収益認識会計基準の導入は他人事? ある出版社が見落としていた大きな影響とは?
2022年2月3日
質問
2021年4月から導入の収益認識会計基準。「みろく出版社」は適用対象企業には当たらないのですが、社長は何か準備が必要ないか心配しています。あなたが経理部長なら社長に何を提言しますか?
パターン1
収益認識会計基準の適用対象ではないので、特段の対応は必要ないこと。
パターン2
法人税法が改正されて資金繰りに悪影響がありそうなので、資金手当てを行うこと。
パターン3
従来の販売形態が認められなくなりそうなので、書店との契約の変更を行うこと。
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2021年4月 ~新しい収益認識会計基準の適用開始
2021年4月1日、「みろく出版社」は今日が新年度の開始日です。上場企業や(会社法上の)大会社等では、ついに企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」(収益認識会計基準)の適用が始まりました。みろく出版社は上場企業でも大会社等でもなく、この会計基準の適用対象ではありませんが、基準変更の影響にうまく対応できたこともあってか、社内は特にいつもと変わった様子はありません。
しかし、経理部長はふと、半年前の出来事を思い出していました。
半年前 ~うちには関係ないはず……
みろく出版社は、社会全体の文化水準の向上に資することで、多くの人の人生が豊かになることを目指して、芸術に関する書籍を中心に、長期にわたって販売されうる良書を出版することを心がけてきました。一方、雑誌などのように極めて短期のうちに有効な販売期間が終わってしまう出版物には手を出さないようにしています。
同社が出版した書籍の販売は書店を通じて行っており、長期にわたって書店に置かれる書籍も少なくありません。これまで一定程度、書店からの返品があり、返品された書籍は他の書店にて販売されるよう努力もしてきました。
書店からみろく出版社への返品が生じた場合は、みろく出版社が書店に販売した価格にて買い取る取り決めになっています。
この頃、既に収益認識会計基準が公表されており、上場会社等には、2021年4月以降、強制適用されることとなっていました。みろく出版社は、いわゆる中小企業に属する会社で、収益認識会計基準の強制適用会社には該当しません。一方、この会計基準に合わせて、法人税法などの改正も行われています。
出版業等の場合は、出版社が書店に販売する書籍について、書店側で売れなかった場合には、販売価格で買い戻す特約を締結しているケースが多くあります。そこで、当期に販売した書籍について翌期以降に返品が見込まれる割合を見積って、その利益部分を返品調整引当金として計上することで、課税のタイミングを繰り延べることができていました。しかし、今後は法人税法上、返品調整引当金の繰入限度が10年間で10分の1ずつ縮小され、10年後には繰り入れが認められなくなることになっています。
ある日のこと、経理部長が仕事をしていると、そこに社長がやってきました。
社長 | 経理部長、ちょっと教えてくれるかい。さっき経営者仲間から言われたんだ。「もうすぐ収益認識会計基準が適用されるが、準備は済んでるか?」って |
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経理部長 | ??? |
社長 | うちは何も準備しないでいて大丈夫なのか、ちょっと心配になってしまってね |
そのとき経理部長は思いました。
経理部長の心の声 | <この会計基準を適用しなければならないのは、上場企業や会社法上の大会社なんかで、うちは適用対象じゃないはずだよなぁ……> |
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質問
2021年4月から導入の収益認識会計基準。「みろく出版社」は適用対象企業には当たらないのですが、社長は何か準備が必要ないか心配しています。あなたが経理部長なら社長に何を提言しますか?
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パターン1
収益認識会計基準の適用対象ではないので、特段の対応は必要ないこと。
パターン2
法人税法が改正されて資金繰りに悪影響がありそうなので、資金手当てを行うこと。
パターン3
従来の販売形態が認められなくなりそうなので、書店との契約の変更を行うこと。
収益認識会計基準の適用対象でなければ、特段の対応が必要とならないこともあるでしょう。しかし、今回は適用対象でないみろく出版社にも大きな影響がありそうです。
みろく出版社の経理部長が社長に提言したのはパターン2でした。なぜ資金繰りに悪影響があるのでしょうか?
返品に関する会計や法人税法の取扱い変更により、返品にかかる処理の変更が生じるため、販売形態の変更について検討することも生じるかもしれません。しかし、みろく出版社が従来行っている「再販制度に基づく書店への販売」という販売形態が認められなくなるわけではありません。
図解してみたら、影響が見えてきた!
数日後のことです。
経理部長 | 社長、法人税法改正で税金納付が増えてしまい、資金繰りが大変です! |
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社長 | 一体どういうことなんだ? |
経理部長 | うちは収益認識会計基準の適用対象ではないのですが、この会計基準導入に伴って、法人税法が改正されました。そのため、従来計上していた返品調整引当金が段階的に廃止されることになったんです |
社長 | ん?? |
経理部長 | ちょっと分かりづらいので図で説明します |
経理部長が示したのは次の図でした。
【図】返品権付き販売にかかる会計・税務の影響
(注)ここでは、現金販売が行われた場合で示しています。
経理部長 | 従来ですと、一旦書店に販売した際に「a+b+c+d」の売上を計上しています。そのときの利益は「b+d」ですが、このうち将来返品されると見込まれる分の利益「d」については、販売時点では課税されずに済んでいたんです |
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社長 | うん |
経理部長 | ところが、今回の法人税法改正で、「d」の部分も販売時に一旦課税されてしまうことになったんです。もちろん実際に返品された時点では税額が減額されるのですが…… |
社長 | なるほど。それで課税のタイミングが早まることになるってわけか |
経理部長 | そうなんです。うちの場合「d」の部分は相当程度インパクトのある金額になりますから、資金繰りへの悪影響が懸念されます。ですから、至急、具体的にシミュレーションしてみることにします |
こうしてみろく出版社では、会計基準の適用対象でなくても、会計基準変更に伴う税務への影響を受け、さらには資金繰りへの悪影響の可能性があることをつかみ、資金繰りが厳しくなる前に対処することができたのでした。
「会計基準変更に伴う税務への影響」
企業会計基準委員会等から公表されている各種の会計基準は、中小企業が適用対象とならないものも少なくありません。しかし、税務にも影響が及ぶことは少なからずあり、本記事にもあったように資金繰りなどまで影響を受けることも十分に考えられますので、注意しましょう。セミナー情報
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