし、売掛金の消し込み処理をしよう。…あれ? 売掛金残高は1,460万円だ。入金額と一致しないぞ


経理部長

図


社長

売上を計上した日の為替レートと今日の為替レートは違うから、一致しないんじゃないのか

それもそうですね。それでは、この差額はどう処理したらいいんだろう?


経理部長

質問

「ミロク精工」では、海外売上によりドル建て売掛金を計上し、1か月後にこの売掛金が決済されました。1か月のうちに為替レートが変動したことにより、売掛金の計上額と実際の入金額との間には差額が生じています。この差額はどのように会計処理すればよいのでしょうか?

▼あなたの思うパターンをクリック▼

パターン1

差額を当初の売上額に加減する。

パターン2

差額を売掛金のままずっと残しておく。

パターン3

差額を営業外収益・費用(為替差益ないし為替差損)として処理する。

商品の販売取引と売掛金の決済取引とを連続した一つの取引と捉えれば、両取引間の為替レート変動により生じた差額は、当初の売上額に加減して処理すると考えることもできます。しかし、この処理によると、本業により得た売上額と、為替レートの変動による影響額とを分けて把握することができません。日本の会計基準でもこの処理方法は採用されていません。

売掛金のまま差額を残しておく場合、為替レート変動により生じた差額を売掛金のまま残しておく場合、既に販売から決済までの一連の取引が終わっているにもかかわらず、いつまでも売掛金残高にこの差額部分が残り続けてしまいます。日本の会計基準でもこの処理方法は採用されていません。

会計処理の上では、商品の販売取引と売掛金の決済取引とを切り離して考え、両者を独立した別個の取引として捉えます。為替レートの変動による影響額は、『為替差益』ないし『為替差損』という勘定科目を用いて営業外収益・費用として処理することで、本業により得た売上額と、その後の為替レートの変動による影響額とを分けて把握することができます。

本体から切り離して考える!


社長

実際の入金額は1,480万円だから、売上の当初計上額1,460万円に20万円を加えて、売上を1,480万円に修正するのか?

う~ん、頭で考えるだけではこんがらがってしまう。何か書くものは……


経理部長

このメモ用紙を使ってください


経理スタッフ

ありがとう。ミシン目入りのノート本体からメモ用紙を切り離せるのか、便利だね


経理部長

はい、本体からメモ用紙を切り離して、別々に使えるんですよ


経理スタッフ

『切り離して別々に』? 外貨建て売上と外貨建て売掛金も、切り離して別々に処理すればよさそうだぞ。会計処理を調べてみよう


経理部長

ビジネスの上では、商品の売買取引とその後の代金決済取引は一体として考えることも多いですが、外貨建て取引を会計処理する上では、商品の売買取引本体とその後の代金決済取引を切り離して考え、両者を独立した別個の取引として処理します。

商品の販売取引本体と、その後の外貨建て売掛金の決済取引は、切り離して別に処理するようだ


経理部長

売上額は当初の1,460万円のままでいいんですね


経理スタッフ

販売から決済までの間に為替レートが変動することで生じた差額は、『為替差益』か『為替差損』として、営業外収益・費用として処理するらしい


経理部長


社長

なるほど。今回のケースなら、1,480万円-1,460万円=20万円が『為替差益』となるわけだね(注)

商品の販売取引と代金決済取引とを切り離して考えることで、本業により得た売上額と、販売後の為替レート変動による影響額とを分けて把握することができます。

ミロク精工のように、為替レートの変動により生じた差額が自社にとって利益となる場合には、営業外収益の『為替差益』という勘定科目で処理します。反対に、損失となる場合には、営業外費用の『為替差損』の勘定科目を用います。

外貨建て売掛金が決済される前に決算を迎える場合はどう処理するんでしょうか


経理スタッフ

その場合には、決算日の為替レートでいったん円換算するようだ


経理部長


社長

決算日に円換算することで生じる差額も、『為替差益』か『為替差損』として処理するんだね

決算日の換算は、実際に入出金があるわけではないから、うっかり忘れてしまいそう。それもメモしておかなくちゃ


経理スタッフ

外貨建ての債権債務を決済することで生じた為替差益・為替差損や、決算日の換算によって生じた為替差益・為替差損を積み重ね、最終的に両者を相殺した純額が損益計算書に表示されます。

損益計算書上、為替差益は営業外収益の一項目、為替差損は営業外費用の一項目です。これらはあくまでも為替レートの変動により生じた損益であり、本業により生じたものではないため、「営業外」の取扱いになります。

これから海外売上が増えても、自信をもって会計処理ができそうだぞ


経理部長

円安が進む局面では、ミロク精工のような輸出企業は為替差益を計上することが多くなります。反対に、海外から材料や商品を輸入する企業なら、為替差損を計上することが多くなります。

損益計算書における為替差益ないし為替差損を見れば、その期における為替レートの変動が企業の業績にどのように影響を与えたのかを知ることができると言えます。

(注)決済時の会計処理は以下のとおりとなります。

(借) 現 金 預 金     1,480万円           (貸) 売  掛  金     1,460万円
                                    為 替 差 益        20万円

「為替差益・為替差損」

為替レートの変動によって生じた利益や損失を指します。

損益計算書上は、両者を相殺した純額を表示します。為替差益は営業外収益の一項目、為替差損は営業外費用の一項目として扱います。

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