その税金は販管費? 税引前当期純利益から差し引く? 税金の表示箇所の違いとは?
2025年1月13日
質問
「ミロク・サポート」では、担当者が会計処理を誤って、すべての税金を販管費に計上してしまったことが分かりました。今後の誤りを防ぐため、会計処理の理由を理解してもらいたいと考えています。法人税、住民税及び事業税は、なぜ税引前当期純利益から差し引いて処理するのでしょうか?
パターン1
国税であるため
パターン2
金額的重要性が常に高いため
パターン3
税引前当期純利益と対応関係があるため
この質問をイメージして以下のストーリーをお読みください。
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税金の勘定科目にはもう迷わない!
サービス業を営む「ミロク・サポート」。小規模ながら、業績は堅調です。
社長、月次の試算表ができました
経理部新人
社長
ありがとう! 今月は販売費及び一般管理費の租税公課が少し多いな
今月は固定資産税の納付があったからですね
経理部新人
社長
なるほど。内容をしっかり把握してくれて助かるよ
現在は正確に業務をこなす経理部新人のAさんですが、数か月前は慣れない業務でたびたびミスをしていました。
数か月前 ~税金の勘定科目でミス……販管費の租税公課? 利益から差し引く?
数か月前、ミロク・サポートの経理部は決算作業を行っていました。新たに経理部に配属されたAさんにとっては、初めての決算です。小規模なミロク・サポートでは、経理部の人員が限られているうえ、この数日、経理部長は所用で不在です。
社長、当期の決算整理後の試算表ができました
経理部新人
社長
ありがとう! おや、販売費及び一般管理費の租税公課が妙に多いな。おかしいぞ
決算整理仕訳を間違えたのかしら……
経理部新人
社長
仕訳を見てみよう。……あれ? 法人税や住民税が『租税公課』として処理されているね
税金だから『租税公課』として処理してしまいました
経理部新人
社長
法人税・住民税・事業税は、『租税公課』として処理するのではなくて、『法人税、住民税及び事業税』という勘定科目を使って、税引前当期純利益から差し引くんだ
すぐに訂正します。……でも、どうして、租税公課として処理する税金と、税引前当期純利益から差し引いて処理する税金があるんでしょう?
経理部新人
社長
処理の理由までは考えたことがなかったなあ
質問
「ミロク・サポート」では、担当者が会計処理を誤って、すべての税金を販管費に計上してしまったことが分かりました。今後の誤りを防ぐため、会計処理の理由を理解してもらいたいと考えています。法人税、住民税及び事業税は、なぜ税引前当期純利益から差し引いて処理するのでしょうか?
▼あなたの思うパターンをクリック▼
パターン1
国税であるため
パターン2
金額的重要性が常に高いため
パターン3
税引前当期純利益と対応関係があるため
課税主体が国である税金を「国税」、課税主体が地方公共団体である税金を「地方税」といいます。利益から差し引いて処理する税金のうち住民税と事業税は地方税にあたります。また、税金を納める先を把握しておくことは重要ですが、会計上、両者を区別して処理する積極的な理由はありません。
法人税、住民税及び事業税は、企業の業績が好調な場合には、金額的重要性が高いことが多いと考えられます。しかし、課税所得が少なければこれらの税額は少なくなり、常に金額的重要性が高いとは限りません。つまり、金額的重要性の観点によって、利益から差し引く処理が採用されているわけではありません。
法人税、住民税及び事業税は、いずれも、利益に関連する額を課税標準とするという性質を持つ税金です。この性質を持つ税金を、税引前当期純利益から差し引く形で処理することで、両者が対応関係にあることが損益計算書において明示され、財務状況が理解しやすくなるしくみになっています。
処理の違いは、算定基準の違いが理由 ~「課税標準」に着目
その日、社長が帰宅した途端、小さい娘が玄関へ飛んできました。
パパ、見て! 子ども会のクイズ大会で、こんなにお菓子をもらったの! こっちの袋には1つ、そっちの袋には5つ、お菓子が入っているんだよ
娘
社長
同じお菓子なのに、どうして袋を区別しているんだい?
お菓子1つは参加賞で、誰でももらえるんだ。そっちの袋に入っている5つは、クイズに正解した数に応じてもらったお菓子だよ
娘
社長
たくさん正解したんだね
うん! それをパパに知らせたくて、分けて持って帰ってきたんだ
娘
社長
……正解数に関連したお菓子は分けて処理? 我が子ながら、いいセンスだ!
翌日、税金の性質を整理した社長は、経理部新人のAさんに分かりやすく説明することにしました。
社長
企業はさまざまな税金を支払っているけれど、会計上は、『利益に関連する額を課税標準としているか否か』で、処理を区別するんだよ
利益に関連する額を課税標準とする税金は、利益から差し引いて処理
課税標準とは何ですか?
経理部新人
社長
課税標準は、税額を算定するための基準となる金額などを指すんだ
税金は、基準となる金額や数量に基づいて算定されます。この基準が課税標準です。
課税標準は税金によって異なります。
社長
法人税は、『課税所得』を課税標準としているんだよ
税法上の課税所得は、益金から損金を差し引くことで求められます。
課税所得=益金-損金
一方、会計上の利益は、収益から費用を差し引くことで求められます。
利益=収益-費用
社長
税法上の益金と会計上の収益、税法上の損金と会計上の費用は、全く同じではないけれど、共通する部分が大半なんだ
……ということは、税法上の課税所得と会計上の利益も、全く同じではないけれども、密接に関係しているということですか?
経理部新人
社長
いいセンスだね!
こうした関係を利用し、税法上の課税所得は、会計上の利益に一定の調整(税務調整)を行うことで算定されます。
つまり、課税所得を課税標準とする法人税と事業税(所得割)は、大きな視点で捉えれば、利益に関連する額を課税標準とする税金であるといえます。
また、住民税は、資本金等の額や従業者数に基づく「均等割」の部分はあるものの、中核を占めるのは、法人税額を課税標準とする「法人税割」です。住民税の「法人税割」は、法人税額が課税標準なので、すなわち、利益に関連する額が課税標準となっています。
社長
利益に関連する額を課税標準とする法人税、住民税及び事業税は、税引前当期純利益から差し引いて処理することで、損益計算書の中で、利益との対応関係が示されるんだ
たとえば固定資産税は、固定資産の評価額を課税標準として算定される税金で、利益に関連する額を課税標準とするわけではないから、租税公課として処理するんですね
経理部新人
社長
会計処理の背景にある理由を理解すれば、処理を間違えにくいだろう
はい! 経理の仕事もなんとかやっていけそうです!
経理部新人
【応用編】事業税はその中身に応じた処理が必要 ~外形標準課税の取扱い
社長
我が社は対象ではないが、事業税については外形標準課税の部分があるんだ
先ほどの表の『付加価値割』と『資本割』ですね。この部分の課税標準は、課税所得ではありませんね
経理部新人
社長
だから、事業税の『付加価値割』と『資本割』は、原則として販売費及び一般管理費の租税公課として処理するそうだよ
法人事業税の外形標準課税は、資本金1億円超の企業などが対象です。外形標準課税の部分は、課税標準が課税所得ではないため、原則として、販売費及び一般管理費の租税公課として処理する点に留意が必要です。
「税金の会計処理」
法人税、住民税及び事業税は、利益に関連する額を課税標準として算定されます。そのため、会計上は、損益計算書において利益との対応関係を示すことができるように、税引前当期純利益から差し引いて処理します。
固定資産税や印紙税など、利益に関連する額以外を課税標準とする税金は、原則として租税公課の勘定科目で処理します。
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