増える経費……予算段階で赤字? クローゼット整理に学ぶ、予算作成のアイデアとは?
2021年6月13日
質問
スカーフやストールを販売する専門店「リュクス369」では、次年度の予算作成にあたり経費削減の必要性に迫られています。あなたが経営者なら、どのような方法で予算を作成しますか?
パターン1
前年度の経費実績額を一切考慮せず、白紙の状態から予算を作成する。
パターン2
前年度の経費実績額を元に予算を作成し、新事業に係る経費の計上は見送る。
パターン3
前年度の経費実績額を各項目一律20%減らした上で、新事業に係る経費を計上し、予算とする。
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子育て世代にも人気! スカーフやストールの新しい魅力を伝える専門店
国内外のスカーフやストールを販売する専門店「リュクス369」。洗練されたスカーフやストールをそろえる既存店舗の売上が堅調の上、最近では、子育て世代の女性をターゲットにしたオンライン・ショップ事業が急成長しています。
経理部長 | 社長、今年度は過去最高益を達成できそうです |
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社長 | オンライン・ショップでは、スカーフとキッズ向け雑貨のセットが特に好調のようね。キッズ向け雑貨にスカーフと同じ生地を利用して、子どもとリンク・コーデできるのが評判なのよ |
経理部長 | オンライン・ショップをきっかけに、既存店舗に来店されるお客様も増えているんです。それに、以前より経費を大幅に削減したので、利益は劇的に改善しましたよ |
社長 | 一時期は経費がかさんで赤字の連続だったけれど、業績が回復して本当に良かったわ |
現在は順調に利益を計上している「リュクス369」ですが、3年前は業績が低迷し、既存店舗の存続も危うい状況でした。
3年前 ~増える一方の経費…… 予算段階ですでに赤字?
3年前の「リュクス369」は、経費がかさみ、慢性的な赤字に陥っていました。先代社長から「リュクス369」を引き継いだばかりの社長は、この数日、次年度の予算作成に頭を悩ませています。
経理部長 | 社長、先日の予算会議の内容を踏まえて、次年度の予算を作成しました |
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社長 | ありがとう。……予算段階ですでに赤字なの? 困ったわね |
経理部長 | これまでの経費実績額を基準に、調整を行って予算を作成したんですが…… |
社長 | どの経費も毎年少しずつ増えていく一方ね。雪だるま式に、いつのまにかずいぶん経費がかさんでしまったわ |
経理部長 | 次年度の予算には、既存店舗に関する経費の他に、新事業に係る経費も織り込んでいるので、さらに経費が増えているんですよ |
社長 | 経費をもっと削減しないと。今夜は用事があるから、明日また考えるわ |
質問
スカーフやストールを販売する専門店「リュクス369」では、次年度の予算作成にあたり経費削減の必要性に迫られています。あなたが経営者なら、どのような方法で予算を作成しますか?
▼あなたの思うパターンをクリック▼
パターン1
前年度の経費実績額を一切考慮せず、白紙の状態から予算を作成する。
パターン2
前年度の経費実績額を元に予算を作成し、新事業に係る経費の計上は見送る。
パターン3
前年度の経費実績額を各項目一律20%減らした上で、新事業に係る経費を計上し、予算とする。
実は「リュクス369」の社長が選択したのはパターン1でした。前年度の経費実績額を一切考慮せず、白紙の状態から予算を作成することにしたのです。「前年度実績を基準とする」ことが、経費を削減できない要因の一つになっていたからです。
確かに新事業の計画について見直しを行う必要がある場合もあり、その点には留意が必要です。ただし、新事業に係る経費の計上を見送ると、タイムリーなビジネスチャンスを逃してしまう可能性があります。企業が環境の変化に対応して存続していくためには、既存事業だけでなく新事業に取り組んでいくことも求められます。
これまでの実績額を見直していこうとする取り組みは大切です。ただし、経費の中には、事業運営や法令遵守のために最低限必要な経費など、短期的に削減することが難しい性質の項目も含まれています。これを考慮せずに、前年度の経費実績額を各項目一律20%減らして予算としてしまうと、達成不可能な予算項目が生じるおそれがあります。
整理は大胆にゼロ・ベースで考えるとうまくいく!
社長 | (ピーンポーン)こんばんは! 呼び出すなんて珍しいわね |
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妹 | 姉さん、忙しいのにありがとう |
社長 | いいわよ、最近仕事ばかりで気分転換したかったし。手伝ってほしいことって何? |
妹 | クローゼットを一緒に整理してほしいのよ。最近、似合わない服が増えた気がして |
社長 | 年齢とともに似合う服は変わるものよ。私も若い頃着ていた服は思い切って処分してクローゼットを整理したわ |
妹 | その整理がうまくいかないの。クローゼットから出した服が似合わなくても、部屋着には使えるかも、と思ったりして |
社長 | それじゃ自分に似合う服だけがすっきり並ぶクローゼットは程遠いわ。いったんクローゼットから服を全部出すのがコツよ |
妹 | 全部出すの? |
社長 | それで、自分に似合う服だけを厳選してクローゼットに戻すのよ |
妹 | 現状のクローゼットを基準に、そこから似合わない服を減らすんじゃなくて、いったん白紙の状態で考えるってことか。時間がかかりそうね |
社長 | 時間はかかるけど、ゼロ・ベースで考えると、要らない服を大胆に整理できるのよ |
このとき社長は大事なことに気付いたのです。
社長 | そっか、『ゼロ・ベース』で! あっ、ごめん。私、会社に戻るわ! |
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妹 | ええっ!? |
これをきっかけに社長は、それまでリュクス369でとってきた“前年度実績を基準として予算を作成する”という考え方そのものを見直すことにしました。
予算作成の具体的な方法は会社によって様々ですが、前年度の実績や予算を基礎とし、必要な調整を行って予算を作成することが多いようです(=「増分予算」)。前年度の実績や予算をベースとして予算を作成するため、安定した企業環境において既存事業を順調に継続していく場合に適した方法です。また、予算作成の手間や時間も少なくて済みます。ただし、たいていは前年度における経費の実績額に「上乗せ」をして次年度の予算額とするので、経費の予算額が年々増加しがちです。また、過去の実績を既得権として認める雰囲気が生まれるため、これまで認められてきた予算を大幅に削減することや、予算項目の抜本的な見直しをすることが行いにくいことがあります。状況によっては、本当に必要がなくても予算を使い切ろうとする慣行や、能率の悪化につながるおそれもあります。
これに対し、過去の実績や予算を一切認めず、白紙の状態から予算を作成するアプローチがあります(=「ゼロ・ベース予算」、ZBB:Zero Based Budgeting)。ゼロ・ベース予算では、白紙の状態から、真に必要な予算額を算定し、各予算の優先順位付けを行った上で、許容できる予算総額の範囲内で優先順位の高いものから予算として承認します。ゼロ・ベース予算の方法を利用すると、白紙の状態から経費の必要性を再評価するので、無駄な経費を抑制したり、不要な項目を廃止したりできる一方で、必要不可欠な項目や高いベネフィットを生み出す項目に優先的に予算を割り当てることができ、限られた予算総額を効率的に活用することにつながります。
社長 | これまで行っていた広告宣伝や販売促進の方針を抜本的に見直して、従来計上していた経費のうち、優先順位の低いものは大胆にカットしましょう |
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経理部長 | 社内で行っていた間接業務についても、アウトソーシングして経費削減できないか、早急に見積りを取ってみます |
社長 | オンライン・ショップに関する新事業については、システム導入や新商品開発に必要な予算を確保します。限られた予算を有効に使って、巻き返しを図るわ! |
ゼロ・ベース予算は、とりわけ、広告宣伝費や研究開発費などのマネジド・コスト(自由裁量固定費:経営者が政策的に支出額を決定する性質のコスト)の管理に適用すると、効果的なことがあります。また、企業環境が目まぐるしく変化する昨今の情勢を踏まえると、過去の実績をベースとしない発想が適しているシーンも多いと言えます。
ただし、クローゼットからすべての服を出してゼロ・ベースで整理するのには時間がかかるのと同様に、ゼロ・ベース予算の方法を実行するには、予算額の算定や優先順位付けにかなりの時間や手間がかかります。こうした点に留意して、自社に合った形でのゼロ・ベース予算の活用を検討してみましょう。
「ゼロ・ベース予算」
過去の実績や予算を一切認めず、白紙の状態から作成する予算のことで、経費の抜本的な削減や合理化に役立ちます。ただし、予算作成に時間や手間がかかる点に留意が必要です。
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