粗利の計算と業績管理、大丈夫? 最終仕入原価法採用の中小企業の注意点と対策とは?

2024年7月3日

質問

工業用機械部品の卸売業を営む「ミロク機械部品販売」では、今後は事業規模が拡大し、保有する商品在庫の重要性も増していく見込みです。月次で粗利(売上総利益)を適切に計算して業績を管理するために、あなたが経営者ならどのような対応をしますか?

パターン1

現状の月次P/Lの粗利(売上総利益)をそのまま使う。

パターン2

前期の粗利率の実績値で当期の月次の粗利を計算する。

パターン3

月末の商品残高を把握できるようにする。

この質問をイメージして以下のストーリーをお読みください。

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月次で粗利(売上総利益)を適切に計算して業績を管理

「ミロク機械部品販売」は工業用機械部品の卸売業を営む中小企業でおり、事業規模が拡大していますが、今では月次で粗利(売上総利益)を適切に計算して業績を管理し、タイムリーに対策を打つことができています。

しかし、1年前の同社では、月次での粗利(売上総利益)計算を巡って問題が起きていました。ちょっとその頃の様子を見てみましょう。

1年前 ~最終仕入原価法で在庫を評価している会社。今月の粗利(売上総利益)はいくら?

ミロク機械部品販売ではこれまで、在庫の事務処理を楽に済まそうと、期中では在庫受払の記録は付けておらず、年度決算時のみ実地棚卸を行って在庫数量を確定させ、それに最終の仕入単価を乗じて期末在庫金額を算出しています。月々は在庫金額を算出しておらず、その月の商品仕入高がそのまま売上原価となっています。
ある日の経営会議でのこと。


社長

これまでうちは事業規模もそれ程大きくなかったが、今後は事業規模が拡大していく見込みだ。だから、月次で業績をしっかりウォッチし、何か問題があればタイムリーに対策を打っていく必要があると思っているんだ

確かにこれまで、月次の売上がどうなっているかはウォッチしていましたが、利益についてはほとんど見ていませんでした……


営業部門幹部

粗利でしたら月次のP/Lに売上総利益が載っています。これを使えば月々の粗利もウォッチすることができると思います!


管理部門スタッフ


社長

そうだったか。では当期のここまでの粗利の推移はどうなってるんだ?

ここまでの月次P/Lの推移はこんな状況になっています


管理部門スタッフ

そう言うと、次のような月次P/Lを見せたのです。

【図表1】現状の月次P/L(売上総利益まで)の推移

4月 5月 6月
売上高 90,000 100,000 110,000 300,000
売上原価 60,000 55,000 125,000 240,000
売上総利益
(売上総利益率)
30,000
(33%)
45,000
(45%)
△15,000
(△14%)
60,000
(20%)

(注)この月次P/Lでは、売上原価には、その月の商品仕入高が計上されている。


社長

ん……どういうことだ? 売上はそれほど変わらないのに何でこんなに売上総利益が変動してるんだ。6月は大赤字じゃないか!

……


一同

ミロク機械部品販売で採用してきた最終仕入原価法には次のようなメリットがあります。


■最終仕入原価法とは
最終仕入原価法は在庫評価の方法の一つで、期末に残っている商品等の在庫を、その年度の最後に仕入れた単価で評価する方法です。つまり、期末にどれだけの在庫が残っているかを数えるとともに、それぞれの数量にその在庫を最後に買ったときのそれぞれの仕入単価をかけて期末在庫の金額を計算する方法です。

■最終仕入原価法のメリット
商品ごと・取引ごとの受け払いの記録(数量・価格)を付けていなくても、期末の在庫数量や最終の各仕入単価さえつかめれば、期末の在庫金額を確定させることができます。つまり、事務処理がとても楽なのです。
 
ミロク機械部品販売では、月次で粗利(売上総利益)を適切に計算して業績を管理するためにどのような対応をしたら良いのでしょうか……。

質問

工業用機械部品の卸売業を営む「ミロク機械部品販売」では、今後は事業規模が拡大し、保有する商品在庫の重要性も増していく見込みです。月次で粗利(売上総利益)を適切に計算して業績を管理するために、あなたが経営者ならどのような対応をしますか?

▼あなたの思うパターンをクリック▼

パターン1

現状の月次P/Lの粗利(売上総利益)をそのまま使う。

パターン2

前期の粗利率の実績値で当期の月次の粗利を計算する。

パターン3

月末の商品残高を把握できるようにする。

せっかく現状の月次P/Lに粗利(売上総利益)が載っているのですから、それを使いたいと考えるかもしれません。しかし現状では、商品が売れたか否かに関わらず、どれだけ商品を仕入れたかで月々の売上原価が決まってしまうので、この粗利(売上総利益)で月々の業績をウォッチするのは適切ではないでしょう。

前期の粗利率の実績値で当期の月次の粗利を計算すれば、月々の売上の変動に応じて粗利(売上総利益)も変動するので、月々の業績を管理しやすいかもしれません。しかし、商品の仕入単価が値上がりしたり、利幅の小さい商品が多く売れたりしても、月々の粗利率は変動しないので、月々の業績をウォッチし、タイムリーに対策を打つという観点からは適切ではないかもしれません。

月次で粗利(売上総利益)を適切に計算して業績を管理するためにミロク機械部品販売が取ったのは、月末の商品残高を把握できるようにすることでした。では、どうして月末の商品残高を把握することで、月次で粗利(売上総利益)を適切に計算して業績を管理できるようになるのでしょうか。また、どのようにすれば月末の商品残高を把握できるのでしょうか。

最終仕入原価法なら在庫の事務処理が楽? でも業績管理上、注意することはないの?

困ったミロク機械部品販売は、知り合いの会計事務所の先生に聞いてみることにしました。

最終仕入原価法で在庫評価を済ませれば、確かに事務処理はとても楽かもしれません。ただ、今のやり方には限界があります。月次で粗利(売上総利益)を適切に計算して業績を管理したいのなら、対応策を検討する必要があります


先生

■最終仕入原価法を適用しているときの月次業績管理上の注意点

期末のみ実地棚卸を行っている場合や在庫の受け払いの継続記録を付けていない場合には、簡便的に月々の商品仕入高をそのまま売上原価として処理することが多いです。御社もこのパターンです


先生


社長

そうなんですか。その場合、何が問題なのでしょうか?

商品が売れたか否かに関わらず、どれだけ商品を仕入れたかで月々の売上原価が決まってしまうということです。この場合、月次P/Lの売上原価は実際に売れた商品の原価ではありませんので、月々の売上総利益、いわゆる粗利ですが、これを見て業績の良し悪しを判断してしまうと誤った判断をしてしまいます


先生


社長

月次P/L(【図表1】参照)を見ると、6月の売上総利益が赤字になっていますが、これはどういうことが考えられますか?

おそらくこれは、6月に商品を仕入れて、6月中にはまだ売れておらず、6月末の商品在庫として残っているものがたくさんあるのではないかと思いますね


先生


社長

どうすれば月々の本当の粗利をつかむことができるのでしょうか?

それには、月末の在庫残高を把握できるようにすることが必要です。そうすれば、月々、売上に対応した適切な売上原価をつかむことができます


先生

■最終仕入原価法を適用してきた会社が、月々の粗利(売上総利益)を適切に計算するために

各月末の商品残高が分かれば、月々の売上原価は以下のようにして計算することができます


先生

当月の売上原価=月初の商品残高+当月商品仕入高-月末の商品残高

各月末の商品残高がつかめた場合、月次P/Lは次のようになり、売上高に対応する売上原価を計上することができ、売上総利益で月々の業績をウォッチすることが可能となります


先生

【図表2】売上総利益を適切に計算

図表2


社長

なるほどー。この売上総利益や売上総利益率だったら、月々ウォッチする意味があるということですね! では、どのようにすれば月末の商品残高を把握できるのでしょうか?

いくつか方法は考えられますが、例えば次のような方法を挙げることができます


先生

先生が挙げてくれたのは次のような方法でした。

【方法①】月末に実地棚卸を実施する方法
毎月末に実地棚卸を実施することによって、商品ごとの在庫数量をつかみ、それに最終の仕入単価をかければ月末の在庫金額をつかむことができます。これは期末と同様の手続きを毎月末にも行うイメージです。

ただし、実地棚卸には手間がかかりますし、商品の入出庫を停止する必要が出てきたりもします。まずは重要性が高く業績への影響も大きい商品に絞って実施することにとどめる(その分、業績把握の精度は落ちます)とか、実地棚卸を数カ月ごとに実施する(この場合、適切な業績把握も数カ月ごとになります)などから始め、徐々にレベルアップしていくことも考えられるかもしれません。

【方法②】在庫の受け払いの継続記録(数量)を付ける方法
商品ごとに、入庫や出庫の際に、入庫数・出庫数及び在庫数を記録しておくことで、帳簿上で月末の在庫数量をつかむようにし、それに最終の仕入単価などをかければ月末の在庫金額をつかむことができます。

商品を仕入れたり、売ったりした都度、商品ごとに入庫数・出庫数を記録するのに手間がかかりますが、在庫に重要性があるのであれば、在庫管理のシステムを導入することも考えられます。

【方法③】在庫の受け払いの継続記録(数量・価格)を付ける方法
商品ごとに、入庫や出庫の際に、数量(入庫数・出庫数及び在庫数)と価格を記録しておくことで、毎月末に実地棚卸を実施しなくても、帳簿上で月末の在庫数量と在庫金額をつかむことができます。

商品を仕入れたり、売ったりした都度、商品ごとに入庫数・出庫数や仕入金額を記録するのに手間がかかりますが、在庫に重要性があるのであれば、在庫管理のシステムを導入することも考えられます。在庫管理や業績管理のことを踏まえると、この方法が最も優れていると考えられます。

「最終仕入原価法」

最終仕入原価法とは、期末棚卸資産をその種類等の異なるごとに区別し、その種類等の同じものについて、その年度終了の時から一番近い時に取得した価額をその一単位当たりの価額とする方法を言います。
棚卸資産の受払記録を付けていなくても期末の棚卸資産の評価ができるため、事務処理が簡便となる反面、受払記録を付けない場合には月々の売上総利益を計算して業績を管理することが難しくなるなどのデメリットにも留意する必要があります。

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