導入事例
みどり合同税理士法人グループ 様
2021年9月1日
みどり合同税理士法人(香川県高松市)は、創業の昭和62年から30年以上の歴史を持つ会計事務所である。同法人を母体とする専門家集団、みどり合同税理士法人グループは、全体で従業員数が200名の規模を誇る。会計事務所が母体の組織としては、全国でもトップクラスの規模だ。同グループでは早くからRPAを導入するなど、テクノロジーによる業務効率化にいち早く取り組んでいる。しかし、代表の三好貴志男氏は、「デジタルを活用する本当の目的は、自分たちの業務を効率化するだけではなく、お客様の収益を向上させる点にある」と語る。本稿では、みどり合同税理士法人グループ代表の三好氏と、株式会社みどりデジタルサポートでWebマーケティング室長を務める濱谷充信氏に、同グループにおけるデジタル活用を中心にお話を伺った。(撮影 市川法子)
地元の銀行とのつながりをつくった創業期のポイント
―― みどり合同税理士法人グループは、会計事務所を母体とした専門家集団です。香川県高松市を本部とする同グループですが、東京にも拠点があり、会計事務所を母体としたグループとして、四国のみならず、全国でも有数の規模を誇ります。
本日はみどり合同税理士法人グループの創業者であり、代表を務める三好貴志男氏にお話を伺います。
まずはみどり合同税理士法人の沿革をお聞かせください。
三好 私は監査法人で働いた後、昭和62年にここ高松で独立開業しました。当時はバブル期でしたが、お客様はゼロからのスタートでした。
―― 顧客はどのように開拓されたのでしょうか。
三好 当時あまりプレイヤーのいなかった資産税、特に相続に注力することに決めたのです。「相続」といっても現在のようにさまざまな業務を包括するわけではなく、あくまで相続税に特化しようと考えていました。
軌道に乗るきっかけとなったのは、地元の百十四銀行との提携です。支店長研修を任せていただいたのですが、そのつながりからさまざまなご相談をいただくようになったのです。百十四銀行との関係は大きな土台となりました。
――研修に参加した各支店長から紹介が生まれたのでしょうか。
三好 いえ、支店長研修を担当することで、本部の方とつながりができ、そのなかからのご相談が多くありました。
――支店長研修はどのようなきっかけで始められたのでしょうか。
三好 銀行OBの営業マンに合流してもらったのですが、彼の人脈からですね。それがなければ本部の方とつながることはできなかったと思います。
先ほど申し上げたとおり、創業時のお客様はゼロでした。それでも当初から営業マンを雇い入れたのは、創業期における大きなターニングポイントでした。
――みどり合同税理士法人グループ全体の体制についてお聞かせください。
三好 グループの母体である会計事務所は、昭和62年に創業した後、平成16年に税理士法人へと移行しました。みどり合同税理士法人以外にも、株式会社みどり未来パートナーズ、株式会社みどり合同経営、みどり増販情報センター、株式会社みどり財産コンサルタンツ、株式会社みどり医療経営研究所、公認会計士三好貴志男事務所、株式会社みどりデジタルサポートなど、13の法人から成り立っているのがみどり合同税理士法人グループです。現在では株式会社みどり合同ホールディングスがグループの中核を担っています。
ただし、みどり合同ホールディングスはただの持ち株会社ではありません。私たちはグループ全社で事業承継の支援に取り組んでいます。M&Aが出口となる事業承継に関しては、みどり未来パートナーズ、みどり財産コンサルタンツ、みどり医療経営研究所の3法人が中心となって取り組むことが多いです。
ただし、後継者不在で相談をいただく全ての企業がM&Aで売却できるわけではありません。具体的にいえば、赤字の企業はやはりなかなか買い手が見つかりません。そのような場合、私たちは自身で企業を引き受けて事業再生に取り組みます。
既に十数年にわたって企業再生を行っているのですが、この事業再生はみどり合同ホールディングスで行っています。単なる持ち株会社ではなく、事業会社としても活動しているわけです。
200名規模のグループを「会計による見える化」で牽引
――事業承継のほかにはどのような相談が寄せられるのでしょうか。
三好 事業承継はメジャーなご相談ですが、それ以外にもさまざまな内容をいただきます。最近特に多いのは、事業再構築補助金の案件ですね。
現在、事業再構築補助金には一般のものと、コロナ禍における緊急特別のものがあります。その両方を合わせた採択数と通常枠での採択数が、会計事務所では全国トップとなっています。
――顧問先を支援するために、さまざまな領域で取り組みをなさっているのですね。
三好 中小企業再生支援協議会が発足した平成15年度当初から、私たちは企業再生に注力していました。その経験値があるので、経営計画を作ることができる人材も多くいます。だからこそ、赤字の企業を自ら受け入れて再生するといったこともできるのです。
このような事業再生には資金力が求められますので、会計事務所では珍しい取り組みだと思います。 私たちも潤沢な資金力があるわけではありませんが、10年以上の経験値から得られた技術で対応しています。
――現在、グループ全体で従業員はどのくらいいらっしゃるのでしょうか。
三好 事業再生によって引き受けている会社や、保育園などの職員も含めますと、グループ全体で約200名の規模です。
――会計事務所を母体とするグループとしては、日本でも有数の規模だと思います。ガバナンスに関して意識されていることを教えてください。
三好 「会計による全体の見える化」を重要視しており、その実践に自信を持っています。それはミロク情報サービス(以下、MJS)を中心としたさまざまなソフトウエアを活用してデータを分析して、精緻な部門別会計を実践し、会社を見える化するというプロセスです。
私たちはこの15年ほど「会計による全体の見える化」に取り組んできました。そして、現在では私たち自身のみならず、お客様にも提供できるレベルに達している自負があります。税務という複雑な業務を抱えながら、さまざまな事業を展開できているのは「会計による全体の見える化」のおかげにほかなりません。
事務所の基幹システムを支える24時間のサポート体制
――MJSとはどのくらいの付き合いがあるのでしょうか。
三好 開業当初からなので、30年以上前からお世話になっています。ある先生から紹介をいただいたことをきっかけに、ずっとメインのシステムとして利用しています。
――長年利用しての感想をお聞かせください。
三好 MJSを利用していて感じる最も大きなメリットは、土日を含めて曜日を問わず、24時間体制のサポートをしてくれる点です。分からないことにはいつでも回答してもらえるので、本当に感謝しています。
私たちは期限がある仕事をしています。「分からないから明日にしよう」では済まされない場面がどうしてもあります。MJSさんのサポート体制は他社にはないもので、本当に助けられています。
――それは極めて大きなメリットですね。
三好 そのとおりです。ですから、私たちはMJSを中心として業務を行っています。
もちろん、MJS以外のソフトウエアやサービスの利用を要望されるお客様も多くいます。そのような場合、当然そのお客様のニーズに合わせて対応します。
ただし、あらゆるソフトウエアやサービスで受け取る会計データは、全てMJSのシステムへ取り込み、決算書を作成して税務申告をしています。 特に税務領域の信頼感は抜群ですね。ですから、MJSで全てを行っているのです。
DXで顧客の収益を上げる
――昨今では会計業界でもデジタル・トランスフォーメーション(以下、DX)の必要性が叫ばれています。DXにはどのように取り組まれているのでしょうか。
三好 私たちはDXを「デジタルを使っていかにお客様の収益を上げるか」だと捉えています。ただ、1年半ほど前までは「RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)により、自分たちの業務を効率化することがDXの主軸である」と考えていました。
特にRPAに関しては毎週新たに取り組みをご案内していますし、他の事務所に負けない知見があると思っています。もちろん、自分たちの業務を効率化することは重要ですし、継続して実践していますが、現在はお客様が会計数値を使って業績を改善するサポートに完全に軸足が移りました。
従来の会計事務所は、「会計数値をつくる」という入り口で仕事をしていました。しかし、私たちはその入り口の部分はAIやRPAなどのテクノロジーに任せ、出てきた数値でいかにお客様の経営に寄与するかという出口の部分に最も注力しています。
もう少し具体的にお話しすると、まずはMJSのシステムに全ての会計ソフトからのデータをRPAで自動的に流し込み、グラフ化します。そして、現在最も力を入れているのが、そのグラフを使って経営者の意識を変革させる部分というわけです。
――多くの会計事務所はまだ「RPAに取り組んでみよう」という段階です。RPAの領域で多くの知見を得ているとのことですが、RPAをうまく活用するためには何が重要なのでしょうか。
三好これは取り組んだ結果として分かったことですが、RPAに限らずDXが関係する業務について最も大切なのは、「人」でした。エンジニアやデジタルの担当者が会計人の隣にいるのと距離があるのでは、効率が全く違います。体感としては10倍、100倍にも差が及ぶのではないかと実感しているほどです。
――ただ、多くの会計事務所ではデジタル領域に明るい専任担当者を設けるのは難しいのではないでしょうか。
三好 私たちのグループでRPAを担当している職員のなかには、昨年高校を卒業して18歳で入社した者もいます。1年経った今年の4月には、もう立派に担当者として機能しています。
また、私たちが「データからグラフ化」を行ううえで「Microsoft Power BI」というセルフBI(ビジネス・インテリジェンス)ツールが大きな役割を果たしています。今年の4月に入社した新人は、半年後にはある程度「Microsoft Power BI」を使いこなせるようになりました。
――やはり育成できる環境が重要なのですね。
三好 そうですね。人材がいなくても研修に出すことで一定のレベルに達することは可能だと私は考えています。
ただ、すぐそばに指導できる専門家がいると、やはり成長はとても早いと思います。私たちのグループではみどりデジタルサポートに所属する濱谷がその役割を担っています。
IT人材のチャレンジが会計事務所を加速させる
――濱谷さんが担当している業務についてお聞かせください。
濱谷 私はもともとウェブエンジニアとしてのキャリアを歩んできたのですが、約1年半前にみどりデジタルサポートのWebマーケティング室長として合流しました。
ただ、当初想定されていたウェブマーケティングの領域のみならず、グループのITに関する全てを担当しています。いわゆるヘルプデスク的な機能は担っていませんが、デジタル活用について自らグループ内に提案して回っています。
三好 「言われたことをこなす」だけではなく、「自ら新たなチャレンジを提案する」専門家がそばにいる意義は本当に大きいと感じています。
濱谷 私たちはDXの推進において、先ほどお話しした「Microsoft Power BI」など、主にマイクロソフト社のSaaS製品を扱っています。さまざまなサービスを触ってみて、それらを活用した施策を立案していくわけです。
――マイクロソフト社の製品を活用するきっかけを教えてください。
濱谷 山形のあさひ会計グループさんが国内で展開している「WinAutomation」を私たちも導入することを決めたことが、後にきっかけとなりました。昨年5月、「WinAutomation」の開発元がマイクロソフト社に買収されることが発表されました。いずれは「WinAutomation」もマイクロソフト社の「Power Automate」に統合されると伺ったのです。
そこで、「Power Automate」を触ってみることになったのですが、それは「1+1が4」であると感じるほど使いやすいものでした。
職員の離職率が改善したきっかけ
――多くの会計事務所が人手不足に悩んでいます。新たな人材の採用に関しての苦労などがあればお聞かせください。
三好 私たちも昔は採用にとても悩んでいました。例えば、誰かが辞めて慌てて募集を開始すると、猫の手も借りたい状況ですから、あまりレベルの高くない方でも採用せざるを得ないわけです。
そのような人材には教育する手間も時間も必要です。また、せっかく教育をしたとしても、業務レベルに追いつけなければすぐに辞めてしまうことも珍しくありません。会計事務所として運営が軌道に乗ったのは、人材が辞めなくなってからでした。
――なぜ離職率が低下したのでしょうか。
三好 大きな変化が生まれたきっかけは、新卒での採用を行うようになったことでした。中途の採用を極力しぼり、新卒を育てることに注力するようになったのです。新卒を育てる体制になってからは、辞める方は大幅に減りました。
オンラインでのコミュニケーションの活用で全国展開
――直近の状況はいかがでしょうか。
三好 最近では人材獲得に明るい兆しが見え始めています。そのポイントは私たちが掲げている「完全ペーパーレス化」にありました。
まだ、業務の全てをペーパーレスにできているわけではないのですが、ペーパーレス化を推進するということは、場所にとらわれずに働けるようになるということです。最近「在宅ワーク」として人材の募集をしてみたところ、若い方も含めて想像以上の数の応募がありました。 数年前までは、私たちが人材を獲得しようとすれば、高松へのUターン・Iターンをしてくれる方を探す必要がありました。しかし、ほとんどそのような人材は見つかりませんでした。
ところが、コロナ禍の影響でオンラインによるコミュニケーションが当たり前となりました。今後、北海道に住む税理士さんが在宅ワークで入社してくれる予定もあります。デジタルを前面に押し出すことで採用に希望が見えてきました。
――全国で働けるような体制が整っているのですね。
三好 全国への展開が加速しているのは職員だけではありません。お客様もこの1年は急速に全国に広がっています。例えば、私たちは従来は医療関係のお客様をあまり広げてきませんでした。それはドクターの多くは「朝か夜に来てほしい」という要望を持っているのですが、高松からそのニーズに対応することは難しかったからです。
しかしながら、オンラインでのコミュニケーションが活用できれば、場所は関係なくなります。現在は全国の医療機関に対応できるようになりました。実際に直近1年で獲得したお客様の8割は県外の方です。それもほとんどが東京のお客様です。
「数字の力」を視覚化する
――最後に読者へのメッセージをお願いします。
三好 会計事務所の先生方には、とにかく「会計はものすごい力を持っている」と改めて認識してほしいと願っています。それは言わずもがな「数字の力」です。
近年、行動会計学という学問が注目を集めています。「人はどのようにすればやる気を出して働くのか」などを研究する学問なのですが、「人は測定されると行動を変える」という結果が明らかになっています。 組織の経営を改善するには、従業員の行動を変えるしかありません。なぜならば、世の中もお客様のニーズも変化するわけですから、同じことをやっているだけでは取り残されてしまうのです。だからこそ、行動を変えなければなりません。そして、「行動を変える」という部分で、会計人は「会計の力」、言い換えれば「数字の力」を活用してほしいと思います。
――具体的に、どのように「数字の力」を活用すれば、会計事務所の行動の変化を促すことができるのでしょうか。
三好 私たちが実践しているのは「数字を視覚化する」ことです。つまり、数字をグラフにしていくわけですね。
グラフを作成するうえでのポイントは、ある一瞬を切り取った「静的なグラフ」だけではなく、長い期間を表す「動的なグラフ」を活用することです。
従来の会計のグラフは瞬間を捉えたものでしかありませんでした。ところが、例えばBIツールを活用して過去10年分の全仕訳からグラフを作成すると、動きが出てくるわけです。そのグラフを職員が見ると、気づく内容がこれまでとは全く異なります。そして、意識が変わり、自分で行動を変えようとしてくれるのです。
私たちはBIツールを利用していますが、その前には会計ソフトの機能でグラフを作成していた時期もありました。それだけでも従業員の行動は変わります。全てのチームが黒字化を達成できているのは、グラフがもたらした影響がとても大きいと思っています。会計、数字をグラフに視覚化すると、腹落ちの度合いが全く異なるのです。
現在では紙に印刷するのではなく、メールでお送りすることで、顧問先の経営者が直接触って動きのあるグラフを確認することができるようになっています。そして、そのグラフをどのように使えば従業員の行動が変わるかと指導していくわけですね。それでお客様の経営は大きく変わってきます。
会計事務所はこの役割をぜひ果たしてほしいと思います。
――本日は貴重なお話をありがとうございました。今後のますますのご発展を祈念しています。
導入事務所様のご紹介
三好 貴志男(みよし・きしお)
みどり合同税理士法人グループ 代表。みどり合同税理士法人 代表社員 理事長。株式会社みどり合同ホールディングス 代表取締役。株式会社みどり未来パートナーズ 代表取締役会長。株式会社みどり合同経営 代表取締役。株式会社みどり財産コンサルタンツ 代表取締役会長。監査法人トラスト 代表社員。公認会計士。税理士。昭和25年生まれ。香川県出身。慶應義塾大学経済学部卒。監査法人トーマツでの勤務を経て、昭和62年、公認会計士三好貴志男事務所を開設。昭和63年、アップル会計株式会社(現、みどり合同税理士法人)を設立。
濱谷 充信
株式会社みどりデジタルサポート Webマーケティング室長。
みどり合同税理士法人グループ
所在地 |
香川県高松市栗林町1丁目18-30 みどり栗林ビル |
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代表者 | 代表社員 理事長 三好 貴志男 |
設立 | 昭和62年3月 |
構成人数 | 約200名 |
主な業務 | 管理会計導入支援、事業承継・相続、経営コンサルティング、企業組織再編、M&A、相続税対策・申告サービス、会社設立支援、医院(クリニック)開業支援サポート、医療 法人設立サポート、医療法人向け事業継承サポート、クリニック専門記帳代行・申告サービス、医療機関向け税務顧問サービス |
- 本事例の掲載内容は取材当時のものです。