紅茶教室のレッスン料はその場限りのコストか? 企業が価値を生み出し続けるヒント

2023年11月23日

質問

「ミロク・テーブルウェア」は創業以来、食器やナイフ・フォーク類の卸売事業を営んできましたが、近年は既存事業の不振が続いており、イノベーションが必要な状況で、今後の経営資源への投資方針について検討しています。あなたが経営者なら次のうちどの行動を取りますか?

パターン1

製品を自社グループで大量生産できるよう、メーカーを買収し、設備投資を行うことを計画する。

パターン2

従業員への研修や教育訓練など、人材への投資を行うことを計画する。

パターン3

既存の取扱い製品についての大規模な宣伝など、ブランド価値向上への投資を行うことを計画する。

この質問をイメージして以下のストーリーをお読みください。

食器
紅茶

新たな価値を生み出し続ける成長企業

食器に関連する事業を営む「ミロク・テーブルウェア」。従来は食器やナイフ・フォーク類の卸売事業のみを行っていましたが、近年、食器メーカーとユーザーがシステム上で直接取引できるプラットフォームを開発し、このプラットフォームを運営する事業が急成長しています。また、ユーザーのニーズを取り入れてメーカーと共同開発した食器の販売事業や、環境意識の高いユーザー向けに古い高級食器をリペアする事業など、順調に新事業を拡大しています。


社長

創業以来手がけている卸売事業は縮小傾向だが、新しい事業はいずれも絶好調だね

プラットフォーム事業を始めることができたのは、必要な経営資源への投資がうまくいったからですね


経営企画室長


社長

ユーザーのニーズをとらえた新製品や新サービスも、社内から提案されたアイデアが実現したものだしな

社会や環境の変化に対応し、新たな価値を生み出し続けるミロク・テーブルウェアですが、2年前は業績不振が続く中で、経営資源への投資方針を打ち出せずにいました。

2年前 ~既存事業の苦戦

2年前のミロク・テーブルウェアは、食器やナイフ・フォーク類の卸売事業のみを営んでいましたが、売上や利益は毎年じわじわと減少していました。イノベーションが必要な状況で、社長は、今後の経営資源への投資方針について思案に暮れています。


社長

食器やナイフ・フォーク類の卸売事業は、今後の見通しが厳しそうだね

そうですね。我が社が取引をしている老舗メーカーの製品は、品質としてはトップレベルですが、なかなか認知されていない可能性があります。また、ユーザーのニーズをとらえた新製品が少ないのも事実です……。最近は安価な量産品が普及しているので、既存製品の価格勝負となってくると、苦戦が続いている状況です


経営企画室長


社長

コスト面では大量生産の食器に負けてしまうからな

近年、急速なデジタル化が進んでいる社会環境ですが、我が社には対応できる人材が育っておらず、イノベーションが起こりにくくなっています。現状のままですと、売上も利益も右肩下がりの見込みです


経営企画室長


社長

中長期的な視点で経営資源への投資方針を考える必要がありそうだ。週末じっくり考えよう

質問

「ミロク・テーブルウェア」は創業以来、食器やナイフ・フォーク類の卸売事業を営んできましたが、近年は既存事業の不振が続いており、イノベーションが必要な状況で、今後の経営資源への投資方針について検討しています。あなたが経営者なら次のうちどの行動を取りますか?

▼あなたの思うパターンをクリック▼

パターン1

製品を自社グループで大量生産できるよう、メーカーを買収し、設備投資を行うことを計画する。

パターン2

従業員への研修や教育訓練など、人材への投資を行うことを計画する。

パターン3

既存の取扱い製品についての大規模な宣伝など、ブランド価値向上への投資を行うことを計画する。

製品を自社グループで大量生産できるようにすれば、多くの場合、製品1個当たりのコストを低減できます。低コストを実現し低価格で販売することで、売上が大幅にアップする見込みがある場合には、有効な戦略かもしれません。ただし、他社との価格競争を考慮すると、十分な利益の確保にはつながらないおそれもあります。また、安価な製品を量産することで、従来の高品質な製品を購入していたユーザーの信頼や愛着を失う可能性もあるため、慎重に判断する必要があります。

実はミロク・テーブルウェアの社長が選択したのはパターン2でした。従業員に対する研修や教育訓練など、人材への投資を積極的に行い、新たな事業に対応したり新しいアイデアを生み出したりすることができるスキルや知識の習得を目指したのです。

大規模な販売促進を行えば、売上や利益を増加させることができる場合もあります。既存の取扱い製品の認知度が低いために売上が伸び悩んでいる状況などでは、効果がある戦略です。ただし、社会や環境の変化に伴い、その事業において利益を確保することが構造的に難しくなっている状況では、宣伝などブランド価値向上への投資の効果は一時的であることも多いので、注意が必要です。

「私」のための支出は“コスト”ではなく“投資”

次の日、社長は自宅の書斎にこもって、イノベーションが必要な状況での経営資源への投資方針について、考えを練っていました。

少し休憩したら? おいしい紅茶をいれたわよ



社長

この紅茶、香りがとてもいいな

昨日、英国式の紅茶教室に参加したのよ。高級ティーサロンが開催する紅茶教室だからレッスン料は高かったけれど、本格的な紅茶の入れ方を教えてもらえて有意義だったわ



社長

高級ティーサロンの紅茶教室? アフタヌーン・ティーのためにコストがかかったな

あら、レッスン料はその場限りの『コスト』じゃなくて、私への『投資』と考えてほしいわ。このスキルを身に付けたことで、あなたはこれから本格的な紅茶を何度も飲めるんだから



社長

それもそうだね。……人への投資? 今の我が社に必要なのもそれだ!

価値創出の基盤となる「人材」への投資

社長は、新規事業のためのアイデアやイノベーションを生み出せるよう、社員の人材育成に積極的に取り組むことにしました。


社長

急速なデジタル化が進んでいる社会環境だが、我が社は、デジタル関連のスキルが十分ではない社員が多いようだね

既存事業の業務だけをしていると、新しいスキルや知識を身に付ける機会がないですからね。ライバル会社などでは、SNSや動画等で積極的に情報発信しているところも増えています


経営企画室長


社長

まずはデジタル関連の研修や教育訓練を行おう

具体的な研修内容を早速検討してみます


経営企画室長


社長

最近はサステナビリティ(持続可能性)に関する意識が高まっているね。そうした内容についても研修を行って、社員みんなが理解を深めるようにしよう。顧客ニーズの変化をとらえてアイデアを生み出せるような人材を多く育成したい

社会や環境などの変化に対応して業務を進めるために必要となる、新たなスキルや知識を習得することを、「リスキリング(Reskilling)」と呼びます。

昨今では、企業を取り巻く社会や環境は絶え間なく変化しています。こうした状況で、スキルのアップデートや新たな知識の習得を行わないままでいると、新たな事業に対応できる人材が不足し、新しいビジネスのためのアイデアやイノベーションも生まれにくい環境に陥りがちです。

近年における急速なデジタル化を踏まえれば、デジタル関連のスキルを持つ人材の育成・確保は不可欠です。また、デジタル化の進展により、従前のビジネス・モデルを見直すべき状況が生じたり、時代に適した新しいビジネス・モデルが可能になったりすることもあります。一方、例えば、様々な局面でサステナビリティが重視される傾向が高まっていることから、新たなニーズが生まれ、新市場を創出できる機会もあります。こうした変化に柔軟に対応し、企業が価値を生み出し続けていくには、人材のリスキリングが欠かせません。

リスキリングのための研修や教育訓練に要する支出は、会計上はコストであり、通常、販売費及び一般管理費として処理されます。ただし、その性質上は、その場限りの「コスト」というよりも、企業が将来にわたって価値を生み出し続けていくために必要な人材に対する「投資」としての側面を持っています。


社長

社員一人当たりの研修時間を把握して、人材育成に関する指標として利用しよう

デジタル関連の資格保有率も目標として設定すると良さそうですね


経営企画室長


社長

資格取得のための費用は会社が負担しよう。新しいスキルと知識の習得を推進して、アイデアやイノベーションを生み出せる環境を作るぞ!

人材のリスキリングに取り組む場合、漫然と研修を行うのではなく、習得を目指すスキルや知識を明らかにした上で、目標を設けて継続的に行うことが望ましいと考えられます。例えば、一人当たりの研修時間、研修の受講率、資格の保有率などを算出し、その目標を設定して取り組むと効果的です。

研修や教育訓練は社内で行うほか、社外のリソースを利用することもできます。昨今ではウェブでのセミナーやeラーニングなども普及しているので、自社の状況に合った人材育成体制を模索してみましょう。

「リスキリング(Reskilling)」

社会や環境などの変化に対応して業務を進めるために必要となる、新たなスキルや知識を習得すること。

社員のリスキリングに要する支出は、会計上はコストとして処理されるものの、性質上は人材に対する投資としての側面を持っています。人的資本経営が重要視される昨今、その一環としてリスキリングが注目を集めています。なお、ただ人的資本投資をするだけではなく、その人材がすぐに社外に出ていかないよう、キャリアルートの設計など、社内で活かせる環境作りをすることも大切です。

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