各部門の二酸化炭素(CO2)排出量削減努力を促す方法とは?
2024年7月23日
質問
大手自動車メーカーの部品製造を請け負うサプライヤーである「MRK精工」は、カーボンニュートラル対応のため、CO2排出量削減の必要性に迫られています。しかし、経営層の危機意識とは裏腹に、部門責任者のCO2排出量削減意識は低いままです。そのため次のような施策を検討していますが、どれが最もCO2排出量削減効果が大きいと思いますか?
パターン1
各部門責任者にCO2排出量削減の重要性を訴える。
パターン2
各部門のCO2排出量を測定し、CO2排出量を見える化する。
パターン3
各部門の業績評価にあたって、CO2排出量に応じたペナルティーを負担させる。
この質問をイメージして以下のストーリーをお読みください。
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CO2排出量削減意識が高まり、取引先からも高評価
2050年カーボンニュートラルの実現に向けて、国内外の多くの企業がCO2排出量の削減に取り組んでいます。投資家からの要求もあり、大手企業はこぞってCO2排出量の削減目標を掲げるようになっていますが、CO2排出量削減に対するプレッシャーは、徐々にサプライチェーンを構成する中小企業にも及ぶようになってきました。
大手自動車メーカーの部品製造を請け負うサプライヤーである「MRK精工」も例外ではなく、上位メーカーからのCO2排出量削減要求は日に日に強くなっていました。要求されるCO2排出量削減目標をクリアできなければ、取引を継続できなくなってしまう可能性もあることから、MRK精工の社長は戦々恐々としていましたが、社長の危機意識とは裏腹に、各部門責任者のCO2排出量削減に対する意識は低いままでした。
そこで社長は、部門責任者のCO2排出量削減に対する意識を改めさせるため、ある取り組みをすることにしたのです。その結果、各部門はCO2排出量削減に積極的に取り組むようになり、MRK精工は、上位メーカーをはじめとする多くの取引先から高い評価を得ることができたのです。
数カ月前 ~ある日の役員会議にて
社長
CO2排出量の削減に対する上位メーカーの要求はますます厳しくなっているな
各企業のカーボンニュートラルへの取り組みには、投資家も目を光らせていますからね
執行役員A
上位メーカーのS社は、各サプライヤーにかなり厳しいCO2排出量の削減要求をしています。要求に応えられないサプライヤーとは取引関係を解消するとも言っているようです
執行役員B
社長
それは、我々サプライヤーにとって死活問題だ。なんとかしてCO2排出量の削減目標を達成しなければ
しかし、各部門責任者はコスト、売上、利益に関する目標達成に必死で、CO2排出量など全く気にしていない様子です
執行役員A
CO2は現場の活動から発生しますから、現場の意識が変わらないことには、CO2排出量の削減目標の達成は難しそうです
執行役員B
社長
確かにそのとおりだな。各部門のCO2排出量の削減努力を促すためには、いったいどうしたら良いのだろうか……
質問
大手自動車メーカーの部品製造を請け負うサプライヤーである「MRK精工」は、カーボンニュートラル対応のため、CO2排出量削減の必要性に迫られています。しかし、経営層の危機意識とは裏腹に、部門責任者のCO2排出量削減意識は低いままです。そのため次のような施策を検討していますが、どれが最もCO2排出量削減効果が大きいと思いますか?
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パターン1
各部門責任者にCO2排出量削減の重要性を訴える。
パターン2
各部門のCO2排出量を測定し、CO2排出量を見える化する。
パターン3
各部門の業績評価にあたって、CO2排出量に応じたペナルティーを負担させる。
確かにCO2排出量削減の必要性や重要性を各部門責任者が理解しないことには、各部門のCO2排出量削減努力を引き出すことはできません。しかし、CO2排出量の削減効果を大きくするには、その重要性を認識させるだけでなく、どの部門のどのプロセスからCO2がどれだけ排出されているのかについて、把握する必要があります。
確かに、CO2排出量削減策を検討する上では、各部門のCO2排出量を測定し、CO2排出量を見える化することが重要です。しかし、CO2の排出量の削減効果を大きくするには、排出量の見える化に加えて、これを削減する努力を促すためのインセンティブも検討しなければなりません。
MRK精工は、各部門のCO2排出量削減努力を促し、削減効果を大きくするため、各部門のCO2排出量を測定して見える化するとともに、CO2排出削減に対するインセンティブを与えられるように、CO2排出量を各部門の業績評価と結び付けることにしました。
ヒントは社内で実施している健康増進活動にあった
MRK精工では、社員の健康増進のために、専用アプリを使って「毎日1万歩運動」という健康増進活動を実施しています。各社員の毎日の歩数を専用アプリによって測定し、1万歩を超えた社員にはポイントが与えられ、社員は一定のポイントを達成するごとに取得したポイントを商品券に交換できるという福利厚生活動です。ある日、「毎日1万歩運動」について社員と話していた社長は、大きなヒントを得ることとなったのです。
社長
毎日1万歩運動を始めて数カ月が経つが、社内での評判はどうだい?
はじめのうちは、一日1万歩も歩けないよ……と不安の声が多く聞こえていましたが、最近では、1万歩を連日達成する社員や、達成するために努力をする社員が増えています
社員C
専用アプリで自分の歩いた距離や消費カロリーを把握できますし、何よりもしっかり歩いて目標を達成すれば、商品券というご褒美もあるので、運動を継続しようというモチベーションにもつながります
社員D
社長
なかなか評判は良さそうだね。歩いた距離が可視化できて、さらにご褒美にもつながっているというのがポイントなのかもしれないな
このとき社長は思いました。
社長
ん……? これはCO2排出量削減活動に当てはまるかもしれないぞ!
各部門のCO2排出量をペナルティー(追加コスト)として認識させる
社長
各部門にCO2排出量を意識させるためには、各部門のCO2排出量を測定するとともに、部門の業績評価とCO2排出量を結び付ける必要があるのではないだろうか
現在のところわが社では各部門単位でCO2排出量を測定するシステムを持っていませんので、CO2排出量の削減を図るためには、排出量の測定システムの導入が必須となります
製造部長
社長
今CO2排出量の削減に取り組まなければ、取引先を失ってしまうリスクがある。測定システムについては早急に導入を検討しよう
各部門の排出量が測定できるということであれば、それに社内で設定した排出単位価格を乗じることで、各部門のCO2排出コストを計算することが可能になります
経理主任
社長
なるほど! 各部門の排出量に応じてCO2排出コストを負担させる仕組みを構築できれば、各部門は余計なコスト負担によって部門の業績が悪化することを回避するために、CO2の排出量を抑制する行動をとるようになるというわけだな。まさに、CO2排出量と業績評価を連動させる仕組みになるということか
社内で発生するCO2を内部管理上の疑似的なコストとして認識し、これを減らすように動機付ける仕組みを社内炭素価格制度(Internal Carbon Pricing)といいます。世界中で導入が進んでおり、環境省もその導入を促しているようです
経理主任
社長
CO2排出量の測定システムの導入には投資が必要になりそうだが、カーボンニュートラルへの対応は長期的な問題なのだから、ここはしっかり投資をすべきだ。よし。早速CO2排出量と業績評価を結び付ける仕組みづくりに取り掛かろう!
MRK精工の社長は、カーボンニュートラルは長期にわたり経営に影響を及ぼす問題であると考え、各部門レベルでCO2排出量を測定するためのシステム投資を行いました。これによって各部門のCO2排出量を見える化し、それに加え、CO2排出量をコストとして認識することで業績評価に反映させる仕組みづくりを行いました。この仕組みを通じて、コスト負担を回避するために、各部門はCO2排出量を削減するための改善努力を自発的に行うようになったのです。
「社内炭素価格」
企業のCO2排出量に、社内で独自に設定した炭素価格を乗じることによって、CO2排出を疑似的なコストとして認識し、投資判断や業績評価に反映する方法を社内炭素価格と呼びます。日本国内でも既に250社超が導入しており、CO2排出量の削減を促す手法として注目されています。詳細については、環境省のガイドライン等をご参照ください。
(参考)環境省のガイドライン
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