第50回 2024年問題(医師の労働時間規制)

2024年3月6日

 2024年問題について、前々回は「自動車運転業務の労働時間規制」、前回は「建設業の労働時間規制」について解説いたしました。それぞれの事情に合わせた特例を設けて、その他一般企業にはない独自のルールが定められている旨を解説いたしました。

 今回は、2024年問題についての最後のテーマ「医師の労働時間規制」について解説いたします。

勤務医等の現状と課題

 我が国においては、いつ、どこにいても必要な医療が受けられる社会を守るため、多くの医療者が日々努力を重ねており、多くの場合、医師の長時間労働によって支えられています。

 平成28年度・令和元年度に実施した医師の勤務実態調査において、病院の常勤勤務医の約1割が年1,860時間を超える時間外・休日労働を行っており、また、年3,000時間近い時間外・休日労働を行っている勤務医もいることが報告されています。このような状況が続くと、安心・安全で質の高い医療を望むことが難しくなってしまいます。

 この調査結果を踏まえて、「医師の働き方改革に関する検討会」及び「医師の働き方改革の推進に関する検討会」(以下「検討会」という)における議論を経て「良質かつ適切な医療を効率的に提供する体制の確保を推進するための医療法等の一部を改正する法律」が令和3年に成立しました。これにより、全ての勤務医の年間の時間外・休日労働時間数を令和6年度までに、地域の医療提供体制の確保のために暫定的に認められる水準(下記図表1参照)により960 時間又は1,860 時間以内とすることが定められました。

 さらに、前述の検討会の報告書等において、暫定的に認められる水準(連携B・B水準)を令和17年度末までに廃止することについて検討することとされており、令和17年度末に向けては、より一層の労働時間の短縮の取組が求められています。

 このため、令和6年4月の医師に対する時間外労働の上限規制の適用開始及び令和17年度末の連携B・B水準の廃止目標に向けて、医師の健康確保と地域の医療提供体制の確保を両立しつつ、各医療機関における医師の労働時間の短縮を計画的に進めていく必要があります。

(図表1:地域の医療提供体制の確保のために暫定的に認められる水準)

水準 医療機関
A水準 原則として全ての医療機関
連携B水準  地域医療確保のため医師派遣を行う施設
B水準 高度救急医療施設やがん拠点施設など
C-1水準 臨床研修医、専門研修医の雇用施設
C-2水準  特定高度技術研修者の雇用施設
  • A水準以外の適用を希望する医療機関は、都道府県に対する申し出が必要

医師の時間外労働の上限規制

 医師の時間外労働の上限規制の大きな特徴は、前述の水準によって上限時間に違いがあることです(図表2参照)。

 全ての医療機関に勤める勤務医に適用される原則的な水準はA水準の年間960時間・原則月100時間未満(時間外・休日労働時間の合計)が限度となりますが、画一的にこの水準を適用すると、医師の数の地域格差の問題や、夜間の救急医療体制の確保、集中的な技能の修得が困難になり、質の高い医療を維持できなくなるリスクがあります。そこで、前述の検討会にて議論を重ねた結果、特例水準としてB水準とC水準については年間1,860時間・原則月100時間未満(時間外・休日労働時間の合計)まで認められることになりました。

 ただし、A水準でも月平均80時間、B水準・C水準は場合によって月平均160時間という非常に長い時間外・休日労働が可能となるため、医師の健康を確実に確保する観点から、月の時間外・休日労働時間が100時間以上になると見込まれる医師全員に対する面接指導を行い、必要に応じて、労働時間の短縮、宿直の回数の減少等、必要な措置を講じる必要があります。正当な理由なく面接指導を行わない場合や必要な措置を講じていない場合には、都道府県知事が、改善に必要な措置をとるべきことを命じることができるようになっています。

 また、連続勤務は原則として28時間以内、さらに確実に休息が取れるように、始業から24時間以内に9時間の連続した休息を取る等の勤務間インターバルの確保を義務(A水準は努力義務)付けています(図表3参照)。

(図表2:時間外労働の上限)

※各病院では960時間まで

適用する水準 1年の上限時間 面接指導 休息時間の確保
A水準 960時間 義務 努力義務
連携B水準(医師を派遣する病院) 1,860時間 義務
B水準(高次救急医療施設等) 1,860時間
C‐1水準(臨床・専門研修等)
C‐2水準(高度技能の修得研修等)

(図表3:医師の健康確保のための追加措置)

  1. 連続勤務時間は28時間までに制限
  2. 勤務間インターバル(休息)は9時間確保する
  3. 代償休息を付与する(休息中に、やむを得ない理由等により勤務した場合は、当該労働時間に相当する時間の代償休息を事後的に付与する)

筆者紹介

加藤千博

MJS税経システム研究所 客員研究員
社会保険労務士法人加藤マネジメントオフィス 代表社員
社会保険労務士 加藤 千博
http://www.kmo-sr.jp/

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