当社のインタレスト・カバレッジ・レシオ(ICR)は黄色信号!? 分析する際の留意点
2025年12月13日
質問
「ミロク・キューブ」の社長は、自社のインタレスト・カバレッジ・レシオ(略してICRともいう。「営業利益÷支払利息」などで算定)の分析にあたり、大まかな目安と比較したいと考えています。次のうちどれを目安として比較するのが最も適切でしょうか?
パターン1
大規模な上場企業の値を目安とする
パターン2
創業から50年以上経つ老舗企業の値を目安とする
パターン3
規模や業種などが類似する企業の平均値を目安とする
この質問をイメージして以下のストーリーをお読みください。
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財務面の安全性も考えた経営
特殊素材の製造・販売を営む「ミロク・キューブ」は、まもなく創業10年を迎えます。事業を拡大中の成長企業です。
社長、当期も財務分析の資料を作成しました。参考にしてください

顧問税理士のA先生

社長
ありがとうございます。おかげさまで、財務的に健全な状況をキープしていますよ。創業直後は事業拡大にかかりきりでしたが、財務分析も大事ですね
現在は財務面の安全性にも配慮する「ミロク・キューブ」ですが、1年前は財務分析を行っていませんでした。
1年前 ~財務分析が苦手な社長……インタレスト・カバレッジ・レシオ(ICR)って何?
1年前のある日、A先生は社長のもとを訪れました。
御社の決算書をもとに財務分析をしたので、資料をお持ちしました

A先生

社長
財務分析ですか。難しそうですね
難しくないですよ。少し説明を……。(♪♪)あら、メッセージだわ。失礼します

A先生

社長
どうぞ、どうぞ
保育園に預けている子どもが熱を出したみたいなんです

A先生

社長
それは大変だ! うちにも小さい子がいるからよくわかりますよ。すぐに迎えに行ってあげてください
申し訳ありません。後日改めてうかがいます。資料は置いていきますね

A先生
残された資料に目を向けた社長は、ある指標に黄色いマーカーがついていることに気付きました。

社長
Bさん、マーカーのついている『インタレスト・カバレッジ・レシオ』ってなんだい? 私は製造現場一筋だったから、わからなくてね
インタレスト・カバレッジ・レシオ(ICR)の算定式と意味
『インタレスト・カバレッジ・レシオ』は、このように算定するんです

経理スタッフのBさん
インタレスト・カバレッジ・レシオ=(営業利益+受取利息+受取配当金)÷支払利息
※支払利息に割引料などを加えることもあります。
インタレスト・カバレッジ・レシオは、企業が事業を通じて稼いだ利益が、支払利息の何倍あるかを表す指標です。インタレスト・カバレッジ・レシオが高いほど、支払うべき利息を大きく上回る利益があることを意味するため、財務的に健全な状況と言えます。
ただし、受取利息などの額は大きくないことも多いので、次のように簡易的に算定することもあります。A先生の資料では、この式を用いていますね

Bさん
【簡易的に算定する場合】
インタレスト・カバレッジ・レシオ=営業利益÷支払利息
「ミロク・キューブ」のインタレスト・カバレッジ・レシオ
=営業利益63,000千円÷支払利息9,000千円=7倍
もしインタレスト・カバレッジ・レシオが1倍未満の場合、利益の範囲で利息の支払いをまかなえていないということですから、相当厳しい状況ですね

Bさん

社長
なるほど。それなら、当社のインタレスト・カバレッジ・レシオは危機的な水準ではないね。A先生はなぜマーカーをしたんだろう?
わかりませんね

Bさん

社長
インタレスト・カバレッジ・レシオの目安はどれくらいなんだ? 大まかな目安と比較したいな
質問
「ミロク・キューブ」の社長は、自社のインタレスト・カバレッジ・レシオ(略してICRともいう。「営業利益÷支払利息」でなど算定)の分析にあたり、大まかな目安と比較したいと考えています。次のうちどれを目安として比較するのが最も適切でしょうか?
▼あなたの思うパターンをクリック▼
パターン1
大規模な上場企業の値を目安とする
パターン2
創業から50年以上経つ老舗企業の値を目安とする
パターン3
規模や業種などが類似する企業の平均値を目安とする
上場企業は株式発行により資金を調達することも可能で、上場企業と非上場企業では資金調達の在り方が大きく異なります。そのため、上場企業ではない「ミロク・キューブ」が、上場企業の値を目安とするのは最適ではありません。
すでに事業を確立している老舗企業と、事業を拡大中の成長企業では、借入を必要とする度合いが大きく異なります。そのため、成長企業である「ミロク・キューブ」が、老舗企業の値を目安とするのは最適ではありません。
インタレスト・カバレッジ・レシオは、企業の規模や業種などによって大きなばらつきがあります。したがって、これらが類似する企業の平均値を目安として比較するのが最も適切です。
当社のインタレスト・カバレッジ・レシオ(ICR)は黄色信号?

社長
誰もが知る上場企業のX社のインタレスト・カバレッジ・レシオと比較しよう!
公表データから概算しますね。うわ~……、約100倍ですよ

Bさん

社長
100倍!? うちの会社と桁が違うな。じゃあ、私の親族が経営するY社はどうだ? 創業50年を超える老舗企業だから、参考になるだろう
資料から概算すると約50倍ですね

Bさん

社長
え~っ! 当社のインタレスト・カバレッジ・レシオが低くて黄色信号だから、A先生はマーカーをつけたのか……
インタレスト・カバレッジ・レシオ(ICR)を分析する際の留意点 ~例え話で理解
数日後、落ち込む社長のもとをA先生が再び訪れました。
先日は申し訳ありませんでした。子どもの熱は下がりましたよ

A先生

社長
それはよかった。ところで先生、当社は黄色信号の状況ですか?
えっ? 急にどうしたんですか?

A先生

社長
先日の資料の『インタレスト・カバレッジ・レシオ』に黄色いマーカーがついていますね。当社の水準は低いんでしょう? X社やY社の水準と比べたんです
A先生は、笑顔で説明を始めました。
たとえば……、うちの子は2か月前にも熱を出したんです。大人がその頻度で熱を出したら多いですけれど、同年代の子と比べればどうでしょう?

A先生

社長
うちの子もしょっちゅう熱を出しますから、そのくらいは普通ですよ
インタレスト・カバレッジ・レシオにも同じことが言えるんです

A先生
上場企業は、株式発行などにより資金を調達することも可能です。また、借入によって資金を調達する場合でも、信用力などを背景に低金利での借入ができることが多いと考えられます。そのため、こうした強みを持つ上場企業のほうが、非上場企業よりもインタレスト・カバレッジ・レシオが高くなりやすいと言えます。
また、インタレスト・カバレッジ・レシオは、業種によっても差があります。製造業のように設備への先行投資が必要な業種は、コンサルティング業のように先行投資が少なくて済む業種よりも、借入による資金調達の必要性が高くなります。したがって、設備投資が必要な業種のほうが、インタレスト・カバレッジ・レシオは低くなりやすいと考えられます。
それに、御社のように事業を拡大する局面にある企業では、借入が必要ですよね。でも、すでに事業を確立して社内留保も多い老舗企業なら、借入の必要性は低いでしょうから、インタレスト・カバレッジ・レシオは高めになるはずです

A先生

社長
つまり、自社のインタレスト・カバレッジ・レシオを分析するなら、似たような状況にある企業の平均値を目安として比較するのが良いということですね
令和6年中小企業実態基本調査(※)から概算すると、製造業を営む中小企業のインタレスト・カバレッジ・レシオ(営業利益÷支払利息)の平均値は約9.8倍です。
(※)中小企業実態基本調査
ちなみに御社のインタレスト・カバレッジ・レシオは、規模や業種が類似する企業の平均値とかけ離れた水準ではありませんよ

A先生

社長
ではなぜマーカーを?
確か、新設備を導入するために追加借入を検討するとおっしゃっていましたよね。でも、財務面の安全性の観点からは、インタレスト・カバレッジ・レシオが今より大きく下がる状況は避けるほうが望ましいかもしれません

A先生

社長
新設備の導入は見送りますか……
A先生は資料をめくり、決算書を示しました。
御社は創業当初に使っていた製作所の跡地を保有されたままですね

顧問税理士のA先生

社長
もう使っていないんですが、思い出があってね
跡地を売却して、その代金を新設備の資金に充ててはいかがですか。そうすれば利息の負担は増えませんから

A先生

社長
それなら財務的な安全性を保つことができそうだ。さらなる成長のために、思い出を手放す時期のようですね
「インタレスト・カバレッジ・レシオ(ICR)」
「(営業利益+受取利息+受取配当金)÷支払利息」ないし「営業利益÷支払利息」で算定される指標です。企業が稼いだ利益が支払利息の何倍あるかを表し、この値が高いほど財務的に健全な状況にあります。インタレスト・カバレッジ・レシオが1倍未満の場合、利益の範囲で利息の支払いをまかなえていないということですから、相当厳しい状況です。
また、インタレスト・カバレッジ・レシオは、企業の規模や業種などによってばらつきがあるため、分析する際には類似企業の平均値を目安とするのが適しています。
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