第4回 整理解雇に関する法律上のルール
2020年5月13日
新型コロナウイルスの感染拡大に歯止めをかけるため、令和2年4月16日、政府から全国47都道府県に対して期限を5月6日までとする「緊急事態宣言」が発出され、5月4日には5月31日まで期限が延長されました。また、複数の都府県からは具体的な業種に対して「休業要請」が出されました。このような状況下で、今まで以上に多くの企業が財政的に窮地に追い込まれています。そこで今回は、今後必然的に増加することが予測される「解雇」について、法律上のルールを説明したいと思います。
解雇権濫用法理
わが国では「簡単に社員を解雇できない」と言われています。これは、何を根拠に言われているのでしょうか?法律で「解雇制限(禁止)」(労働基準法第19条)が定められていて、罰則規定が設けられているのは表1の解雇です。また、30日以上前の「解雇予告」又は平均賃金の30日分以上の「解雇予告手当」(労働基準法第20条)を伴わない解雇も違法となります(例外規定あり)。ということは「解雇制限」に当たらず、適正に「解雇予告」を伴い解雇した場合は、ただちに「違法」にはならないということになります。では、なぜ「簡単に解雇できない」と言われているのでしょうか?それは、労働契約法第16条で「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」(解雇権濫用法理)と定められているからです。
これこそが「解雇できない」と言われる所以となります。正確には「解雇することは違法ではないが、場合によっては無効となる」ということです。ほとんどの解雇に伴うトラブルは、この「解雇権濫用法理」が争点となります。
表1 解雇制限期間とその他の解雇禁止事由(違反した場合、一部罰則規定あり) |
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従業員が業務上の負傷又は疾病等で、その療養のために休業する期間とその後の30日間 |
女性従業員が産前産後の休業する期間とその後の30日間 |
その他の解雇禁止事由
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整理解雇(リストラ)のルール
「解雇」には「懲戒解雇」「普通解雇」「整理解雇」の3種類があり、その他「雇止め」や「内定取消し」も「解雇」の一種と位置付けられています。今回は、企業の経営悪化により、人員整理を行うための解雇である「整理解雇(リストラ)」に的を絞ります。
整理解雇も「解雇」である以上、既出の「解雇権濫用法理」に照らして、合理性と社会通念上の相当性を要求されます。それに加え、その整理解雇が有効かどうかは、「整理解雇の4要件」(表2)を満たす必要があります。
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人員削減の必要性
企業が客観的に高度の経営的危機下にあり、存続し続けるために人員削減がやむを得ない状況にあること。「人員削減をしなければ倒産」とまでの必要性が求められている訳ではありませんが、やはり相当な理由がなければ認められません。 -
解雇回避努力
解雇を避けるため、役員報酬カット、経費削減、新規採用の停止、配置転換、希望退職の募集など、解雇以外の手段を講じていること。 -
人選の合理性
解雇をする人選に関しては、客観的で合理的な基準かつ公正である必要があります。 勤務成績、勤務態度等の評価を基準にする場合、会社への貢献度等を基準にする場合、雇用形態等を基準にする場合など、いずれの場合も公平性が求められます。 -
手続きの妥当性
上記1~3についての説明、解雇の時期や方法について、従業員に対して十分に説明・協議を行うことが必要となります。仮に1~3の要件が満たされていたとしても「本日をもって解雇とします」のような手順は認められません。
表2 整理解雇の4要件 |
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人員削減の必要性 |
解雇回避努力 |
人選の合理性 |
手続きの妥当性 |
新型コロナウイルスの感染拡大による国や自治体からの自粛要請や休業要請等により経営が悪化したからとはいえ「整理解雇の4要件」が不要となる訳ではありません。ただし現在の状況は、未曽有の緊急事態でもあり、その企業の状態によっては要件の基準が特例的に緩和される可能性もあります。
それでも、人材は企業の「宝」とも言いますので、まずは国や自治体からの経済支援、休業を強いられているのであれば、コロナ対策として大幅に要件が緩和された雇用調整助成金等を活用して、何としても雇用の継続を図るべきと言えるでしょう。