進まない経営会議を変える方法は、食卓に並ぶオムライスが教えてくれた
2016年7月13日
質問
会計資料があっても何も決められない経営会議。あなたが「みろくスマケー」の経理部長なら次のうちどの行動をとりますか?
パターン1
営業会議などの主要な会議体に出席させてもらう。
パターン2
準備すべき資料について、事前に細かく経営陣に確認する。
パターン3
資金に余裕はあるため、外部の会計コンサルタントに相談する。
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経営陣が確認したいことが分かっている経理部長
スマートフォンのケースのオンラインショップを運営している「みろくスマケー」は、創業以来、急成長し続けているネット企業です。これまで品ぞろえの少なかった機種に特化して、専門のデザイナーがデザインしたかわいくておしゃれなケースを取りそろえることで、若者を中心に絶大な支持を集めています。まだ創業して5年目のベンチャー企業なのですが、業績とともに社員数も倍々で増えており、現在は経営陣含めて30名ほどの規模になりました。デザイナーやWebサイトのエンジニアだけでなく、経理部など間接部門の強化にも力を入れており、変化の速いこの業界でもスピード感を持った経営を実現しています。
そんな「みろくスマケー」の経営会議では、経営陣から経理部長によくこういった質問が投げかけられます。
社長 | 出荷量が増えるとともに物流コストも増え続けてるんだけど、これってどうにかできない? |
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役員A | ビジネスが順調に拡大してきてるけど、現預金ってどれくらい持っておけばいいんだっけ? |
役員B | スマホケースだけでなく新しい事業にもチャレンジしたいんだけど、今ってどれくらい余裕がある? |
経営陣から投げかけられる質問に対して経理部長はよどみなく答えていきます。そのおかげで経営陣は大事な時間を無駄にすることなく、重要な意思決定についての議論に集中することができるようになりました。
経理部長が経営参謀として成長してくれたおかげで、経営会議の質は劇的に上がりましたが、2年前までは重要な意思決定を行う場として機能しているとは言えない状況が続いていました。
2年前 ~無駄な時間が多い経営会議
2年前の経営会議では、一通り報告を終えた経理部長に対して、まず資料の見方などを確認するところから始まりました。
社長 | この資料に書いてあるこの数字は何の金額だっけ? |
---|---|
役員A | 予算通りに進んでるか分かる資料はあるんだっけ? |
役員B | 今月は、接待交際費が多かったみたいだけど、内訳ってどこを見れば分かるんだっけ? |
経理部長は内心、今説明したばかりなんだけどなと思いながらも、資料の見方などについてもう一度説明します。資料の見方についての確認が終わると、その後は、経営状況の分析そっちのけで経理部長に対して要望の嵐が始まります。 | |
社長 | もう少し違う分析もしてくれないかな |
役員A | もっと見やすい資料にならない? |
役員B | うーん、なんとなく違うんだよなー |
全員 | それじゃ頼むよ! みんな忙しいんだから、もっと質を上げてね |
経営陣の漠然とした要望を必死にメモしながら、それならもっと早く欲しい資料を具体的に教えてくれよ……と、つい出そうになるため息をこらえる経理部長という構図が、当時の経営会議でのお決まりのパターンでした。
質問
会計資料があっても何も決められない経営会議。あなたが「みろくスマケー」の経理部長なら次のうちどの行動をとりますか?
▼あなたの思うパターンをクリック▼
パターン1
営業会議などの主要な会議体に出席させてもらう。
パターン2
準備すべき資料について、事前に細かく経営陣に確認する。
パターン3
資金に余裕はあるため、外部の会計コンサルタントに相談する。
実は「みろくスマケー」の経理部長が選択したのはパターン1でした。経理部長は、創業メンバーではありませんが、これまで当社の経理規定を一から策定するなど、ルール通り正しい経理処理が実施できるように尽力してきました。そのかいあって、金融機関と話をする時に経営会議のようなダメ出しをされることはなく、むしろ、創業間もないベンチャー企業とは思えないレベルだと感心されるくらいでした。
自分が取り組んできたことは間違っていないという自負もあり、当初、経理部長の心には経営陣のわがままにこれ以上付き合っていられるか! という思いが巡っていたのですが……。
確かに事前に細かく確認しておけば、その部分については満足のいく資料を準備することができるでしょう。それを繰り返すことで、確認をとってから資料を準備するまでのスピードが速くなるといった“作業の効率化”も図られるかもしれませんが、それだけだと経理部は作業をする部門から抜け出せません。急成長中でただでさえリソースが必要な状況ですので、経営陣としても単なる作業部門でとどまってほしくないところでしょう。
また、会議の流れの中で確認したくなることも出てくるでしょうから、事前に確認をとった資料だけで十分とは言えないかもしれません。
確かに外部のコンサルタントを雇うことで、自社の弱い部分をバックアップしてもらえるかもしれません。資金力があれば、優秀なコンサルタントに依頼することも可能でしょう。ただ、さまざまな部署から情報を吸い上げていかなければならない経理部の場合、社内にネットワークを持っていることが財産になったりもします。優秀なコンサルタントとは言え、外部の人間に情報を提供することに抵抗のある人もいるかもしれません。必要な資料は分かっているけど、今度はその資料のもとになる情報を集めることに苦戦し、結局、問題点が変わっただけということにならないように気を付けたいところです。
また、コンサルタントにお任せ状態にしてしまうと社内にノウハウが蓄積されませんので、その点も注意して取り組む必要があります。
ターニングポイントは“受け手の視点”を考えることだった
ある日の夕食、テーブルに並べられたオムライスを見て経理部長は感心しました。
経理部長 | マメだねー。わざわざケチャップでこんな絵まで描いて |
---|---|
妻 | それで食べてくれる量が全然違うのよ |
経理部長 | へー、子供ってそういうもんなの? |
妻 | 相変わらず子供のこと分かってないわねー。子供に食べさせようと思ったら、こういうことが大事なの! 見た目だけじゃなく、材料の切り方や味付けだって変えてるのよ |
経理部長 | 同じ素材でも相手によって、見せ方や加工を変える必要があるってことか |
妻 | あなたも、もう少し育メンになれば子供の視点で物事を考えられるようになるんじゃない? |
実際、妻の言った通り、子供はうれしそうにオムライスを食べ切りました。同じ素材を使った料理でも相手の視点に立って盛り付けや加工の方法を変えていることを知った経理部長は、経営会議での自分の資料や報告も同じことなのではないかと考えるようになりました。 報告の受け手である経営陣と、自分の視点は何かが違っているのかもしれないと思った経理部長は、早速、社長に確認してみました。 |
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経理部長 | 私は経営会議で報告する資料として、金額の正確性とルールにのっとった処理を大事にしていたんですが、社長はどのようにお考えでしょうか? |
社長 | もちろん大事な要素だと思うけど、それは当たり前のことであって、少ないリソースでいろいろなことをやっていかなければならないベンチャー企業の場合、それだけだと正直ちょっと物足りないかな。税務署とか金融機関とか外部向けの報告はきっちりこなしてもらいながら、僕ら経営陣から見て役立つような内部向けの資料をどんどん提供してほしいんだよ |
経理部長 | やっぱり私と経営陣の視点は違っていたみたいですね。何とか経営陣の視点で資料を用意できるようになりたいんですが…… |
社長 | それじゃ、各部署の主要な会議に出席してみたらどうだろう? |
経理部長 | それは、もちろん構いませんが、会議に出ると何が分かるのでしょう? |
社長 | 会議に出席すれば、各部門が何を大事だと考えて、どんな努力をしているのかが分かると思う。そうすると、だんだんこんな情報を必要としてるんじゃないかというイメージがつかめてくるはず。つまり、経営陣の視点が分かってくる! それが分かれば、あとは会計のプロじゃない僕らが見ても理解しやすい資料になるように、見せ方を工夫してみてほしい |
つまり、会計のプロである経理部長の視点で作られた資料、報告される内容は、経営のプロである経営陣から見ると、食欲をそそる料理になっていなかったのです。食べる人を意識して同じ料理でも違う盛り付けや味付けをするように、素材となる会計データは同じでも、情報の受け手・使い手の視点で見せ方や加工を工夫しなければ、データが価値ある情報にはならないということに気が付きました。
このことがきっかけで、経理部長は経営陣が何を考えているのか、彼らが知りたい情報は何なのか、そして彼らにとって分かりやすい資料とはどんなものなのか、経営陣の視点で考えるようになりました。
また経理部長が各種会議に出席するようになったことで、役員と経理部長の接触頻度が高まり、コミュニケーションが円滑になりました。それによって、相手がどのようなことを重要視しているかも理解しやすくなり、経営陣の視点を把握することに役立ったようです。
そして、試行錯誤を繰り返していく中で、経営陣から経理部長へ投げかけられていた、資料の見方に対する質問や漠然とした要望は、いつしか経営参謀に対する相談へ変わり、その結果、経営会議の質は劇的に高まったのでした。
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