第29回 メンタルヘルス不調者と休職制度
2022年6月1日
最新の厚生労働省の調査(令和2年「労働安全衛生調査(実態調査)」の概況)によると、過去1年間(令和元年11月1日から令和2年10月31日までの期間)にメンタルヘルス不調により連続1ヶ月以上休職した労働者または退職した労働者がいた事業所の割合は9.2%となっています。また、前回の労務管理トピックスの内容にも関係しますが、精神障害に関わる労災請求件数は年々増加傾向にあります。そこで今回は、メンタルヘルス不調者が休職する際、および休職後に復職する際の留意点について解説いたします。
職場のメンタルヘルス不調者
弊社の顧問先企業においても、メンタルヘルス不調により休職または退職してしまう労働者が多く存在します。その要因は様々ですが、「強いストレス」によるものであることは間違いありません。前述の厚生労働省の調査においても、仕事上「強いストレス」を感じる労働者の割合が全体の50%を超えており、その要因として「仕事の量・質」、「仕事の失敗、責任の発生等」、「対人関係(セクハラ・パワハラを含む。)」の3要因が上位を占めています(図表1参照)。
2015年12月からは労働者が常時50名以上いる事業所ではストレスチェック制度が義務付けられ、大多数の企業は何かしらメンタルヘルス対策に取り組んでおりますが、職場のストレス環境はなかなか改善されていないようです。
休職制度構築のポイント
休職制度は、労働者が業務上以外での病気やケガ(以下、「私傷病」という)で一定期間働けない場合に労働が免除される制度ですが、法律上の義務ではありませんので、そもそも休職制度を導入していない企業もあります。その場合、例えば私傷病により業務に就けなくなってしまった場合は、自己都合により退職するか、それを望まない場合は解雇となる可能性が高いです。労務を提供できないわけですから解雇も致し方ないと思われがちですが、特にメンタルヘルス不調者の場合はその要因が職場での強いストレスである場合も多く、訴訟等のトラブルになりかねません。休職制度があれば一定期間療養に専念してもらい、それでも治癒しない場合は自然退職という手順を踏むことができます。
新たに私傷病による休職制度を構築する場合、または制度の見直しをする場合は以下の点に留意して就業規則等に規定することをお勧めいたします。
休職期間
私傷病による休職期間は6ヶ月~1年以内としている企業が多く、状況に応じて延長できる旨を規定している場合もあります。メンタルヘルス不調者の場合は、短すぎると休職中に治癒できる可能性が低くなりますので、少なくとも6ヶ月以上に定めておいた方が良さそうです。
復職時の取扱い
復職に際しては、復職後の労務に耐えうる状態になっているのかを慎重に確認する必要があります。特にメンタルヘルス不調者の場合、本人の主治医からの診断書だけで復職させてしまうのではなく、セカンドオピニオンとして会社の産業医、もしくは会社が指定する医師の判断も仰いだ方が安全です。また、復職後の担当業務については、休職前と同様の業務に就かせる義務はありませんので、慎重に本人と協議した方が良いでしょう。
復職できない場合の取扱い
定められた休職期間が満了しても休職事由が消滅しない場合は、自然退職となるのが一般的です。就業規則等には「休職期間の満了時に復職できない(休職事由が消滅しない)場合は、休職期間の満了をもって自然退職(自動退職)とする」と明記しておいた方が良いでしょう。ただし休職事由が、職場での人間関係トラブルが原因でメンタルヘルス不調となった場合などは、その原因を解決するまでは自然退職とするのは難しいかもしれません。
同一(類似)事由による休職
メンタルヘルス不調者の場合、復職後に再び就労不可となる事があります。このような場合、その都度新たな休職として扱ってしまうと、永遠に休職させなければならなくなってしまいます。このような事態を防ぐために、「復職後6ヶ月以内に同一または類似の事由により休職を要する場合は、休職期間は復職前の休職期間に通算する」等を規定しておくと良いでしょう。
休職制度は法律上の定めがないが故に、就業規則等に細かい取扱いまでしっかり規定しておく必要があるのです。