導入事例
税理士法人レガシィ 様
2020年10月29日
税理士法人レガシィ(東京都千代田区)は、相続申告実績日本一の相続専門事務所である。グループ企業のコンサルティング会社や行政書士法人などで構成されるレガシィマネジメントグループとして、相続税申告はもちろん、遺言書の作成支援からイグジットの不動産対策まで、相続に関するあらゆるニーズに応えている。5年前の相続税法改正に合わせ、相続コンサルティングへの一本化や生産体制の再構築、他士業との連携を進め、近年はそのノウハウを他の事務所に提供するプラットフォームづくりにも取り組んでいる。税理士法人の代表社員(パートナー)で、株式会社レガシィ常務取締役の天野大輔氏に、同グループのトータルサポート体制と今後の事業戦略について伺った。(写真撮影:市川法子)
申告実績日本一の相続専門税理士法人グループ
――本日は、レガシィマネジメントグループの中核をなす税理士法人レガシィの代表社員(パートナー)で、株式会社レガシィの常務取締役も務める天野大輔先生にお話を伺います。同グループは両法人と行政書士法人レガシィ、株式会社セブンスから構成され、天野先生はグループのCFO、CMO、CIOを兼務されています。
レガシィといえば相続ビジネスで業界トップクラスの事務所であり、代表社員の天野隆先生は、この分野で常に先頭を走り続けてこられました。相続コンサルティングの一流ブランドを築き上げた、まさに第一人者と呼ぶにふさわしい人物です。
今回の取材では、相続特化型事務所の草分けというだけでなく、蓄積されたノウハウやスキルにおいても群を抜いている税理士法人レガシィの歩みを振り返りつつ、会計事務所における相続ビジネスの未来戦略についてお聞きしたいと思います。
まずは、税理士法人レガシィの足跡から伺います。
天野 当グループの始まりは、現代表社員である天野隆の父親、すなわち私の祖父にあたる天野克己が、昭和39年に開業した税理士事務所です。
その十数年後の昭和55年に入所した天野隆が、相続税・固定資産税のサービスに乗り出し、積極的な事業展開を進めていきました。
資産税特化に経営の舵を切ったのは、30年ほど前になります。当時は、並行して会計税務も行っていましたが、平成27年の税制改正以降、この分野の業務は提携する税理士の先生方に全て委託し、相続・資産税に完全に特化しました。
CIを導入し、グループ2社と併せて社名を「レガシィ」に変更したのは平成20年です。
―― 会計事務所のメリットであるストック型ビジネスから、スポット型の相続・資産税にシフトしたのは英断といえますね。
天野 仰るとおり、顧問料に比べると収入が不安定になるので、決断には勇気が必要だったと思います。しかし、相続ビジネスはスポット型とはいえ、死は誰もが迎えるものですから、需要がなくなることはありません。統計上、2040年までは死亡者数が増え続けることは明らかです。
そのうえ、財産をお持ちの方も増加傾向にありますし、何より相続税の法改正以降は、課税対象者のすそ野が一般家庭にまで広がりました。スポットであっても、需要は高まっていく分野ですから、ビジネスとして十分に成り立つと考えています。
―― 5年前の基礎控除の低減により、東京都内では課税対象者が約4倍に増えています。貴グループでも相談件数が一気に増えたのではありませんか。
天野 はい。かなり伸びました。私がレガシィに入社したのは、税制改正のあった平成27年です。この年を境に、相談件数が急激に増えていく様子を目の当たりにしています。その急増に対応するための生産体制を整えるべく、システムを導入したり、組織運営の方法を変え始めたりしました。
―― 相談に訪れる方には、どのような特徴が見られますか。
天野 年齢層は50代、60代の方が中心です。現在、その年齢層の方々は3300万人に上るそうですから、相続のニーズが途絶えることは当分の間なさそうです。
また、ウェブが人々の生活にすっかり定着し、情報を入手しやすくなったことで、相続について考える機会が増えています。これも、相続の相談件数が増えている要因のひとつでしょう。つまり、ネットによる情報発信も、相続ビジネスの重要なファクターになるということです。
仕事をつなぐプラットフォーム「Mochi-ya」
―― 貴社がこれまでに手掛けられた相続税の申告は、累計で何件くらいでしょうか。
天野 申告数は約1万4000件に上ります。もちろん、これは完全に相続に特化しているからこそ到達した数字です。先ほど申し上げたように、税務会計業務は他の税理士先生に委託し、役割分担するという形態も、会計事務所のひとつの新しい在り方ではないかと思います。
―― それだけの件数をこなすと、蓄積されたノウハウも膨大なものになるのではありませんか。
岩崎 ええ。これまで蓄積されたデータやノウハウは、われわれが長期にわたり相続に携わってきた結果であり、継続のメリットはそこにあると思います。今後は、それをわれわれの宝として、もっと生かしていくことを考えなければなりません。
―― 具体的な構想や、既に取り組んでいることがあれば、紹介していただけますか。
天野 われわれのノウハウを、できるだけ多くの税理士の先生にも活用していただくべく、全国の会計事務所との連携を推進しているところです。
今後、相続ビジネスを行っていきたいとお考えで、当グループの理念にご賛同いただいた先生には、われわれのノウハウとともに案件もご紹介しています。われわれが案件ごと引き受けるというよりも、先生ご自身の相続ビジネスの体制づくりを支援していきたいと考えています。
その一環として令和元年7月に、税理士を含めた私どもの士業ネットワークをウェブでつなぐためのプラットフォームとして、「Mochi-ya」というウェブサービスを立ち上げました。
名称から予想がつくかもしれませんが、これは「餅は餅屋」をコンセプトに、税理士の先生方が仕事を融通し合うための場です。
税理士の先生それぞれに得手不得手の分野がありますから、不得意な仕事はそれが得意な先生に依頼する形で、うまく仕事を融通し合っていただこうという趣旨でスタートしました。
仕事を依頼もしくは応募する対象となる方は、税理士に限らず、社会保険労務士、行政書士、司法書士と、士業をまたいでのやりとりも可能です。われわれはこれまで、実際に他の税理士の先生方と、そうした仕事のやりとりをしてきました。同じことが行える公の場をウェブ上につくろうという発想が基になっています。
―― サービスの具体的な仕組みを教えてください。
天野 「Mochi-ya」は、当グループが運営する「レガシィ@クラウド」に会員登録していただいた税理士の先生が、無料で利用できるウェブサービスです。もちろん、会員登録も無料です。
依頼したい業務がある先生は、まずそれを「Mochi-ya」に登録していただきます。すると、レガシィマネジメントグループがその先生と相談しながら情報を整理し、「Mochi-ya」サイト上で公開します。
その業務を得意とする税理士の先生には、公開された情報を見て応募していただきます。そして、双方の先生の条件が合えば成約となり、業務分担料の収受が発生するという流れです。
先ほど申し上げたとおり、会員の先生が依頼したい業務の登録や業務への応募は無料で行えます。
―― まさに仕事をつなぐプラットフォームといえますね。天野先生が考案・構築されたのですか。
天野 発案者は私です。もともとIT企業でシステムエンジニアをしていたので、その経験と知識を生かしたいと思い、アナログ業務のデジタル化をベースに、このウェブサービスを考案しました。
今後は、「Mochi-ya」での取引数を増やし、お客様のニーズに合わせた、相談案件と税理士の先生とのカップリングなども進めていきたいと思っています。
業界初の非接触型サービス「相続のせんせい」
―― そのほかの取り組みについてもお聞かせください。
天野 令和2年8月に、「相続のせんせい」というBtoCのウェブサービスを立ち上げました。相続でお悩みのシニア世代の方と、税理士を中心とした相続の専門家とが、双方向にやりとりできる業界初のウェブサービスです。
相続では、戸籍謄本を役所にもらいに行ったり、税理士に渡しに行ったりと、どうしても対面のやりとりが多くなります。これをできるだけデジタル化しようという発想から生まれたサービスです。
「相続のせんせい」を利用すれば、相続が発生したお客様の相続税申告など、相続に関わる依頼をリモート・オンライン・非接触で行えます。新型コロナ禍に見舞われている昨今、社会的にも有用だと思います。
―― 具体的には、どのような仕組みなのでしょうか。
天野 こちらも無料の会員登録制で、相続に関わるさまざまな情報を調べたり、便利な各種ツールを使ったりすることができます。
また、依頼をされたら専用の窓口ページが作られ、スマートフォンからでも必要な書類をアップして、専門家である「せんせい」に見てもらうこともできます。ウェブ上に書類サンプルを載せていますので、お客様にはそれで必要な書類を確認してもらい、同じものをスマホで撮ってアップしていただくという手順です。
そのほか、遺産分割の簡単なシミュレーションなども双方向で行えます。
―― 便利なツールにはどのようなものがあるか紹介していただけますか。
天野 例えば、自宅(実家)の路線価、坪数、金融資産などを知りたいときは、「10秒でわかる相続税」「相続税かんたん計算」などのページで調べることができます。
当社では、相続税の申告実績から、普通の家庭、地主の方、大地主の方がそれぞれどの程度の金融資産をお持ちか、ランク別に統計を取っています。ご自分に合ったランクを選択すれば、「実家の最寄り駅しか分からない」方でも、相続税がいくらくらいか計算できるようになっています。
「相続モメ度診断~モメない先の杖~」では、5~20の設問に回答することで、相続の際にトラブルになる可能性を診断します。どのような場合に揉めるのか、トラブルの心配はあるかなど、さまざまな角度から数値化して表し、ランク付けしています。さらに、関連するコラムなども載せたりしています。
現在このWEBサービスは、弊社メンバーや弊社と業務提携させていただいている先生方のみが利用できる状況ですが、今後は提携させていただいていない先生方も利用できるように拡張を考えています。このWEBサービスを通して、ぜひ先生方のお客様と相続に関するやりとりをしていただき、先生方のお客様のお役にも立ちたいと願っています。
BPRの一環としてミロク情報サービスのシステムを活用
―― 貴社は、相続の相談件数の急増に対応するために、ミロク情報サービスのシステムを活用して、生産体制を整備していると伺っています。
天野 相続への完全特化から3年が経過した頃、相続案件の増加に伴い、生産体制の見直しという課題が浮上しました。
相続案件は、誰でも対応できるというものではありません。相続はお客様の感情が支配する難しい場であり、その感情を丁寧にくみ取って、適切な提案をすることが求められます。ですから必然的に、数が少ない税理士や相続専門スタッフによる顧客対応が必要になります。
しかし、ここで税理士や専門スタッフが申告業務まで全部抱えてしまうと、負担が重くなりすぎて、生産性が落ちてしまいます。そこで、顧客対応を担当するスタッフと、入力など、いわゆる生産を担当するスタッフが役割分担をするようにしています。
このとき、使っている業務システムが、この役割分担に合っていないと、十分な成果が上げられません。
例えば、生産担当のスタッフが申告ソフトに入力し、申告業務が終わった後、顧客担当のスタッフが報告書を作成し、お客様に結果を報告しています。以前からこの2つの業務をシステム的に連携させていたのですが、うまくいかないことが多く、申告のための入力データを報告書作成に活用できていなかったり、複数のメンバーが同じような入力を二重に行っていたりすることも多々ありました。
私たちの業務には、そのような二度手間ともいえる状況が散見されていて、それを解消することが、案件数の急増に対応するためには不可欠でした。
こうした状況を改善するために、申告ソフトの独自開発などもしていたのですが、最終的には「餅は餅屋」ということで、プロに頼むことにしました。業務システムの改善について、ミロク情報サービスに相談したのは、このような経緯があったからです。
当時、われわれが目指していたのは、単なるシステムの入れ替えではなく、BPR*1でした。ビジネスプロセスを意識して、業務やシステムを抜本的に見直さないと、案件の急増に対応できないという思いがあったのです。
そこで、BPR専門のスタッフも交えてミロク情報サービスに相談してみると、われわれの思いをよく理解してくださいました。そして、ミロク情報サービスの協力が得られれば、課題を解決できそうだという感触を得たのです。
業務システムを通じて特に改善したかったのが、前述の二重入力の問題です。複数のスタッフが同じような入力を繰り返すのではなく、誰かが一度入力すれば、別のスタッフがそれをお客様に提出する報告書に活用できたり、内部のデータベースに蓄積できたりするようにしたかったのです。
ミロク情報サービスは、われわれの希望を丁寧に聞き取ってくださり、統合業務パッケージ「ACELINK NX-Pro」を中核とするシステムを提案してくださいました。
このシステムを導入した結果、課題だった二重入力の問題の解消が進み、入力に関わる業務時間が削減されました。われわれが考える業務改革を理解したうえで提案してくださったことが、やはり大きいと思います。
*1 Business Process Re-engineering:専門化が進みすぎて業務が分断され、生産性が落ちている組織を改革する手法。業務の流れに重点を置いて組織や業務内容、管理体制、業務システムなどを再設計する。
他士業や金融機関との連携も推進
―― 会計事務所における相続ビジネスは、申告だけでなく業務の幅が大きく広がり、他士業との連携も必要になっています。そちらの面での取り組みについてはいかがですか。
天野 税理士に限らず、司法書士や弁護士など、他士業の先生方と連携して、相続周辺の業務を幅広くサポートしていくためのプロジェクトも立ち上げています。最近は、特に地方の税理士さんをはじめとする士業の先生方との連携を積極的に進めています。
現在は新型コロナ禍で直接お会いすることが難しいのですが、オンラインによるコミュニケーションも徐々に取れるようになり、互いに補完し合ったり、相談し合ったりする関係が築かれつつあります。
―― 相続のイグジットとして、不動産の処分や活用といった選択を迫られるケースも多いと思います。
天野 確かに、相続という非常事態をきっかけに、不動産について改めて考えるご家族はとても多いですね。税金を納めるために不動産を売却したり、節税のために土地の有効活用法を考えたりするのは、不動産の専門家の領域になります。
そこで、当グループでは14年前に、リアルエステートコンサルティング部を発足させました。不動産仲介業経験者や宅地建物取引士の資格を持った専門家の部署です。
ただ、ほとんどのケースにおいて、複雑な権利関係や税法上の特例などが絡んでくるため、税理士とタッグを組んで対応する必要があります。
―― 金融機関との連携による相続案件の掘り起こしについてはいかがですか。
天野 金融機関さんとも、ウィン−ウィンの関係で提携させていただいています。相続案件を手掛けていると、融資や預金につながる話がしばしば出てきますから、金融機関さんにとってもメリットがあります。
今、金融機関さんはどこも相続に注力されており、今後、ますますそのギブ&テイクの関係を深めていきたいと思っています。
プラットフォームを基盤にナンバーワングループを目指す
―― 最後に、今後の目標や、中長期的なビジョンについてお聞かせください。
天野 われわれが掲げているビジョンは、「『相続日本一』で培った知恵とテクノロジーでプラットフォームを作り、50代・60代の人々と心が通うナンバーワングループとなる」です。これは、平成31年の年初に経営方針として発表しました。
長年の経験のおかげで、それなりの知恵は身に付いたと思います。ただ、相続の特徴として、どうしても切り離せないアナログ的な業務があります。その部分ではテクノロジーを駆使して、うまくデジタルと組み合わせることで、より質の高いサービスをプラットフォームという形でご提供していきます。
そして、私たちはネットだけでなく、対面サービスもとても大事にしていますから、「心が通う」をモットーにサービスを提供していきたいと考えています。
今申し上げたビジョンは、現在50代から60代の方々が5Gスマホを使いこなす時代が到来することを見据えて描きました。「Mochi-ya」や「相続のせんせい」は、このビジョンの下でプロジェクトを立ち上げ、開発を進めてきました。当グループの税理士はもちろん、外部の優秀なベンダーさんなどにもご協力を賜り、作り上げたものです。今後は、これらがお客様から、より価値のあるプラットフォームとして評価していただけるよう、改善を重ねていく所存です。そのためのマーケティングが、今後の課題になると思います。
また、われわれが今、特に重視しているのは、会計事務所様からのご依頼やご要望です。例えば繁忙期で資産税関連の仕事まで手が回らないという先生方からの相続案件のご依頼や、このような税務の仕事を積極的に引き受けたいので紹介してほしいというご要望です。われわれは今後、そうしたニーズに応えることに、より力を入れていきたいと考えています。
「Mochi-ya」を立ち上げた目的のひとつは、そのような先生方のご要望にお応えすることです。先生方のご負担を少しでも減らし、ご要望にも応えられるよう、密接なコミュニケーションを図っていきたいと考えています。
―― レガシィマネジメントグループの今後のご活躍に期待しています。本日は貴重なお話をありがとうございました。
導入事務所様のご紹介
天野大輔(あまの・だいすけ)
税理士法人レガシィ代表社員(パートナー)。株式会社レガシィ常務取締役。公認会計士・税理士。昭和54年生まれ。東京都出身。慶應義塾大学大学院文学研究科修了。大手情報システム会社でシステムエンジニアとして勤務した後、公認会計士試験に合格。平成23年、監査法人に入所し上場企業や上場準備会社などの会計監査、内部統制監査を担当。平成27年、税理士法人レガシィ入社。平成30年、株式会社レガシィ常務取締役に就任(事業承継コンサルティング部長も兼任)。令和元年、税理士法人レガシィ代表社員税理士に就任(情報戦略本部長、経営戦略本部長も兼任)。税理士などの士業向けプラットフォーム「Mochi-ya」の構想・構築を行う。著書に「改訂版はじめての相続・遺言100問100答」(共著/明日香出版社)などがある。
税理士法人レガシィ(レガシィマネジメントグループ)
所在地 |
大手町オフィス 東京都千代田区大手町1-3-1 JAビル5・6F 横浜オフィス 神奈川県横浜市西区みなとみらい3-7-1 オーシャンゲートみなとみらい8・9F |
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代表者 | 代表社員 天野大輔 |
設立 | 昭和39年 税理士天野克己事務所 開設 |
構成人数 | 1413名(グループ総数) |
主な業務 | 相続事前対策、相続税申告、事業承継支援 |
URL | https://legacy.ne.jp/ |
- 本事例の掲載内容は取材当時のものです。