第35回 年次有給休暇の基本的ルール

2022年11月30日

 2019年4月より1年間に5日の年次有給休暇(以下「年休」という)を労働者に取得させることが使用者(事業主)の義務となりました。このルールはその後多くの企業に浸透していますが、まだまだルール通りに運用できていない企業も少なくありません。
 そこで今回は、改めて年休の基本的なルールや時間単位の年休制度、年休の計画的付与制度について解説いたします。

年休の発生要件と付与日数

発生要件

  1. 6か月継続して雇用されている
  2. 全労働日の8割以上を出勤している

この2点を満たしていれば年休を取得することができます。

原則的な付与日数

 発生要件を満たした労働者には、雇い入れの日から最初の6カ月後に10日の年休が付与され、以後、図表1の通り1年ごとに付与されます。なお、管理監督者や有期雇用労働者も付与対象となります。

<図表1:年休の付与日数>

(出典:厚生労働省リーフレット「年5日の年次有給休暇の確実な取得」)

パートタイム労働者等の付与日数

 「パートタイム労働者には年休は不要」と誤解している使用者を時々見かけますが、パートタイム労働者等にも当然に年休は付与されます。ただし、所定労働日数が少ない労働者については、図表2の通り所定労働日数に応じて付与(比例付与)されます。

<図表2:年休の比例付与日数>

(出典:厚生労働省リーフレット「年5日の年次有給休暇の確実な取得」)

 比例付与の対象となるのは、所定労働時間が週30時間未満、かつ、週所定労働日数が4日以下または年間の所定労働日数が216日以下の労働者です。(※表中太枠で囲った部分に該当する労働者は、年5日の年休取得が義務となる労働者です。)

年休の取得時季

 年休を取得する日は、労働者が指定することができ、使用者はその指定された日に年休を与えなければなりません。ただし、労働者が指定した日に年休を取得させると、事業の正常な運営が妨げられるなどの場合は、取得日を変更する権利(時季変更権)が認められています。とはいえ、例えば同一期間に多数の労働者が一斉に年休取得を希望したため、その全員に取得させるのが困難な場合などで、単に「業務が多忙な時季だから」という理由では、時季変更権は認められません。

年休の時季指定義務

 前述のように、年休は原則として労働者が請求する時季に取得させることとされていますが、年10日以上の年休が付与されている労働者から請求がない場合は、年5日について、使用者が時季を指定(年休を付与した日(基準日)から1年以内に5日)して取得させなければなりません。その際は、労働者の意見を聴取し、できる限り労働者の希望に沿った取得時季になるようにその意見を尊重するように努めなければなりません。
 また、このように場合によって時季を指定して取得させる旨を、就業規則に記載しなければなりません。

年休の計画的付与制度

 企業が前もって計画的に労働者の年休取得日を割り振ることができる制度が、「年休の計画的付与制度」です。上記、年休の年5日取得義務に関しても、計画的に取得させることができれば、企業としても運用しやすくなります。労働者に付与された年休の日数のうち、5日を除いた残りの日数について労使協定を結べば、計画的付与の対象とできます。つまり、最低でも5日間は労働者が自由に年休を取得できるようにしなければなりませんが、その他の日数は任意に企業が取得日を割り振ることができるわけです。
 年休の計画的付与制度は、労使協定に細かく定めることにより、様々な方法で活用することができます。①企業もしくは事業場全体の休業による一斉付与方法、②班・グループ別の交替制付与方法、③年休付与計画表による個人別付与方法などが代表的な付与方法です。
 年5日取得義務の管理が難しいと感じている企業は、1人も漏れることなく確実に年5日取得を実現できるように、この計画的付与制度を積極的に取り入れることをお勧めいたします。

時間単位の年休制度

 年休の取得は原則1日単位ですが、労使協定を結べば、年5日の範囲内で、1時間単位の取得が可能となります。労働者の様々な事情に応じた柔軟な働き方・休み方に役立ちますが、反面、会社の総務の担当者や給与計算担当者の管理は煩雑になります。
 労使協定で定めなければならないのは次の①~④の事項です。

  1. 時間単位年休の対象労働者の範囲
    対象となる労働者の範囲を定めますが、一部の者を対象外とする場合は、事業の正常な運営を妨げる場合に限られます。
  2. 時間単位年休の日数(1年5日以内の範囲)
  3. 時間単位年1日分の時間数
    1日分の年休が何時間分の時間単位年休に相当するのかを定めます。なお、1時間に満たない端数がある場合は時間単位に切り上げる必要があります。
  4. 1時間以外の時間を単位として与える場合の時間数
    2時間単位など1日の所定労働時間を上回らない整数の時間を単位として定めます。

半日単位年休

 労働者が1日単位ではなく、半日単位での取得を希望して時季を指定し、使用者が同意した場合であれば、1日単位の取得の弊害とならない範囲で半日単位で年休を与えることができます。半日単位は、①午前と午後、②所定労働時間を2で割る、という方法が考えられます。
 半日単位年休は、労使協定を結ぶ必要はありませんが、就業規則等に規定することが望ましいです。

年休管理簿

 使用者は、労働者ごとに年休管理簿(時季、日数及び基準日を明らかにした書類)を作成し、3年間保管しなければなりません。

 「なかなか年休は取れない」「年休を取れる雰囲気ではない」という中小零細企業も、まだまだ少なくありませんが、先にも述べましたように、年休の計画的付与制度などを活用し、仕事と休暇のバランスをうまく取らせることも、労働者のモチベーションを高めるひとつの手段ではないでしょうか。 

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