第42回 フレックスタイム制1
2023年7月5日
働き方改革の一環として2019年4月の労働基準法改正により、最長3か月の清算期間を設定することが可能となったフレックスタイム制。柔軟な働き方が求められる今日において、改めて注目されている制度ですが、裁量労働制との違いや休日出勤の考え方、年次有給休暇の扱い方等、まだまだ正しく知られていない内容も多く存在します。
適正に運用できれば、日々の都合に合わせてワークライフバランスをとりやすいフレックスタイム制について、基本的なルールや導入するメリットとデメリット、導入の際の留意点などについて今回と次回の2回にわたり解説いたします。
フレックスタイム制を導入している業種
フレックスタイム制は、あらかじめ働く時間の総量(総労働時間)を定めて、その範囲内であれば、労働者が日々の始業・終業時刻、および労働時間を自由に定めることができます。そのため、情報通信業(ソフトウエア開発等のIT関連、インターネットサービス等)に多く導入されています。具体的にはシステムエンジニア、プログラマー、WEBデザイナー等、個人の裁量で仕事を進行・完結させられる職種に向いています。その他、マスコミ関係、金融・保険業等にも導入されている企業が見受けられます。
フレックスタイム制のメリットとデメリット
フレックスタイム制のメリットは、労働者のライフスタイルや家庭のニーズに合わせた働き方が可能になることです。子どもの送り迎えや、介護などもやりやすくなります。また、通勤ラッシュを避けて通勤することも可能になります。また、労働者は自身の生産性が最も高いと感じる時間帯に働くことができるため、最大のパフォーマンスを発揮できる可能性が高くなります。
反対にデメリットは、労働者がそれぞれ異なる時間帯に働くため、チームや上司とのコミュニケーションや協力体制が難しくなります。また、自分で時間を管理することが苦手な労働者にとっては、働き方がルーズになり、本来のパフォーマンスを発揮できなくなる恐れがあります。
フレックスタイム制の導入ステップ
ステップ1<就業規則への規定>
フレックスタイム制を導入するためには、始業および終業の時刻を労働者の決定に委ねる旨を就業規則等に規定する必要があります。また、当然のことながら、常時10名以上の労働者を雇用している事業所は、就業規則を所轄労働基準監督署に届け出なければなりません。
ステップ2<労使協定で制度の基本的枠組みを定める>
労使協定で次の①から⑥の事項を定める必要があります。また、②の清算期間が1か月を超える場合には、所轄労働基準監督署に届け出なければなりません。
①対象となる労働者の範囲
全従業員、事業所全体、部署、課、グループ、各人ごと等、どのように範囲を定めても構いませんが、明確に規定する必要があります。
②清算期間
①の対象者が、労働すべき時間(所定労働時間)を定めた期間。起算日を定めて1か月から最長3か月となります。元々は1か月単位と決まっていましたが、前述のとおり2019年4月の労働基準法改正で最長3か月まで延長されました。
③清算期間における総労働時間(清算期間における所定労働時間)
労働者が②の清算期間において労働すべき総労働時間(所定労働時間)を定めます。
総労働時間は、次の図表1のとおり法定労働時間の総枠の範囲内に定めなければなりません。
(図表1)
(出典:厚生労働省「フレックスタイム制のわかりやすい解説&導入の手引き」)
④標準となる1日の労働時間
②の清算期間における総労働時間を、期間中の所定労働時間で割った時間を基準として、年次有給休暇を取得した際に支払われる賃金の算定基礎となる労働時間を定めます。
⑤コアタイム(任意規定)
労働者が1日のうちで必ず働かなければならない時間帯として、始業・終業時刻を任意に定めることができます。また、必ず定めなければならないものではありません。
コアタイムは、曜日により違う時間帯であったり、特定の曜日のみ設定したり、労使協定により自由に定めることができます(図表2参照)。
⑥フレキシブルタイム(任意規定)
労働者が自ら労働時間(始業・終業時刻)を決定することができる時間帯を定めることができます。コアタイム同様に必ず定めなければならないものではありません。設定しない場合は、労働者の裁量で24時間いつでも働くことができるので、特に深夜労働はさせたくない場合などは、フレキシブルタイムを5:00~22:00とすればよいことになります(図表2参照)。
(図表2)
(出典:厚生労働省「フレックスタイム制のわかりやすい解説&導入の手引き」)
スーパーフレックス制度
スーパーフレックス制度(フルフレックス制度)とは、コアタイムもフレキシブルタイムも設定しないフレックスタイム制度の通称です。清算期間における総労働時間を満たせば、労働者が働く日にち、時間、場所を自由に決められるため、究極のフレックスタイム制度といえます。ただし、健康上の観点から、深夜時間帯(22:00~5:00)は事前許可制としていたり、定例会議には出席を義務付けたり、一定の制限を設けている場合もあります。
次回は、残業、休日出勤、年次有給休暇などの扱いについて解説いたします。