固定費削減に限界あり!? 客足遠のく旅館がとった、キャパを活かす採算改善策とは?
2022年6月23日
質問
関東地方で創業100年近くの「温泉旅館みろく」は、感染症が拡大してから、平日の客室稼働率が急降下したまま、月間平均で20%となっています。あなたが経営者なら次のうちどの行動をとりますか?
パターン1
低価格路線をとり、宿泊料金を半額にする。
パターン2
広告宣伝費など販売促進関連の費用を増額し、宿泊料金はそのままにする。
パターン3
当面、宿泊は週末2泊だけとし、平日は日中だけの営業にする。
この質問をイメージして以下のストーリーをお読みください。
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利用客数が上向いた旅館
新型コロナ感染症の影響で利用客数が大きく落ち込んでいた「温泉旅館みろく」ですが、最近は利用客増加のための施策の効果が徐々に現れてきているようです。
しかし、しばらく前は大きく落ち込んだ利用客数に、どう対応したら良いのか悩んでいました。
しばらく前 ~予約でいっぱいだった旅館が……
地域の温泉街で最古の老舗「温泉旅館みろく」は、創業以来100年を超えて営業しています。客室は25室と小規模ですが、客室稼働率は月間平均で90%と高く、売上も営業利益も安定していました。
ところがしばらく前、新型コロナ感染症が拡大してから客室稼働率が急降下し、その後も平日は平均稼働率が20%となっています。そんな状況の中、社長と女将が今後の営業方針について相談しています。
社長 | いつになったらお客様が戻ってこられるのか……。どうしようかな |
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女将 | 客室稼働率がかなり下がったままよね |
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社長 | うん。週末の金曜日と土曜日はある程度ご予約をいただけてるけど、平日がなかなか厳しいな |
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女将 | そうよね……。そこを何とか考えないとね |
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温泉旅館みろくでは、正社員とアルバイトが半々くらい勤務しています。平日の稼働率が低くて宿泊客がわずかであっても、夕飯の支度や宿泊対応で従業員のシフトは長時間確保することになるため、正社員はどうしても残業ベースでの勤務となります。このため、人件費等の負担が重くかかっています。少しでも採算改善につながる方法はないものでしょうか?
質問
関東地方で創業100年近くの「温泉旅館みろく」は、感染症が拡大してから、平日の客室稼働率が急降下したまま、月間平均で20%となっています。あなたが経営者なら次のうちどの行動をとりますか?
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パターン1
低価格路線をとり、宿泊料金を半額にする。
パターン2
広告宣伝費など販売促進関連の費用を増額し、宿泊料金はそのままにする。
パターン3
当面、宿泊は週末2泊だけとし、平日は日中だけの営業にする。
客室の稼働率を上げるために低価格路線をとることは一理あります。しかし、単価を半額にすれば、客室稼働率が上がって来客数が増えることが期待されますが、来客数が倍になったとしても、売上の金額は同じですので、より一層の来客数増が期待できなければ、採算がとれないかもしれません。
お客さんを増やすために販売促進をすることも一案です。しかし、販売促進のための費用が増加する場合は、売上が伸びなければ、かえって、赤字を増やすことになりかねません。感染症の影響で宿泊客数の劇的な増加が期待しづらい状況では難しいかもしれません。
温泉旅館みろくの社長が選択したのはパターン3でした。宿泊についてはある程度の客数が見込める週末の2泊だけの営業にし、平日はテレワーク等での比較的近隣の利用客をターゲットとして日中のみ営業することにしたのです。
ターニングポイントは、営業しない場合にも生じる費用負担を知ったことだった
社長と女将が休憩中にふとテレビを見ると、午後のニュース番組で、同じように感染症の拡大で経営状況が厳しい飲食店のリポートを放映していました。
社長 | ちょっと見て。ほら、この食堂、平日を休みにして金、土、日だけの営業にしているよ。うちも週末だけの営業にしようか? 営業日数を減らせば、その分だけ費用も減るはずだし |
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女将 | え! 週末だけ? それじゃ、週休4日じゃない。それでやっていけるの? 営業日数を減らしたからと言って、丸々その分の費用が減るのかしら?? |
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そこで、お世話になっている会計事務所の先生にも相談してみることにしました。その結果は社長が考えていたようには費用は減らないというものでした。
社長 | あの食堂の場合はきっとアルバイトの店員がだいぶ多いんだろうってことだった……。うちの場合は正社員も多いから、営業日数を減らしたからと言って、そうそう人件費は減らない。週休4日じゃ正社員の人件費負担をまかなえそうもないな |
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女将 | そうよね……、アルバイトが多ければ休業した分の人件費負担が軽減されるかもしれないけど、うちだと難しいわよね |
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たとえ営業はしない日であっても、設備や人など一定のキャパシティを確保しておくには費用(キャパシティ・コスト)がかかってしまいます。
会計事務所の先生に相談したところ、次のようなアドバイスを受けました。
✓固定費はキャパシティ・コストと呼ばれることもあり、コミッテッド・キャパシティ・コスト(拘束費)とマネジド・キャパシティ・コスト(随意費)に二分できること。
✓マネジド・キャパシティ・コスト(広告費、研究開発費など)は経営者の裁量で短期的に抑制することができること。
✓コミッテッド・キャパシティ・コスト(減価償却費、固定資産税、正社員人件費(残業代等を除く)など)は設備や人的資源を保有することで発生し、経営者の裁量で短期的に抑制することが難しいこと。
✓コミッテッド・キャパシティ・コストを回収できる範囲で営業しようとすると、金、土、日だけの営業では難しそうであること。
そこで考えたのが、追加コストをできるだけかけずに平日に営業することでした。宿泊客を受け入れると、どうしても従業員の労働時間が長くなって残業代が追加でかかります。
いろいろと検討した結果、平日はテレワークでの利用者をメインターゲットとした昼食・温泉付きのデイユースのプランで営業をすることにしました。
会計事務所の先生の協力のもと、データを集めて採算のシミュレーションをした結果、このプランで採算はとれそうです。
実際に初めて見ると、自宅ばかりでのテレワークに疲れ気味のビジネスパーソンが、比較的近隣からやってきて、自然の風景と温泉、そして料理を楽しむことで気分も一新して、仕事の新しいアイデアが生まれてくるなど、なかなか好評のようです
ワンポイント解説
「キャパシティ・コスト」
キャパシティ・コストは、コミッテッド・キャパシティ・コスト(拘束費)とマネジド・キャパシティ・コスト(随意費)に二分できます。
コミッテッド・キャパシティ・コストは、減価償却費、固定資産税、正社員人件費(残業代等を除く)など、設備や人的資源を保有したときに操業度の多寡にかかわらず一定額が発生する原価です。経営者は長期的な観点からその設備の保有についての意思決定を行わなくてはなりません。
マネジド・キャパシティ・コストは、広告費、研究開発費など、原価とそれによる効果との関係を把握するのが困難であるために、毎年度の額を経営者が決定する原価です。したがって、経営者の短期的な意思決定によってその額を決定することができます。
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