環境変化への対応力向上! 卸売業者が取り組んだ費用負担の見直し策とは?
2022年7月3日
質問
工業用部品の卸売業を営む「ミロク工業部品」は、コロナ禍のために得意先の製品製造活動が減退したことで、売上が大きく落ち込み、なかなか回復できていません。環境変化への対応力を向上させるために、あなたが経営者なら次のうちどの行動をとりますか?
パターン1
営業担当社員の人員削減を図り、人材派遣会社と契約する。
パターン2
営業用に所有している自動車を処分し、カーシェアリングを利用する。
パターン3
リモート営業を拡大し、事務所を漸次閉鎖していく。
この質問をイメージして以下のストーリーをお読みください。
|
|
環境変化への対応力が高まった
「ミロク工業部品」は、変化への対応力が向上したことで、環境変化で売上が大きく増減する状況にも以前よりもうまく対応できるようになっているようです。
しかし、数年前はコロナ禍での大きな環境変化への対応に苦労したのです。
数年前 ~順調だった事業拡大とコロナ禍の影響
ミロク工業部品は、工場で使用する様々な部品を取り扱っている卸売会社です。これまでネジや釘、テープ、シート、各種部品保管用のケースなどの工業用消耗品を調達・販売してきました。
営業担当社員がサンプル品を持って顧客を訪問し、対面でニーズをしっかり聞き出し、きめ細かく顧客対応を行ってきたことで顧客の評判を獲得し、順調に事業を拡大してきました。顧客ニーズを把握するための営業に力を入れており、事業拡大に応じて営業所も各地に順次配置してきました。人と営業所に強みがあることがミロク工業部品の大きな特徴です。
しかし、コロナ禍となってからは得意先の製造が減退してしまい、ミロク工業部品の売上も大きく落ち込んだままです。一方、人件費や、本社の建物や営業用車両などの減価償却費、事業所等の支払家賃などの費用(=固定費)はコロナ禍前と変わらず発生しており、重い負担となっています。何とかしなければと考えています。
質問
工業用部品の卸売業を営む「ミロク工業部品」は、コロナ禍のために得意先の製品製造活動が減退したことで、売上が大きく落ち込み、なかなか回復できていません。環境変化への対応力を向上させるために、あなたが経営者なら次のうちどの行動をとりますか?
▼あなたの思うパターンをクリック▼
パターン1
営業担当社員の人員削減を図り、人材派遣会社と契約する。
パターン2
営業用に所有している自動車を処分し、カーシェアリングを利用する。
パターン3
リモート営業を拡大し、事務所を漸次閉鎖していく。
これは、人件費を固定費から変動費に変更する方法です。確かに固定費は削減されることになり、事業規模の変動に応じて人件費を変動させることができます。ただし、ニーズを把握するための得意先との深い信頼関係が強みのミロク工業部品にとっては、営業担当社員の削減は強みを失い、売上の更なる減少につながるおそれがあります。
ミロク工業部品が選択したのはパターン2でした。これは、営業用に所有していた車両にかかる減価償却費や保険料といった固定費を、車両の支払使用料という変動費に変更する方法です。長期的に包括的な契約を締結すれば、対象期間中は固定費となりますが、短期的な契約とすることで、固定費を変動費に変更することも可能となります。
これは、対面式での営業活動を縮小して、リモートにより取扱商品等の説明などを行うようにしていくことで、各地に配置してきた営業所を廃止し、賃借料等を削減する方法です。ただし各地に営業所を持ち、得意先との対面営業というミロク工業部品の強みを失い、売上の更なる減少につながるおそれがあります。また営業担当者が自宅や別途場所を借りてリモート営業を行う場合、必要となる経費は本質的に会社の事業にかかるものであるため、別途の費用を会社が負担することも考えられます。
シェアリング・エコノミーの拡がりを受けて
社長は、会社の財務諸表を眺めながら、売上高が大幅に減少したにも関わらず、減少しない費用があることが、気にかかっていました。またコロナ禍の中で、従業員にリモート出勤を求めていることから、自らも出勤日数を減らしていたため、経済雑誌等にも目を通す時間ができて、何かいいアイデアはないものかと模索していました。
そんなある日の社長宅での夕食時のことです。
妻 | そういえば、お隣さん、車、手放したらしいわよ |
---|
社長 | お隣さんは、免許返上するほどの年齢だったっけ? |
---|
妻 | そんな年じゃないわよ。家族みんなで旅行に行きたくて車を持ってたんだって |
---|
社長 | 家族旅行はもう行かないのか? |
---|
妻 | そうじゃなくて、車自体を持ちたいわけじゃなかったってことなのよ |
---|
社長 | ??? |
---|
妻 | 車を持ってたら、実際に乗ってなくても保険料やら定期検査やら税金やらと、いろいろとかかるでしょう。だから、カーシェアリングに替えたんだって。旅行目的だったら、その方が安くつくって |
---|
社長 | そう言うことか。カーシェアリングって言うのはレンタカーとは違うんだよな |
---|
妻 | 毎月の契約料は定額でかかるらしいんだけど、あとは利用した分だけ追加で料金を払うシステムなんだって。うちも車、処分したら? |
---|
社長 | うちの車は、俺の趣味だから、勘弁してくれよ。でも、会社の営業用の車は、切り替えられるかもしれないなぁ |
---|
こうしてミロク工業部品の社長は、所有する必要があるものなのかどうかを見直してみることで、固定費を変動費に変換できそうな部分があることに気付いたのでした。社内でもいろいろと検討した結果、営業用の車自体を所有しなくても、カーシェアリングを利用することで営業の目的を十分に達成することができます。確かに営業が好調なときは所有している方が割安になりますが。営業が不調なときはカーシェアリングの方が安くつくことが分かりました。まだまだ営業が厳しい状況が続きそうであるため、順次カーシェアリングに切り替えていくことになりました。
カーシェアリングを始めて
カーシェアリングの会社から送られてくる請求書を通して、誰がどこで車を借りてどれだけの時間、利用したのかがはっきりと分かるようになりました。利用時間に応じて料金が加算されるため、営業担当もこれまで以上に計画的に得意先の訪問を行うようになってきています。またこれからは、営業担当者は、会社やその事業所よりも訪問先が自宅の近くにあるならば、自宅近くのカーシェアリングのコアパーキングから直接、得意先や新しい顧客開発に向かうことができるようにする予定です。そのことで、コロナ禍前よりも多くの工場を訪問することができるようになるはずです。
社長は、従業員の雇用を確保しつつ、今後一層、新たな経営のスタイルを取り入れていく必要性を感じています。
ワンポイント解説
「環境変化への対応」
本記事で取り上げた車両のように、所有していることで減価償却費や保険料などの固定費が多額に発生します。一方、カーシェアリングでは毎月定額の固定費部分と比べて、使用に連動して発生する変動費部分が大きくなるため、使用が少ないときには費用負担を軽くすることができます。柔軟に環境変化への対応をするためには、固定費の中で変動費に代えられるものがないかを検討してみると良いでしょう。
経営センスチェックの記事の中から、資金繰りの改善、好業績を錯覚しないためのポイントなど、テーマにそっておススメの記事を抜粋した特別版冊子を掲載しています。
最新版では、「値上げ前に考えたいコスト削減方法」について取り上げています。世界的な原油や原材料の価格高騰により、値上げが多い一方、競争戦略的に値上げをしない、または値下げに踏み切る企業もありました。
皆さまがコスト削減するにあたり、ぜひ参考にご覧ください!
X(旧Twitter)で最新情報をお届けしています
Tweets by mjs_zeikei