赤字事業の継続か廃止かの意思決定に潜む罠! 「もったいない」が命取りになる?

2024年3月23日

質問

家電量販チェーンを営む「MJSデンキ」は、前社長時代に新規事業としてファミリー向けゲームセンター事業を打ち出し、最新の設備購入、大型店舗の建設など数億円規模の投資を行ってきました。ところが体調不良で社長が交代して以後、ライバル店の台頭やスマホゲームの流行などもあって赤字が続いています。あなたが経営幹部なら、この不採算事業への対策について現社長にどのような助言をしますか?

パターン1

志半ばで退任した前社長の思いを尊重して、今後もこの新規事業を継続すべきです。

パターン2

早期にこの新規事業を廃止して、余剰分の設備、店舗等を他の事業に配置すべきです。

パターン3

既に行った数億円の投資分をまだ回収できていないので、この新規事業を維持すべきです。

この質問をイメージして以下のストーリーをお読みください。

赤字
ゲームセンター

大型投資をした新規事業、継続か廃止かを決断

家電量販チェーンを営む「MJSデンキ」は、前社長時代に、「家族で楽しくゲームで遊んで欲しい」との思いから、新規事業としてファミリー向けゲームセンター事業を打ち出し、大型投資をしてきました。現経営陣は当該事業の継続か廃止かの意思決定をどうすべきか悩みましたが、ある大事な考え方を使って判断した結果、どうやら適切な意思決定ができたようです。

数カ月前 ~不採算事業を続けるか?それとも廃止するか?

MJSデンキは、家電量販店を営んでいます。もともと街の小規模店として創業したのですが、都市の駅周辺の開発に合わせて出店した家電量販ビジネスが次々と成功し、現在の家電量販チェーンにまで成長しました。そして前社長の強い希望により、新規の目玉事業としてファミリー向けゲームセンター事業を行うために最新の設備購入、大型店舗の建設など数億円規模にのぼる投資を行ってきました。新規事業が始まって間もなく、その社長は体調不良で交代することになりました。

ところが現在の社長が就任して以後、ライバル店の台頭やスマホゲームの流行などもあって、成長事業として期待されていたファミリー向けゲームセンター事業の業績はいまだに伸び悩んでいます。経理担当者に現状を調査してもらったところ、「投資計画時に見込んでいたほどの採算をなかなか確保できず、今後もしばらくの間赤字が続く見込み」との報告がありました。

実は、経営陣の頭の中でも不採算事業に対する漠然とした危機感はありました。ただし、この事業は前社長があれこれと考えて打ち出したもので、既に大規模な投資も行ってきたこともあり、これまでの経緯を知る経営陣はこの事業について触れることに抵抗がありました。また、主軸である家電量販事業の業績はつい最近まで順調だったので、ファミリー向けゲームセンター事業の将来について会議でもしっかりと議論されることはなかったのですが、会社としても不採算事業をそのままにしておく訳にもいかなくなっています。経営幹部のXさんは、社長からこの件について次の会議で意見を述べるようにと頼まれました。

質問

家電量販チェーンを営む「MJSデンキ」は、前社長時代に新規事業としてファミリー向けゲームセンター事業を打ち出し、最新の設備購入、大型店舗の建設など数億円規模の投資を行ってきました。ところが体調不良で社長が交代して以後、ライバル店の台頭やスマホゲームの流行などもあって赤字が続いています。あなたが経営幹部なら、この不採算事業への対策について現社長にどのような助言をしますか?

▼あなたの思うパターンをクリック▼

パターン1

志半ばで退任した前社長の思いを尊重して、今後もこの新規事業を継続すべきです。

パターン2

早期にこの新規事業を廃止して、余剰分の設備、店舗等を他の事業に配置すべきです。

パターン3

既に行った数億円の投資分をまだ回収できていないので、この新規事業を維持すべきです。

事業立ち上げ時の経営者の思いを大切にすることは時として重要です。しかし、不採算事業である以上、赤字を抱えてまで継続することは、健全な財務運営上望ましくありません。

経営幹部が選んだのはパターン2でした。このタイミングで不採算事業であるファミリー向けゲームセンター事業の廃止を決め、かつ余剰分の設備、店舗等を他事業に配置できれば、このまま継続するよりも将来の財務上の負担は軽減すると予想されるからです。

多額の投資を行ったので、その分を回収したいと思うのは自然な流れでしょう。しかし、これは過去に支払ったものであり、ファミリー向けゲームセンター事業を将来継続するかどうか判断する際には切り離して考えることが重要です。

ゲームセンターで遊ぶ子供の話がヒントに?

Xさんが部下と一緒に駅の近辺を歩いていたところ、ゲームセンターで子供たちが遊んでいる姿を目にしました。


Xさん

平日なのに子供たちでずいぶん混んでいるね

最近できたゲームセンターですね。ここは駅にも近いし、遊びやすいのでしょう


部下


Xさん

みんな、次々とゲーム機に小銭を入れているみたいだ

息子によると、いったん小銭を投入したら欲しい景品が手に入るまで「もったいない」と思ってしまうそうで、ついつい追加でお金をかけてしまうようです


部下


Xさん

そうか、分からなくもないなぁ。でも、「もったいない」では済まされないぞ!どこかで区切りをつけなきゃ

このときXさんは思いました。


Xさん

お、これはビジネスパーソンにも当てはまりそうだ。「もったいない」なんて言っていたら、我が社もいつまで経っても止められないぞ!

部下との会話の中で、Xさんは、過去に囚われない大切さに気付いたのです。

社内会議で思い切って発言

会議当日のこと、経営幹部から次々に意見が出されていきます。

前社長が苦労しながらも、強い希望で始められたビジネスですし、ハッキリとした成果も出ていないのに止めるのは良くないと思います


Yさん

既に数億円規模の投資を行ってきた訳ですから、まだ回収できていないのに止めるのはもったいないです。しばらく様子を見たらどうでしょうか


Zさん

うーん、そうは言ってもね……


社長

他のメンバーから出される意見は相変わらず後ろ向きのものばかりですが、今日のXさんはいつもと違います。先日の部下との会話を思い出しながら、Xさんは思い切って次のように発言しました。


Xさん

皆さんの意見は私も共感できます。ですが、これからのことを判断するのに、いつまでも過去に囚われていてどうするのでしょうか

そう言うと、Xさんはゲームセンターで遊ぶ子供の話を例に挙げて、過去に囚われることの問題について説明したのです。

なるほど。我々は、“もったいない”、“ムダにしたくない”という心理に囚われていたんだな。我々に欠けていたのは、「前向きに考える」ことかもしれない。Xさん、詳しいことを教えてくれないか


社長

MJSデンキで多額の投資を行ってきたのは事実ですが、どれも既に行われてしまったものです。これからファミリー向けゲームセンター事業を継続するか、それとも廃止するかに関係なく、過去に支払った金額はサンクコスト(埋没原価)になるので、意思決定の判断材料から除外するように、Xさんは会議でアドバイスをしました。

その後Xさんの意見を参考に経理担当者に再調査をしてもらったところ、仮にファミリー向けゲームセンター事業を廃止したとしても、余った設備、店舗等の大部分は他の事業に転用でき、赤字を最小限に抑えられることも分かりました。Xさんの発言をきっかけにして、社内で先送りにされてきた不採算事業の問題は一気に解決へ動き出しました。

「サンクコスト(埋没原価)」

今回の事例に出てきた建設費のように、過去に支出した金額をサンクコスト(埋没原価)と言います。将来の行動に関して意思決定をする際には、どの案を選択しても埋没原価は変化しませんので、判断材料に含めないように注意しましょう。

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