売掛金回収に要注意?! 売上債権回転期間を使った、怪しい売掛金の分析方法とは?

2023年6月13日

※本記事は2024年10月1日にタイトル及び内容の一部を更新しました。
旧タイトル「売掛金回収に要注意?! 新任管理部長が使った、怪しい売掛金の見抜き方とは?」

質問

「MJSトレーディング」は得意先X社・Y社・Z社に継続的に商品を納めています。販売代金の回収条件は納品の30日後となっています。代金の回収に関して最も懸念されるのは、次のうちどの得意先でしょうか?

パターン1

X社への月々の売上が30百万円、売掛金残高が15百万円のケース。

パターン2

Y社への月々の売上が15百万円、売掛金残高が15百万円のケース。

パターン3

Z社への月々の売上が5百万円、売掛金残高が15百万円のケース。

この質問をイメージして以下のストーリーをお読みください。

分析
電卓

売上債権回転期間(売掛金回転期間)の分析で売掛金の回収が正常な状態に近づいた!

各種工業製品の輸入販売業を営む「MJSトレーディング」は、資産の中でも売掛金が大きく、その回収管理に課題がありますが、管理部門や営業部門が売上債権回転期間(売掛金回転期間)の分析方法を理解したことで、遅れがちだった売掛金の回収も、正常な状態に近づきつつあります。

しかし、1年前のMJSトレーディングは売掛金の回収管理が疎かになっていたのです。

1年前 ~異常点を察知できず、売掛金の回収で問題発生

1年前、MJSトレーディングは月々安定して売上を計上できており、業績は好調のようでした。社長、営業担当役員、(当時の)管理部長ら経営幹部が話をしています。

営業担当役員 今月もわずかではありますが前月を上回る売上を計上できました。残りの期間もこの調子で営業を進めていけば、当期の売上目標は楽にクリアできそうです!
社長 おー、頼もしい限りだ。引き続きよろしく頼む。さて、次は管理部長から資金繰りの状況について報告してくれ
管理部長 はい。先程、営業担当役員からも報告がありましたように、売上目標はクリアできそうな状況で推移しています。経費が膨らまないように注意していますので、利益目標もクリアできそうです。その一方でちょっと気になっているところがありまして……
社長 どういうことだい?
管理部長 どういう訳か、このところ徐々にですが資金繰りが厳しくなってきているように思います。場合によっては、短期での資金借入をすることも念頭に置いて銀行とも話をしなければならないかもしれません
社長 そうなのか。売上は好調だというのにどうしてなんだろうな……
一同 ……
社長 まぁ資金借入については管理部長の方で銀行に当たってみてもらうことにして、営業担当役員には引き続き売上拡大に注力して欲しい

質問

「MJSトレーディング」は得意先X社・Y社・Z社に継続的に商品を納めています。販売代金の回収条件は納品の30日後となっています。代金の回収に関して最も懸念されるのは、次のうちどの得意先でしょうか?

▼あなたの思うパターンをクリック▼

パターン1

X社への月々の売上が30百万円、売掛金残高が15百万円のケース。

パターン2

Y社への月々の売上が15百万円、売掛金残高が15百万円のケース。

パターン3

Z社への月々の売上が5百万円、売掛金残高が15百万円のケース。

月々の売上が30百万円で売掛金残高が15百万円の場合、0.5カ月分の売上に相当する売掛金が残っていることになります。販売代金の回収条件(納品の30日後)と比べて売掛金残高が小さく、回収が懸念される状況ではなさそうです。

月々の売上が15百万円で売掛金残高が15百万円の場合、1カ月分の売上に相当する売掛金が残っていることになります。販売代金の回収条件(納品の30日後)とほぼ同じ売掛金残高であり、回収が懸念される状況ではなさそうです。

月々の売上が5百万円で売掛金残高が15百万円の場合、3カ月分の売上に相当する売掛金が残っていることになります。販売代金の回収条件(納品の30日後)と比べて売掛金残高が3倍もあり、回収が懸念される状況に陥っているおそれもあります。原因や状況を詳しく調べてみる必要があるでしょう。

決算書から売掛金に現れた異常点を察知! ~管理部長が実施した決算書分析とは?

MJSトレーディングでは、売上は好調だというのに資金繰りが厳しくなってきているという問題自体は解決しないまま、その後もさらに売上拡大に注力していました。

それからしばらく経って、管理部長が定年退職し、新任の管理部長がやって来ました。新任管理部長はMJSトレーディングの数期分の決算書を見るや、ある点に気付きました。

新任管理部長 あれっ、何か売掛金残高が変だぞ。もっと詳しく見てみる必要があるな

そして、新任管理部長が調査をしていくと、MJSトレーディングが抱えていた問題として、滞留売掛金の増加、そして貸倒れの発生などが表面化することになりました。

これまでのMJSトレーディングではこうした問題をまったく察知できていなかったのです。この件は直ちに社長に報告されました。

社長 こんなに問題があったとは……。しかし、なぜすぐに問題の箇所が分かったんだい?
新任管理部長 売掛金の残高と売上高とを比較してみたんです。売上と比べて売掛金が多過ぎるんです。特にこのところ、売上の拡大と比べて売掛金の拡大が異常に大きいのです
社長 と言うと?
新任管理部長 売上が2割拡大し、売掛金も2割拡大しているのなら分かるのです。しかし、売上が2割拡大したときに、売掛金が2倍になっていたらどうでしょう?
社長 確かにそれはおかしいな
新任管理部長 売上が拡大した分、売掛金も拡大したとすれば、「売掛金残高÷売上高」はだいたい横ばいになるはずなんですが、これが急激に大きくなっていたんです
社長 そうだったのか

新任管理部長は、「売上債権(売掛金)残高÷売上高」で計算した「売上債権回転期間(売掛金回転期間)」の分析をして、異常点をつかんだ上で、そこを詳しく調べていったのでした。

売上債権回転期間(売掛金回転期間)の分析方法、分析から分かること

売上債権回転期間(売掛金回転期間)を計算すると、何日分(あるいは何カ月分)の売上に相当する売上債権(売掛金)残高があるかが分かります。これによって、売上を計上してから回収するまでのだいたいの期間が分かります。これを販売代金の回収条件と照らし合わせてみると、回収条件どおりに回収できているのかをザックリとチェックすることもできます。

例えば、「販売代金の回収条件は納品の30日後(=1カ月後)」ということであれば、以下のように売上債権回転期間(売掛金回転期間)(月)を計算し、それを「1カ月」と比較してチェックすることができます。

売上債権回転期間(売掛金回転期間)(月)=売上債権(売掛金)残高÷1カ月当たり売上高
 (注)1カ月当たり売上高=年間売上高÷12カ月

売上債権回転期間(売掛金回転期間)の分析方法の具体例

【表】得意先別の売掛金回転期間の計算

売掛金残高
1カ月当たり売上高
売掛金回転期間
①÷②
パターン1(X社) 15百万円 30百万円 0.5カ月
パターン2(Y社) 15百万円 15百万円 1カ月
パターン3(Z社) 15百万円 5百万円 3カ月

パターン2(Y社)は売掛金回転期間が1カ月(=売上1カ月分の売掛金残高)であり販売代金の回収条件(1カ月後)と概ね一致しています。パターン1(X社)は売上0.5カ月分の売掛金残高であり、回収条件よりも短い状況です。一方、パターン3(Z社)は売上3カ月分もの売掛金がまだ残っている状況ですから、X社・Y社・Z社の中で代金の回収に関して最も懸念されるのは、Z社ということになるでしょう。

売上債権回転期間(売掛金回転期間)が販売代金の回収条件と比べて相当程度長い場合や、売上債権回転期間(売掛金回転期間)がどんどん長くなっているような場合は、売上債権(売掛金)の回収に関連した問題が原因になっていることも少なくありません。

現にMJSトレーディングでは、売上を拡大したいがために、財務内容が良くない相手先にも販売した結果、代金の回収が遅延しているものが多くありました。また、営業担当は売上には関心があるものの代金回収に対する意識が低めで、請求漏れのまま放置していたり、得意先の都合の良いときに払えば良しとしていたりしました。中には架空売上を計上した結果、売上債権(売掛金)が一向に回収されていないものまでありました。

新任管理部長の指摘をきっかけに、これまで営業部の外からは見えていなかった問題点にメスが入り、MJSトレーディングでは改善のための取り組みを始めたのでした。売上債権回転期間(売掛金回転期間)を重要指標と位置付け、定期的にウォッチすることもその一つとなりました。

ワンポイント解説

「売上債権回転期間(売掛金回転期間)の分析」

売上債権(売掛金や受取手形、電子記録債権等)回転期間は売上と売上債権の関係を分析する指標であり、次のとおり計算します。
 売上債権回転期間=売上債権残高÷売上高
 (売掛金回転期間=売掛金残高÷売上高)
売上債権の回収に関わる問題や不正な売上計上などを察知するのにも効果を発揮します。

関連リンク

売上債権回転期間(売掛金回転期間)に興味のある方はコチラもご覧ください。
「売上アップでも資金繰りが厳しい状況から抜け出す方法とは?」(経営センスチェック2017年1月23日号)

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