固定費は2つに大別! コスト削減の前に知っておくべき2種類の固定費の相違点とは?
2022年12月13日
質問
新型コロナウイルス感染拡大の影響で製品の販売が低迷し、生産量が生産能力の50%ほどになっている「MIROC製作所」。資金流出を抑えつつ採算を改善するため、どのようにコスト削減するか検討していました。あなたが経営者なら次のうちどのような判断をしますか?
パターン1
現段階で担当業務がなく待機中の、熟練したパート従業員を解雇して人件費を削減する。
パターン2
現段階で稼働していない生産設備を除却して減価償却費を削減する。
パターン3
本社オフィスをテナント料が安い建物に移転して支払家賃を削減する。
この質問をイメージして以下のストーリーをお読みください。
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固定費だって削減できる!
最近の「MIROC製作所」では、コスト削減の効果が現れて生産・販売量が減少した状況下でもなんとか採算を確保できるようになりました。
しかし1年前は、コスト削減に取り組もうとするものの、どこに手を付ければいいのか分からず悩んでいたのです。
1年前 ~コロナ禍で生産・販売量が半減。コスト削減にどう対応する?
製造業のMIROC製作所は、新型コロナウイルスの感染拡大の影響により、生産・販売量が半減していました。しばらくの間は販売量が以前の水準には戻りそうもないのですが、コロナ禍が収束した後、いずれ販売量が回復すると見込んでいます。
現状では販売価格を値上げするのは難しく、資金流出を抑えつつ採算を改善するにはコスト削減が必要です。しかし、主たる変動費である材料費を削減するとなると、材料の質にも影響が出かねないため、難しい状況です。
そこで社長は、固定費を削減できないか、営業部長・製造部長・人事部長・経理部長・総務部長と相談することにしました。以前は一同が本社に集まって行っていた会議も、最近ではオンラインで行うことが習慣化しています。本社の会議室は使われていないことが多く、リモートワークが進んだことで事務職の社員たちの仕事場にも空席が目立ちます。
社長 | ……ということで、固定費を減らすことを検討したいんだ。経理部長、うちは固定費と言うと何が大きいのかな? |
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経理部長 | そうですね。人件費と本社のテナント料。それから減価償却費です。特に工場の建物や設備の減価償却費が大きいです |
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社長 | どこから手を付けるかな…… |
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質問
新型コロナウイルス感染拡大の影響で製品の販売が低迷し、生産量が生産能力の50%ほどになっている「MIROC製作所」。資金流出を抑えつつ採算を改善するため、どのようにコスト削減するか検討していました。あなたが経営者なら次のうちどのような判断をしますか?
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パターン1
現段階で担当業務がなく待機中の、熟練したパート従業員を解雇して人件費を削減する。
パターン2
現段階で稼働していない生産設備を除却して減価償却費を削減する。
パターン3
本社オフィスをテナント料が安い建物に移転して支払家賃を削減する。
現状待機中となっている熟練パート従業員を解雇して人件費を削減すれば、資金流出を抑えつつ採算を改善できるかもしれません。しかし、生産・販売量が回復したときに労働力を確保しようと思っても、募集人員が満たされるとは限りません。また、必要な人員を確保できたとしても、業務遂行に必要なスキルを全員が身に着けるまでに、時間とコストがかかりそうです。
現段階で稼働していない生産設備を除却すると、固定資産除却損は発生しますが、減価償却費は大きく削減できます。しかし、減価償却費はお金が出ていく費用ではないので、削減しても資金流出を抑えることにはなりません。さらに、コロナ禍が収束し生産・販売量が再び増加したときには、改めて生産設備を購入しなくてはならず、そのときに多額の資金調達が必要になります。
MIROC製作所の社長が選択したのは、本社オフィスを移転することでした。リストラをせず、また、生産設備も確保した上で、お金が出ていく固定費の削減ができないかと考えた結果、この方法を選択したのです。
人件費の削減?
営業部長 | 販売関係は、コロナ禍前は人手不足でしたが、今は確かに販売量が大きく減少しています。しかし、コロナ禍が収束したら現有勢力以上の人員確保は絶対に必要です! |
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製造部長 | 製造部門としては、今は生産量が50%に減っているので、パートの人に自宅待機してもらっていますが、アフター・コロナの状況では、生産・販売量が90%を超えると思います。そうなると、正社員だけでは人員不足なので、パート・アルバイトも必要になると思います |
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社長 | う~ん、そうだよねぇ…… |
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人事部長 | 人員整理はお薦めできませんよ。いったん人員整理すると、あの会社は景気が悪いとすぐにリストラするという噂が広まって、その後の人材確保が大変なんです。もちろん、残った人たちの士気も下がってしまいますし…… |
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減価償却費の削減?
社長 | となると…… |
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製造部長 | あ! 社長、まさか生産設備を除却しようだなんて考えてませんよね!? |
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社長 | うーん、販売が激減している製品のために、現状で稼働していない生産設備があるから、それを除却すれば、今後の減価償却費を削減できると思うんだが…… |
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製造部長 | 今除却したとしても、後でまた生産設備を揃えるわけですし、製造部門のメンバーも使い慣れた機械のほうがいいです |
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経理部長 | それ以前に、減価償却費というのは費用ではあっても、お金が出ていくものではありませんので、削減したとしても資金流出は抑えられません! |
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オフィス賃借料の削減?
社長 | そうだったのか……。とすると、あとは本社のテナント料かなぁ。テナント料が安いところに、本社を引っ越すっていうのはどうだ? |
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総務部長 | え、引っ越し!? 本気ですか……。でも、オフィスの賃貸借契約がありますよ。それはどうするんです? |
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社長 | いや、引っ越すときの数カ月前に貸主に伝えればいいんじゃないの? |
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総務部長 | それはそうでしょうけど…… |
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営業部長 | でも、引っ越したりすると、営業に差し支えませんか? お得意さんとのやりとりだって…… |
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社長 | その点は大丈夫だろう。この近くのオフィスにすれば、電話番号だって変えずに済む。郵便なら転居届で転送サービスを利用できる。Web関係は特に問題ないよね? |
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総務部長 | それはそうですが……。社長、なぜそのような判断をなさったんですか? |
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社長 | それはね、固定費には大きく2つの種類があるからなんだよ。経理部長、この前の話、説明してあげてよ |
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固定費は2つに大別できる! ~コミッテッドとマネジド
経理部長 | 固定費は、大きくコミッテッド・コストとマネジド・コストに区分できます |
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総務部長 | コミッテッドとマネジド? |
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経理部長 | もうコミット(約束)したものと、マネジメント(管理)できるものということです |
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コミッテッド・コストとは
経理部長 | はい。コミッテッド・コストは拘束費とも言って、物的設備を保有することによって多年度にわたり一定額が発生する費用を言います |
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製造部長 | 工場の建物や生産設備の減価償却費などが、コミッテッド・コストなんですか? |
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経理部長 | そのとおりです。その他に建物の固定資産税などがあります |
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総務部長 | なるほど。物的設備を保有して一定額が発生しますからね |
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社長 | それでね、コミッテッド・コストっていうのは削減するのが難しいわけだよね |
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経理部長 | そうなんです。資産を売却すると後でまた購入するのが大変ですし。ですから、減価償却費を削減できるからと言って生産設備を売却するわけにはいきません |
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一同 | なるほど |
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社長 | 人件費も、物的設備じゃないけど、人件費だって同じだよね |
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経理部長 | 従業員をリストラするわけにはいきませんから、コミッテッド・コストに準じると思います |
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社長 | 雇用調整助成金を受けているから、人員確保は続けられる |
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マネジド・コストとは
経理部長 | そして、マネジド・コストは随意費とも言って、経営者・管理者が裁量によって金額を決めることができる固定費なんです |
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営業部長 | えーっと、販売関係だと広告費なんかかな? |
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経理部長 | そのとおりです。短期的な意思決定で削減を決めることができますから、短期的にも削減しやすいコストではありますが、うちの場合はそれ程大きな金額ではないので、削減できても効果は限定的かと思われます |
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コミッテッド・コストは削減できない?
営業部長 | コミッテッド・コストの削減は難しそうだし、うちはマネジド・コストは削減しても影響が限定的となると、コスト削減は難しいということでしょうかね…… |
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経理部長 | いや。コミッテッド・コストの削減は難しそうと言っても削減できないわけではありません |
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営業部長 | それで、本社の引っ越しなんですか? |
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社長 | うん、そうだ。各部門が本社オフィスで利用している面積と同じぐらいで家賃が安いテナントを探して引っ越せばいいと思ったんだ |
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経理部長 | もちろん、賃貸借契約がありますから今月すぐにと言うわけにはいきませんが、いざ削減したときには効果が大きいとも言えます |
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社長 | 今後、生産・販売量が回復したとしても、テレワークの進展などで以前のように本社オフィスがフル稼働することもないだろうしな |
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人事部長 | でも、職場が遠くに引っ越すと、従業員に余分な負担がかかりませんか? |
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社長 | そこだよ、気になったのは。それで、Webでザッと調べたら、この近くにも案外いい条件のオフィスがあるんだ |
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営業部長 | この近くなら、取引先との影響はほとんどないですね |
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人事部長 | 従業員も納得してくれるかな…… |
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経理部長 | どれぐらいコスト・ダウンできるんですか? |
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社長 | もちろん、物件によるけど、まぁ、年間でこれくらいはテナント料が安くなると思うよ |
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この後、社長は部長たちと相談を続け、具体的な「引っ越し作戦」について、検討しました。後日、この引っ越し作戦を実行したところ、テナント料、つまり支払家賃の削減により、MIROC製作所は固定費の削減に成功しました。固定費の区分と固定費の削減との関係を理解して、うまく取り組むことができたようです。
ワンポイント解説
「固定費の区分と固定費の削減」
固定費は管理の観点から大きく、マネジド・コスト(随意費)とコミッテッド・コスト(拘束費)の2つに分類できます。
固定費を削減するにあたり、一般的には、短期的に削減がしやすいマネジド・コストの削減をまずは検討します。ただし、コミッテッド・コストは、削減に多少時間がかかりますが、タイムリーに削減できない分、ムダなコストがかかり続けていることもあり、いざ削減した場合には効果が大きい可能性もあります。
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