取り戻せないなら諦める-意思決定で「もったいない」は禁句?-
2023年11月3日
質問
産業用機器や電子機器を製造販売している「ミロク電子」は、半年前に製造に使用する機械Xを購入しました。しかし、最近になって、より性能が高くランニングコストを抑えられる機械Yが発売されたため、社長は機械Yを購入するかどうか迷っています。あなたが社長なら、次のどの行動をとりますか?
パターン1
各機械を使用した場合のそれぞれの将来のキャッシュ・フローに基づいて判断する。
パターン2
まだ半年しか使用しておらず元が取れていないので、機械Xを使い続ける。
パターン3
機械Xと機械Yの購入費の大小で判断する。
この質問をイメージして以下のストーリーをお読みください。
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会計情報を使って的確な意思決定
「ミロク電子」は、産業用機器や電子機器の製造販売をしています。高品質の製品がウリで、安定的な受注があります。日々直面する意思決定に会計情報を活かすようになってからは、的確な判断が行えるようになり、売上高も利益も順調に伸びています。しかし、1年前はそうではありませんでした。ちょっとその頃の様子を見てみましょう。
1年前 ~半年で新機械に取り換えるのはもったいない?
1年前、ミロク電子の社長は、新機械に取り換えるかどうか悩んでいました。
社長、半年前に購入した機械Xよりもランニングコストが少なく高性能な機械Yが発売されました。機械Yに取り換えませんか?
財務部長
社長
機械Xを購入してから、まだ半年しか経っていないじゃないか
機械Yの購入によって、将来のランニングコストが少なくなれば、結果的にキャッシュ・フローは多くなる可能性があります
製造部長
社長
うーん。会計数値的にはそうかもだが……半年前に購入したばかりなのに、また取り換えるのはもったいない。どうしたものか
質問
産業用機器や電子機器を製造販売している「ミロク電子」は、半年前に製造に使用する機械Xを購入しました。しかし、最近になって、より性能が高くランニングコストを抑えられる機械Yが発売されたため、社長は機械Yを購入するかどうか迷っています。あなたが社長なら、次のどの行動をとりますか?
▼あなたの思うパターンをクリック▼
パターン1
各機械を使用した場合のそれぞれの将来のキャッシュ・フローに基づいて判断する。
パターン2
まだ半年しか使用しておらず元が取れていないので、機械Xを使い続ける。
パターン3
機械Xと機械Yの購入費の大小で判断する。
社長が選択したのはパターン1でした。各機械を使用した場合のそれぞれの将来のキャッシュ・フローに基づいて判断する必要があります。また、この際には、機械Xの購入費を考慮せずに判断します。
確かにまだ半年しか使用していないのはもったいないですが、機械Xを使い続けることにより、かえって将来の負担が多くなる可能性があります。
購入費の大小は気になりますが、ランニングコストなどを考慮せずに購入費だけで判断すると、判断を誤る可能性があります。
途中まで読んだ本を放置する娘、その言い分にヒントが!
社長が帰宅すると、最近娘が買った本がテーブルに置かれていました。
社長
この間買った本はもう読み終わったのかい?
途中まで読んだけど、なーんかありきたりで面白くないから、読むのやめちゃった
娘
社長
2,200円もしたんだし、せっかくなら最後まで読んでみなよ
えー! 面白くない本を読むのは苦痛じゃん。だったら、その時間を他のことに使った方が有意義だと思うよ。バイトすればお金ももらえるし
娘
社長
そうは言っても、もったいないと思うけどな
本を読んでも読まなくても、払っちゃった2,200円は戻ってこないよね。だったら、過去は振り返らずに、今後のことを考えた方が良いと思うよ。それに、この本が図書館から借りたものだったら、お父さんだって『興味ない本を読むのは時間のムダだから、その時間を勉強に充てなさい』って言うんじゃない?
娘
社長
借りた本だったらそう言うよ。いや、待てよ……
このとき社長は気付きました。
社長
支払ったお金は戻ってこないなら、過去ではなく将来に目を向ける……。今、直面している機械の交換問題にも、相通じるものがありそうだ!
社長と財務部長の検討会
娘さんがおっしゃったのは、サンクコストの考えです。将来の意思決定において、サンクコストの取扱いは重要なポイントです
財務部長
社長
サンクコストとは何かね
サンクコストは埋没費用ともいい、すでに支出され、その後どのような意思決定をしても回収できない費用を意味します
財務部長
社長
なるほど。でも、なぜ将来の意思決定では、サンクコストの取扱いが重要になるのだね?
過去に支払った費用は取り返すことはできません。したがって、取り返すことができない過去の費用を考えても無意味であり、言い換えれば将来の意思決定に影響を与えないからです
財務部長
社長
では、将来の意思決定はどのように行うのが良いのか教えてくれないか?
分かりました。将来の意思決定をする場合、過去に発生したサンクコストは考慮に入れず、将来のキャッシュ・フローだけを考えて経営判断を行う必要があります
財務部長
社長
具体的数値があると分かりやすいんだけどな
そうおっしゃると思って、機械Xと機械Yに関する情報をまとめておきました。機械Xと機械Yでは、製品の質や製造量は同じです
財務部長
【図表1】機械Xと機械Yに関する情報
購入費 |
年間の ランニングコスト |
残存耐用年数 |
現時点での 売却価格 |
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---|---|---|---|---|
機械X | 2,000万円 | 500万円 | 10年 | 1,200万円 |
機械Y | 2,500万円 | 200万円 | 10年 |
これに基づいて、次の条件で将来のキャッシュ・アウトフロー計算を簡便的に行いました
財務部長
【財務部長が示した条件】
・今年を0年目として、機械Xと機械Yのランニングコストは1年目から生じる。
・機械Yを購入する場合、機械Xを売却する。
・税金は考慮しない。
機械Xの購入費を考慮しない場合、将来のキャッシュ・アウトフロー計算は次のようになりました
財務部長
【図表2】将来のキャッシュ・アウトフロー比較(機械Xの購入費を考慮しない場合)
選択肢 | 0年目 | 1年目 | 2年目 | ・・・ | 10年目 | キャッシュ・アウトフロー |
---|---|---|---|---|---|---|
機械Xの 継続使用 |
0万円 | 400万円 | 400万円 | ・・・ | 400万円 | 4,000万円 |
機械Yに 買い替える |
1,300万円 (注1) |
200万円 | 200万円 | ・・・ | 200万円 | 3,300万円 |
(注)1.機械Yの購入費2,500万円-機械Xの売却収入1,200万円=1,300万円
2.3~9年目の記載は省略しているが、2年目と同額で継続。
社長
将来のキャッシュ・アウトフロー削減という点からは、機械Xを売却して機械Yを購入するという判断になるわけか
そのとおりです
財務部長
社長
私の気持ち的には、2,000万円で買った機械Xをムダにして機械Yを買うってことは、その分を考慮しないといけないのかと思ったんだが……
社長のお気持ち的には、おそらく次のような感じなのだと思います
財務部長
【図表3】キャッシュ・アウトフロー比較(機械Xの購入費を考慮した場合)
選択肢 | 0年目 | 1年目 | 2年目 | ・・・ | 10年目 | キャッシュ・アウトフロー |
---|---|---|---|---|---|---|
機械Xの 継続使用 |
0万円 | 400万円 | 400万円 | ・・・ | 400万円 | 4,000万円 |
機械Yに 買い替える |
3,300万円 (注1) |
200万円 | 200万円 | ・・・ | 200万円 | 5,300万円 |
(注)1.機械Yの購入費2,500万円+機械Xの購入費2,000万円-機械Xの売却収入1,200万円
2.3~9年目の記載は省略しているが、2年目と同額で継続。
社長
この場合、機械Xを継続使用するのが望ましいとなるね。せっかく買った機械Xをムダにしてしまう、だから機械Yに買い替えるのは損だという気がしている……
はい。でも、機械Xの購入費2,000万円はすでに支払ってしまったものであり、もう回収することができません。機械Yを購入した方が今後のキャッシュ・アウトフロー削減効果は大きいにもかかわらず、機械Xの購入費を考慮してしまうと、経営判断を誤る可能性があります
財務部長
社長
そうか。サンクコストの意識は大事だけど、感情も絡むので厄介だな
そうですね。娘さんのお話もサンクコストと関係しますから、身近なものです
財務部長
社長
将来に向けた意思決定では、“もったいない”は禁句なのかもしれないな!
「サンクコスト(sunk cost)」
サンクコスト(埋没費用)とは、すでに発生しており、将来的に回収できる見込みのないコストのことです。サンクコストの例としては、マーケティングキャンペーンの費用や新設備にかかった費用などがあります。サンクコストは、すでに支払われており、回収の見込みがなく、それ自体が変化することはありません。したがって、将来に関する意思決定をする場合、サンクコストは考慮に入れず、将来のキャッシュ・フローだけを考えるのが合理的な判断と言えます。
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