売上高不振に悩む地方都市の老舗百貨店が選んだ窮余の一策とは?
2022年3月23日
質問
ある地方都市の老舗「百貨店ミロク」は、来店客数の減少に伴う売上高の不振に悩んでいます。あなたが経営者なら、次のうちどのような戦略を選びますか?
パターン1
百貨店を閉店し、跡地を再開発し、不動産事業に進出する。
パターン2
百貨店の店舗面積の1/3を、大手ディスカウント会社の売り場に賃貸する。
パターン3
百貨店のフロアの一部を、「商品を売らない売り場」に切り替える。
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百貨店の店内の空気が明るくなってきました!
最近の「百貨店ミロク」は、以前のような店内の寂しい雰囲気から脱したようです。来店するお客様の客層にも幾分変化が見られます。それまでは中高年のお客様が中心でしたが、この頃は、若者やカップル、ファミリーのお客様も目立ってくるようになりました。そのためでしょうか、なんとなく店内の空気が、明るさと賑わいを取り戻してきたようです。
半年前 ~郊外の大型商業施設やネット通販に顧客を取られ、売上高が大幅低下
百貨店ミロクは、地場の老舗百貨店として地元のお客様に、長年にわたり愛されてきました。しかし、郊外に進出してきた大型商業施設にじわじわと顧客をとられ、また最近のネット通販の普及に伴い、繁華街の百貨店や地元商店街の地盤沈下に拍車がかかっています。百貨店経営の先行きには、さらに不透明さが増してきています。百貨店ミロクは、店舗の今後のあり方について、より一層、抜本的な改革の必要性に迫られています。
社長 | 地場の百貨店業は、今後、ますます厳しい環境にさらされていくな |
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専務 | 本当にそうですね。首都圏の大手デパートでさえも、経営が相当厳しいと報道されていますね |
社長 | わが社も創業以来、長い間、地元のお客様にご愛顧をいただいてきた。その自負は依然として持っているけれども、そろそろ、その役割を終える時期に来たのかな…… |
専務 | 何かダイナミックな発想転換の道が考えられるといいですねー |
質問
ある地方都市の老舗「百貨店ミロク」は、来店客数の減少に伴う売上高の不振に悩んでいます。あなたが経営者なら、次のうちどのような戦略を選びますか?
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パターン1
百貨店を閉店し、跡地を再開発し、不動産事業に進出する。
パターン2
百貨店の店舗面積の1/3を、大手ディスカウント会社の売り場に賃貸する。
パターン3
百貨店のフロアの一部を、「商品を売らない売り場」に切り替える。
長年にわたり地元で愛されてきた百貨店を閉店することは、断腸の決断です。しかし、何か生き残りのための戦略を発想してみたいですね。
最近、駅前の百貨店を訪れてみると、従来の売り場の大きなスペースに大手ディスカウントストアが出店していて驚きます。時代の流れや変化を感じさせます。しかし、これでは「ひさしを貸して母屋をとられる」ことになりかねません。同社がとった道は、別の戦略でした。
百貨店ミロクが選んだ戦略は、パターン3でした。その理由はどこにあるのでしょうか。
インターネットの情報からヒントを得た!
社長は、インターネットの情報検索が好きで、いつも業界や世の中の先見的な動きに興味深く注意を払っています。その日常生活の中で、最近、大きなショックを感じた動きが目にとまりました。大手の百貨店グループが「商品を売らない売り場」を新規に設定したというニュースでした。
近年のインターネット通販の進展は目覚ましいものがあります。リアルでの売上高をネット売上高がしのぐほどの規模となってきているようです。
社長 | ネットとリアルを百貨店の売り場で結びつける試みってことか |
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ある大手百貨店グループで試みた新機軸の売り場設定の概要は次のとおりでした。
①百貨店の一部のフロアに、ネット通販に特化した新興ブランド企業のための「商品を売らない売り場」を設定する。
②既存の有名ブランドではなく、インターネットやSNSで注目され人気となっている日本初上陸や本邦初出店など新興のアパレルや雑貨、化粧品等といった、サステナブル(持続可能)や地域貢献にこだわったストーリー性のあるブランド20ほどを誘致している。
③売り場には、各ブランドの販売員はいない。アンバサダーと呼ばれる当デパートの社員が、各ブランドから商品知識や作り手の思いを勉強し、実際に商品を使ってみたりして来店者に伝えていく。作り手の一方的な説明ではなく、接客技術に優れたデパートのスタッフが商品を説明することで、第三者として客観的に魅力を伝える試みをしている。
④売り場には販売対象の商品在庫は置かず、各ブランドのショールーム(ショールーミング)と位置づけている。商品を購入しようと考える顧客は、各ブランドのQRコードを読み取り、インターネットで注文する方式を採用している。
百貨店ミロクの社長は、この情報に強いヒントを受け、早速、経営幹部に指示を出しました。
社長 | これらも踏まえて、新事業計画案を作成してみようじゃないか |
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その結果、店舗のフロアの一部を「商品を売らない売り場」に切り替える決断をしました。インターネットやSNSで注目されている新興ブランドや有望なスタートアップ企業を選び、ショールームに誘致しました。百貨店のホームページに新規テーマを公表し、出店希望ブランドの募集も積極的に実行しました。季節ごとに魅力的かつニーズが高いテーマを取り上げ、ブランドの定期的な入れ替えも試みました。各ブランドに対する商品知識を徹底するため、販売員スタッフの教育にも積極的に取り組みました。おかげで百貨店従業員のやる気や熱意も予想以上に高まる影響も生まれました。
D2Cビジネスの課題解決にも貢献する「商品を売らない売り場」
近年は、D2C(ダイレクト・トゥー・コンシューマー)と呼ばれる、実店舗を持たず、ネット通販に特化した新興ブランドのビジネスが急速に発展しています。しかし、それらのネットブランドにも大きな課題があります。商品購入前にリアルに手に取って確認することができない、商品に関する具体的な説明を直接聞けないという問題点です。
これらの課題を解決し、ネットとリアルを融合する役割を百貨店が担うというアイデアです。この販売戦略は、双方にとってWin-Winの関係が成立します。
D2Cのブランド企業にとっても、老舗百貨店でのリアルな体験により、自社ブランド商品に対する認知度や信頼度を高めることができ、販売拡大のチャンスが期待される絶好の機会を得ることとなります。
百貨店側にとっても、従来の単なる売り場貸テナントではなく、自店の販売員の商品知識を高め、販売の機会に直接携わることにより、固定的な出店料に加えて、各ブランド品の売上高の一定割合を販売手数料として受け取ることができます。また、あくまでショールームなので、すべての商品を売り場や在庫として常時備えておく必要性がなく、売り場面積当たりの売上効率もぐっと向上するメリットがあります。
コロナ禍での、巣ごもり生活や外出自粛などの影響を受け、百貨店業界は業績へのマイナスの影響が続いています。しかし、たとえコロナ禍が発生していなくても、長年、小売業界の激しい競争にさらされ、百貨店業界には逆風が吹き続き、継続的な市場の縮小にさらされています。大手百貨店グループでは、近年、店舗で商品を売ることを目的とせず、サービスや体験を提供する、モノを売らない店づくりを模索しています。ある百貨店グループでは、将来は、「商品を売らない売り場」を全店の30%程度まで拡張する計画を公表しています。このような傾向は米国で進んでいるとされ、日本でもモノを売らない店が広がっていくか注目されます。
「商品を売らない売り場」―ネットとリアルを融合する―
商品を売らない売り場とは、その場で商品を販売するのではなく、ショールームのような位置付けの売り場のことを言います。この売り場は、商品やサービスを実際に体験してもらったり、商品・サービスの具体的な説明をしたり、相談に乗ったりすることが目的であり、実際の販売は別途ネット(ECサイト)などを通じて行います。
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