増収増益の絶好調の決算!? 業績を誤認しないためP/Lの見せ方をどう工夫する?

2024年1月23日

質問

飲食店向けに食材を卸している「MJS食品」。パンデミック発生の影響などで経営環境が激変し、前期は売上高や利益が大きく落ち込んだこともあり、前期比で増収増益を達成しました。あなたが経理部長なら、経営陣が業績を誤認しないよう、業績の見せ方をどのように工夫しますか?

パターン1

前期は異常値なので、当期分だけP/Lを分析する。

パターン2

例年どおり、当期のP/Lを前期とだけ比較分析する。

パターン3

3期(前々期・前期・当期)以上の期間のP/Lを比較分析する。

この質問をイメージして以下のストーリーをお読みください。

食材
pl

業績を正しく理解できるようになった社長

「MJS食品」は飲食店向けに食材を卸していますが、顧客である飲食店を取り巻く経営環境の大きな変化などもあり、業績の変動が激しくなっています。そんな中でもMJS食品の経理部は経営陣が業績を誤認しないような資料を提示することができているようです。

1年前 ~環境変化が激しい状況下、増収増益の決算で業績を誤認?!

決算作業の終盤を迎えたある日、MJS食品の経理スタッフSさんがP/Lの比較分析を実施しています。これまで経理部で経験を積んできたことから、P/Lの対前期比較は慣れたもの。限られた時間の中で前期比較での増減分析を終え、結果を経理部長に報告しました。

【図表1】対前期比較

前期 当期 増減額(率)
売上高 600百万円 800百万円 200百万円増(33%増)
営業利益 6百万円 9百万円 3百万円増(50%増)

売上高は対前期比較200百万円増(33%増)の800百万円、営業利益は対前期比較3百万円増(50%増)の9百万円、……と絶好調です


Sさん


経理部長

当期は前期と比べると確かに良い業績なんだが……

Sさんの分析に対して経理部長はどうも不満な様子です。実は、従来比較的業績が安定していたMJS食品ですが、パンデミック発生の影響などで経営環境が激変し、前期は売上高や利益が大きく落ち込みました。その影響もあって、当期は前期と比べると業績は大きく改善しているのです。

この状況で、経営陣が業績を誤認しないよう、業績の見せ方を工夫できないでしょうか……。

質問

飲食店向けに食材を卸している「MJS食品」。パンデミック発生の影響などで経営環境が激変し、前期は売上高や利益が大きく落ち込んだこともあり、前期比で増収増益を達成しました。あなたが経理部長なら、経営陣が業績を誤認しないよう、業績の見せ方をどのように工夫しますか?

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パターン1

前期は異常値なので、当期分だけP/Lを分析する。

パターン2

例年どおり、当期のP/Lを前期とだけ比較分析する。

パターン3

3期(前々期・前期・当期)以上の期間のP/Lを比較分析する。

当期のP/Lを分析することは大事ですが、当期のP/Lだけを分析すると、前々期や前期からの業績の変化が分析できません。環境変化が激しい状況下や前期の業績がイレギュラーな場合などでは、別の分析もした方が良いでしょう。

前期と当期のP/Lを比較分析することで、当期の業績が前期と比べてどのように変化したのかを把握できます。しかし、環境変化が激しい状況下や前期の業績がイレギュラーな場合などでは、前期比較だけでは当期の業績の実態を誤認するおそれもあり得ますので、別の分析もした方が良いでしょう。

3期以上の期間のP/Lを比較分析することで、業績のトレンドをより正確に把握でき、環境変化が激しい状況下や前期の業績がイレギュラーな場合などでは特に効果を発揮します。

経営環境の変化が激しい状況下、業績の見せ方に工夫が必要だった!

経理スタッフのSさんは、【図表1】のように、当期のP/L(ここでは売上高と営業利益のみ示しています)を前期のP/Lと比較し、増減額及び増減率を算出しています。これによって、前期と比較してどのような変化が生じているのかは分かります。通常の場合におけるP/Lの比較分析と言えば、確かにこのような分析になるでしょう。

しかし、パンデミックの影響などで経営環境が激変し、前期は売上高や利益が大きく落ち込んでいます。


経理部長

前期が経営環境激変により業績が異常値を示しているのであれば、単純に前期と当期の業績を比較してもあまり意味がないんじゃないかな。例えば、比較する期間を長くしたらどうだろう

そう言われた経理スタッフのSさんは、【図表2】を作成して経理部長に見せたのです。

【図表2】3期比較

前々期 前期 当期
売上高 1,000百万円 600百万円 800百万円
営業利益 20百万円 6百万円 9百万円

当期の業績を前々期の業績とも比較できるようにしました。3期分を比較すれば、「前期の業績が大きく落ち込んだこと、それと比較すると当期は大きく改善していること」がよく分かります。それから、「前々期と当期を比べてみると、当期は業績回復傾向にあるものの、前々期の水準までは回復していないこと」も伝わると思います!


Sさん


経理部長

うん、だいぶ当期の業績の状況が分かりやすくなったね。もう一工夫するともっと分かりやすくなるよ

そう言うと、経理部長は【図表3】のような3期比較P/Lを見せたのです。

【図表3】3期比較(趨勢比あり)

前々期 前期 当期
売上高
(趨勢比)
1,000百万円
(100)
600百万円
(60)
800百万円
(80)
営業利益
(趨勢比)
20百万円
(100)
6百万円
(30)
9百万円
(45)

(注)趨勢比: 基準年(ここでは前々期)を100とした場合の比率を示している。

カッコ書きで趨勢比を見れば、基準年(前々期)と比べて、他の年度がどのくらいの水準なのかが一目瞭然ですね! 売上高を見てみると、前々期を100とした場合に、前期は60(6割)まで落ち込んでいて、当期は前期よりは大幅に回復しているものの、前々期の80(8割)までの回復にとどまっていたんですね……


Sさん


経理部長

営業利益を見てみると、前期は前々期の3割の水準まで落ち込み、当期も4割5分の水準にとどまっているから、決して業績絶好調という訳ではないんだ

なるほどー


Sさん


経理部長

傾向を理解する上では、比較する数期間において、①右肩下がり・右肩上がり・山型・谷型のいずれなのか(【図表4】参照)、②その間の振れ幅はどれ位なのか(【図表5】参照)、といった点も伝わるようにするといいよ

【図表4】3期分の売上高や利益の推移の型

図表4

(注)趨勢比: 基準年(ここでは前々期)を100とした場合の比率を示している。

【図表5】3期分の売上高や利益の振れ幅

図表5

(注)横軸は決算期、縦軸は売上高等の決算数値

「3期比較P/L」

P/Lの比較と言えば、前期比較(2期比較)が一般的ですが、環境変化が激しい状況下や前期の業績がイレギュラーな場合などでは、5期分など、より長い期間のP/Lを比較して趨勢を見たり、異常値となっていない期の数値を基準値として比較してみることも重要です。

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