第44回 裁量労働制の改正1

2023年9月6日

 前回まで数回にわたり変形労働時間制(1か月単位の変形労働時間制1年単位の変形労働時間制フレックスタイム制)について解説してまいりましたが、1週間単位の変形労働時間制につきましては、実際に採用している企業が少ないことから、詳細説明を割愛させていただきます。

 今回と次回は、来年(令和6年4月1日)に省令および告示の改正が行われる裁量労働制について、ポイントを絞って解説いたします。まず今回は、現行の裁量労働制の概要について、次回は、改正内容や、変形労働時間制や事業場外みなし労働時間制等と混同される場合も多々ありますので、その違いや類似点についても解説いたします。

裁量労働制の概要

 裁量労働制は、実際に働いた時間を労働時間とするのではなく、あらかじめ会社と労働者で定めた労働時間を働いたものとみなす制度です。つまり勤務時間に制限がなく、労働者の裁量で労働時間を管理できます。例えば、あらかじめ1日の労働時間を「8時間」と定めた場合、実際の労働時間が6時間であっても10時間であっても「8時間」働いたものとみなされることになり、1日の法定労働時間である8時間を超えて働いても、直ちに時間外手当が支払われるものではありません。そのため、すべての業務・職種に適用できる制度ではなく、「業務の遂行の手段や方法、時間配分等を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要がある業務」が前提となっており、業務が限定されています。

裁量労働制の適用業種

 裁量労働制は「専門業務型裁量労働制」と「企画業務型裁量労働制」の2種類あり、それぞれ適用するための要件が違います。このいずれかに該当しない業種は、労働者に裁量をゆだねる必要がある業種と考えられたとしても、適用することは認められません。

●専門業務型裁量労働制

図表1 専門業務型裁量労働制の適用業種

  1. 新商品、新技術の研究開発
  2. 情報処理システムの分析・設計
  3. 記事の取材・編集の業務
  4. デザインの考察
  5. 放送番組、映画等のプロデューサー、ディレクター
  6. コピーライター
  7. システムコンサルタント
  8. インテリアコーディネーター
  9. ゲーム用ソフトエア開発
  10. 証券アナリスト
  1. 金融商品開発新商品、新技術の研究開発
  2. 大学教授
  3. 公認会計士
  4. 弁護士
  5. 建築士(一級建築士・二級建築士・木造建築士)
  6. 不動産鑑定士
  7. 弁理士
  8. 税理士
  9. 中小企業診断士
  10. ※銀行又は証券会社にて、顧客に対し合併、買収等に関する考案及び助言をする業務

 専門業務型裁量労働制を導入するためには、原則として次の①から⑦の項目(図表2参照)を労使協定に定めて、厚生労働省の所定の様式(様式第13号)に必要事項を記入したうえで所轄労働基準監督署に届け出なければなりません。

図表2 専門業務型裁量労働制の労使協定

  1. 制度の対象とする業務
  2. 対象となる業務遂行の手段や方法、時間配分等に関し労働者に具体的な指示をしないこと
  3. 労働時間としてみなす時間
  4. 対象となる労働者の労働時間の状況に応じて実施する健康・福祉を確保するための措置の具体的内容
  5. 対象となる労働者からの苦情の処理のため実施する措置の具体的内容
  6. 協定の有効期間(3年以内とすることが望ましい)
  7. ④および⑤に関し労働者ごとに講じた措置の記録を協定の有効期間及びその期間及びその期間満了後3年間保存すること

●企画業務型裁量労働制

 企画業務型裁量労働制は、事業運営上の重要な決定が行われる企業の本社などにおいて、企画、立案、調査および分析を行う労働者が対象となります。ここでいう「本社などにおいて」というのは、本社・本店、支社・支店など、複数の事業場があるような企業において、どの事業場でもよいわけではなく、本社・本店以外では、事業の運営に大きな影響を及ぼす事業計画や営業計画の決定を行っている支社・支店である必要があります。本社等から具体的な指示を受けて、個別の営業活動のみを行っている事業場は、企画業務型裁量労働制を導入することはできません。
 企画業務型裁量労働制は、次の手順(図表3参照)で導入しなければなりません。

図表3 企画業務型裁量労働制の導入手順

  1. 対象業務が存在する事業場かどうかを確認します。
  2. 労使委員会を組織します。
    ①準備について労使で話し合う
    ②労使委員会の委員を選ぶ
    ③労使委員会の運営のルールを定める
  3. 企画業務型裁量労働制の実施のために、必要事項(図表4)を労使委員会で決議します。
    決議後、速やかに所轄労働基準監督署に届け出する。
  4. 対象となる労働者の同意を得ます。
  5. 3の決議に従い企画業務型裁量労働制を実施します。(3の決議から6か月以内ごとに1回、所轄労働基準監督署への定期報告が必要)
  • 決議の有効期限は3年以内が望ましい

 企画業務型裁量労働制の労使委員会では、次の8つの事項について、委員の5分の4以上の多数による決議が必要となります。

図表4 企画業務型裁量労働制の労使委員会での決議内容

  1. 対象となる業務の具体的な範囲
  2. 対象労働者の具体的な範囲
  3. 労働したものとみなす時間(みなし労働時間)
  4. 対象となる労働者の労働時間の状況に応じて実施する健康・福祉を確保するための措置の具体的内容
  5. 対象となる労働者からの苦情の処理のため実施する措置の具体的内容
  6. 本制度の適用について労働者本人の同意を得なければならないこと及び不同意の労働者に対し不利益取り扱いをしてはならないこと
  7. 決議の有効期間(3年以内とすることが望ましい)
  8. 企画業務型裁量労働制の実施状況に係る記録を保存すること(決議の有効期間中及びその満了後3年間)

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