SDGsを会計で後押し! 廃棄物とコストの削減の二兎を追って二兎を得る方法とは?

2021年12月13日

小売業

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2021/06/23

質問

カメラのレンズを製造する「ミロク工業」は、環境に配慮した経営を実現するため、廃棄物の削減に取り組んでいます。また、競争環境の激化に伴って、コスト削減の必要性も高まっており、廃棄物の削減とコストの削減を同時に実現しなければなりません。あなたが経営者なら次のうちどの方法を選びますか?

パターン1

まずは廃棄物の削減目標を従業員に提示する。

パターン2

まずはコストの削減目標を従業員に提示する。

パターン3

まずは廃棄物にかかっているコストを明確にする。

この質問をイメージして以下のストーリーをお読みください。
カメラレンズ
フルーツ

廃棄物の削減とコスト削減は両立できる

カメラのレンズを製造する「ミロク工業」では、レンズの製造過程で多くの削り屑や廃棄物などが発生することから、廃棄物の削減が大きな課題となっています。しかし、競争環境の激化を背景にコスト削減の必要性が高まっていたこともあり、社内での議論はいかにしてコストを削減するかに終始し、廃棄物の削減に対する取り組みは遅々として進みませんでした。

ESG(Environment, Social, Governance)、SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)に対して多くの企業が取り組む中で、わが社も負けてはいられない。そう考えたミロク工業の社長は、廃棄物の削減とコスト削減を両立する方法として、ある方法を実践し始めました。その結果、社員はコスト削減のために廃棄物を削減しようと努力し始めたのです。結果的に、ミロク工業は廃棄物の削減とコスト削減を同時に実現することに成功しました。社長は一体どんなトリックを使ったのでしょうか。

半年前 ~ある日の経営会議にて 

社長 わが社の経営環境が厳しくなっていることは皆も承知していることだろう。グローバル化の波は我々の業界にも押し寄せてきている。競争力を維持していくためには、さらなるコスト削減に取り組まなければならない
販売部長 確かに、競争力の維持のためにコスト削減は重要です。その一方で、一定の環境基準をクリアした製品しか購入しないという顧客も増えています。コスト削減だけでなく、わが社も積極的に廃棄物の削減に取り組まなければなりません
社長 環境に配慮した経営ができなければ、顧客を失ってしまうことにもなりかねないのか……。コスト削減だけでなく、廃棄物の削減にも積極的に取り組まなければならないな。製造部長、やってくれるか?
製造部長 我々製造部の仕事は品質の良いものを効率的に作ることです。製造部門の従業員達は、コスト削減のために製造プロセスの改善に必死で取り組んでいます。さらに廃棄物の削減についても考えろというのは酷ではないでしょうか
社長 確かに製造部長の言うとおりだ。廃棄物を削減しつつ、コストも削減しろというのは厳しい。しかし、これを実現しなければわが社の未来はない。何か良い方法はないものだろうか……


厳しい競争に打ち勝つためには、二兎を追って二兎を得るしかありません。一体どうしたら良いのでしょうか。

質問

カメラのレンズを製造する「ミロク工業」は、環境に配慮した経営を実現するため、廃棄物の削減に取り組んでいます。また、競争環境の激化に伴って、コスト削減の必要性も高まっており、廃棄物の削減とコストの削減を同時に実現しなければなりません。あなたが経営者なら次のうちどの方法をとりますか?

▼あなたの思うパターンをクリック▼

パターン1

まずは廃棄物の削減目標を従業員に提示する。

パターン2

まずはコストの削減目標を従業員に提示する。

パターン3

まずは廃棄物にかかっているコストを明確にする。

廃棄物を削減するためには、具体的な削減目標を掲げることは重要でしょう。しかし、廃棄物の削減の方に目が行き過ぎてやみくもに廃棄物を削減しようとすると、いたずらにコストを増やすことになりかねず、ミロク工業のコスト競争力は失われてしまいます。

企業である以上、利益を生み出さなければ存続していくことはできません。しかし、世界的に環境意識が高まる中で廃棄物を放置していては、ミロク工業は社会的信頼を失ってしまうかもしれません。

ミロク工業の社長は、廃棄物も削減しつつ、コストも削減できる方法はないか模索し、パターン3を実践することにしました。廃棄物の削減とコストの削減を同時に実現することは不可能ではなかったのです。どういうことかと言うと……

帰宅後の社長宅にて

その日、社長が帰宅したときのことです。

社長 ただいま~
あら、お帰りなさい! 今日お友達のAさんから高価なフルーツの詰め合わせをいただいたの。ほら、これ見て。見た目もすごく豪華なの!
社長 これはすごいな~。金箔の包装紙に、桐箱まで!!
そうなのよ。梱包だけで、ものすごく高そうなの。包装紙も桐箱も勿体ないから捨てずにとって置こうかしら
社長 とって置いても何かに使えるかな……
使い道ないわね。やっぱり捨てましょ。包装紙にも桐箱にも結構お金かかってそうだから、勿体ない気もするけど……
社長 確かに、それなりのコストがかかっていそうだな。どんなものだって、ものを作るには材料費だって人件費だってかかるからな。ん、待てよ! 捨てられてしまうものにもコストはかかっているのか!

廃棄物にもコストはかかっている

廃棄物は製造の過程で必然的に発生してしまうという認識から、廃棄物を生み出すためにかけた製造コストを計算することはしてきませんでした。しかし、ガラスの削り屑や割れたガラスなどの廃棄物にも、材料費や研磨剤、さらに加工を行う作業員の人件費などがかかってしまうのです。逆に言えば、廃棄物にかかっているコストを削減することで、廃棄物自体の削減を行うことができるのです。そこで、社長は経理部に依頼をし、廃棄物にかかっている製造コストを計算してもらうことにしました。

社長 経理部長、以前お願いした廃棄物にかかっているコストの計算結果を報告してくれ
経理部長 製造部長とともに製造プロセスのフローチャートを作成し、各製造プロセスで廃棄物にかけられているコストを集計してみました。その結果、驚くほどの金額が廃棄物にかけられていることが明らかになりました
社長 一体、どのような結果だったのかね
経理部長 最終的に廃棄されるものは、ガラスの削り屑や、割れてしまったガラスなどの原材料だけでなく、研磨剤や加工に用いた油などの廃液、廃油などもあります。さらに、加工の際には、電力、水などの資源も投入することになりますし、廃棄物の処理にもコストがかかります
社長 うん、確かになぁ……
経理部長 結果として、投入した資源のうち、なんと約30%が廃棄物に投じられていることが判明しました
製造部長 また、製造プロセスのうち、特にガラスの不要部分を削り落とす工程で、大量の廃棄物と多額のコストがかかっているようです。このプロセスを改善すれば、コストも廃棄物も同時に削減ができそうです
社長 素晴らしい! コストも削減できて廃棄物も減らせるのか! よし早速取りかかろう

製造部門は経理部門と協力をして、廃棄物にかけられているコストを計算し、従業員に示すことにしました。その際には、“マテリアルフローコスト会計”という手法が役に立ちました。その結果、廃棄物のどこにどれだけコストがかかっているのかが分かり、多くのコストがかかっている部分に優先的に手を付けることができました。コスト削減に取り組むことが、廃棄物の削減に直結することになったのです。そして、無駄なコストをかけないように使用材料や加工プロセスが見直され、ミロク工業は廃棄物の削減とコストの削減の二兎を得ることができたのです。

ワンポイント解説

「マテリアルフローコスト会計」(material flow cost accounting)

通常の原価計算においては、廃棄物は完成品を作るために不可避的に発生するものとみなされ、廃棄物そのものにかかったコストを計算することはしません。しかし、廃棄物にも材料費、加工費、廃棄物処理費がかかることに注目し、コストと廃棄物の削減を同時に実現しようとする、環境に配慮した管理会計手法がマテリアルフローコスト会計です。

マテリアルフローコスト会計は、経済産業省主導のもと、100社を超える企業へと導入され、環境マネジメントの国際規格認証を受けています(ISO14051, ISO14052)。詳細は、経済産業省(2009)「マテリアルフローコスト会計手法の導入ガイド」をご参照ください。
経済産業省(2009)「マテリアルフローコスト会計手法の導入ガイド」

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